第8夜 正々堂々
ある人は諭した。
欲望のままに生きるのは獣と同じだ、と。
その自由には本質がない、規則の上にこそ自由は成り立つのだ、と。
だが、とある少女は言い返した。
――私の自由を歪めたのは、その規則だ、と。
◇
目を覚ますと、アガピに膝枕をされていた。
寒すぎず、暑すぎない。心地よい温度と柔らかな感触。耳元で規則正しい拍動が聞こえる。
……このままでいたい。
うん、このままでいっか。
再び眠りに落ちようとした、その時だった。
「ん? ああ、起きた? お疲れ!」
そう言って、アガピがニカっと笑う。
眩しい。癒やされる。
「かっこよかったよ! 特に殴り合ってたところ!
それにさ、あれで実質A級昇格だね! おめでと!」
「ああ、ありがとう。俺、どれくらい寝てた?」
「んー、3時間くらいかな。あと1時間もしたら準決勝だから、そろそろ起こそうかなって思ってたんだけどね」
「パロスは? 勝ったか?」
「うん、危なげなくね。すっごく強くなってたけど、相手もそれなりだったし……イェネロスとはいい勝負になると思うよ」
おそらく、アガピの言う通りだ。
少し話しただけでも、パロスが以前より格段に強くなっているのは分かった。
問題は――
試合中、モルトの声が聞こえ、力を合わせ始めてからの俺と互角かどうかだ。
さすがに、クリファより強いとは思えないが。
……よし。
相手のことを考える前に、自分だ。
俺はこの大会で優勝しなければならない。
それが、師匠の卒業試験の合格条件だからだ。
ならば、手っ取り早く強くなる必要がある。
最優先は、モルトとの連携を深めること――だが、どうすればいい?
「『さあな。我もこんなことは初めてでな、正直よく分からん』」
いきなり頭の中に声が響き、思わず肩が跳ねる。
「『そもそも我らは貴様らの言う“超次元”のような場所にいて、そこからマナを送っている存在だ。
周囲で同じことをしている者も見たことがない。よほど波長が合ったのだろうな』」
……そういえば。
なぜモルトは、ここまで俺に協力してくれているんだ?
「『深い意味はないぞ。なんとなく、我の力の片鱗を使っているお前が弱いのが許せなかっただけだ。
どうせなら最強になるまで育ててやろう、とな』」
なるほど、意外と雑な理由だった。
「『だからお前は、強さだけを追い求めていればいい。
ああ、それと――我のことを他人に言うな。面倒なトラブルで死ぬなど、馬鹿らしいからな』」
代償がなさそうで一安心だ。
それに、確かにモルトの存在は伏せておくべきだろう。
クリファ戦で感じたのは、あくまで俺がモルトの指示通りに動いていただけで、肉体の主導権は俺にあったということ。
だが、それは“主導権がある”というだけだ。
重要な場面で意思が食い違えば、それだけで致命傷になる。
「『結局、地道に慣らすしかあるまい。
動き出してからは悪くないが、奇襲や予想外の一手にはまだ弱い。経験を積め』」
そんなに都合のいい話はない、か。
剣を振るにしても、まだ無駄が多い。
より速く、より強く、最短距離で――
相手を叩き潰す。
「おーい、そろそろだよー」
アガピの声に我に返る。
もうそんな時間か。
「よし、行くか」
「『さっさと行け。無駄に格好つけるな』」
……うるさい。
◇
「さあ、みなさんお待ちかね! 準決勝を開始します!
本大会に集った選手は、のべ1000人!
その頂点へ進むのは、Aランクに選ばれし4人の精鋭!
それでは紹介しましょう! 準決勝第一回戦――
イェネロス選手 VS パロス選手だァァァァ!!
両者構えて……見合って……Fight!!」
「久しぶりだな、イェネロス。いい勝負をしよう」
「当たり前だ」
互いに構える。
パロスの構えは、これまでと違う。
戦士としての構え――そして、それは俺と瓜二つだった。
同時に踏み込む。
技量、力、ほぼ互角。
……おい、モルトを憑依させてるのに、なんで力まで互角なんだ!?
だが、俺には師匠と戦い続けてきた経験がある。
先ほどの試合のような、どうしようもない差はない。
そして、パロスは俺と同じ流派。
――つまり、動きが読める。
ならば、想定外で崩すだけだ。
《銀河剣 ガイハート》を投げつける。
驚いたな、パロス。
試合形式の剣技も悪くないが――格上の化け物には通じない。
間合いを潰し、剣を弾く。
あとは――察しの通り、殴るだけだ。
観客席から「うわぁ……」という空気が流れるが、関係ない。
勝てばよかろうなのだァァァァ!!
……あ、待って。
アガピたちまで同じ顔してる。
やめてくれ、そんな目で俺を見るなァァァ。
――集中しろ。
こんな(わりと重要な)ことを考えてる暇はない。
場の空気を変えるため、俺は叫んだ。
「パロス! 目は覚めたか?
お前、周りの意見に流されすぎだ!
俺がやりたいのは、お前との全力勝負だ!
答えるかどうかは――お前が決めろ!」
「……ああ。すまん。
今、やっと分かった。俺、くだらないことを考えてた」
パロスは笑う。
「これからは全身全霊でお前を倒す。
仕切り直しだ――始めよう」
同時に剣を拾い、斬りかかる。
先ほどとは違う。
互いに、限界を捻り出す。
剣戟は加速し、肉と骨が悲鳴を上げる。
――だが、関係ない。
求めるのは、ただ勝利。
……拮抗した勝負は、突然崩れた。
体勢を崩した俺に、パロスが踏み込み追撃――
だが、床が沈む。
そこは、クリファが叩き割った場所。
俺は、意図的にそこへ誘導していた。
「『き、汚ねえ!』」
うるさい。
さっきも言っただろう?
――勝てばよかろうなのだ。
そして俺は、パロスにとどめを刺した。
更新が遅いって?しょうがないだろう、忙しいんだから




