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第6夜 苦戦

男は周囲の誰よりも強かった。

男は周囲の誰よりも優しかった。

男は周囲の誰よりも正義に燃えていた。

そして——周囲の誰よりも、残酷なほどに“無知”だった。

自分の試合を終え、観客席に戻るとアガピが手を振った。隣に並んで、次々と行われる予選を眺める。どの試合も激しい、いい勝負だった。

……最後の一戦を除けば。

残った二人のうち一人が突然棄権したのだ。試合間に呪文でマナを全回復できるのだから、疲労や温存とは無縁のはず。それでも棄権した理由が読めなかった。

パロスも勝ち進んでいた。昔は爆発玉などの搦め手を使って戦う戦法だったが、今はただの剣一本。

隠したいのか。変わりたいのか。それとも——自分を誤魔化したいのか。

決勝トーナメントも俺は一試合目から。

相手はさっき棄権したあの男。勝つつもりではいるが、胸の奥に小さな棘が残った。

ペリバは知っていた。

パロスが剣一本でイェネロスを倒そうとしている理由を。

彼女の村では、彼の本来の戦法は“邪流”と呼ばれ、忌避されていた。

だからこそ、ペリバはパロスの“勝つことに貪欲な姿勢”を好んでいた。

周囲の意見などどうでもよかった。

感じる必要すらない、そう思っていた。

——だが、パロスだけは違った。

周りの声を嫉妬だと笑っていたが、その中には事実も含まれている。

勝っても負けても、ペリバの気持ちは変わらない。

それでも、今の戦い方はどこかパロスらしくないと感じてしまう。

(あ〜……でもパロス本人がいいなら、別にいいんだけどさ)

彼女は願う。

この試合が、彼らの関係——そして“私たち”の関係を壊さないように、と。

「では、トーナメント第一試合——スタートです!」

アナウンスの声とともに、空気が張りつめる。

相手の男は大柄で、岩のような体格だった。《暴走龍 5000GT》を憑依させ、拳で戦うスタイル。だがその瞳の奥には、不可解な影が差している。悲しみのような、諦めのような。

考えている暇はない。失礼だ。

深く息を吐き、集中を研ぎ澄ます。

相手は強い。だが武器はない。

リーチを生かして斬り込む。

《銀河剣 ガイハート》を握り、《龍覇 グレンモルト》を憑依させ一気に踏み込む。

しかし剣は水流のようにいなされ、重心が崩れた。

——勝てない。今のままでは。

拳が殺到する。

一撃ごとに思考が削られ、視界が揺れる。

防ぐのが遅れ、逃げる隙もなく、ひたすら打たれ続けた。

剣が弾かれ、手から離れたとき、胸の奥に冷たいものが落ちた。

「弱いな。お前、人を助けるためにA級になりたい、とかそんな目をしてる」

「? …俺は……仇を取りたい。みんなの……」

「ほう。なぜだ?」

「そうすれば……みんなの魂が報われると……思ったからだ」

「そうか。昔の俺に似てるな。……反吐が出るぜ」

乾いた音とともに拳が頬を砕き、身体が宙を舞う。

「言っておく。お前は“自分の欲”のために全てを差し出せない。

 だから俺に勝てない」

戦いが再開される。

劣勢という言葉では足りないほど追い詰められていた。

そのとき——声が響いた。

「『おい、何をしている!』」

渋い。

悪く言えば、おっさん臭い声。

え? 誰?

「『誰がおっさんだ!! ……まあいい。俺はグレンモルト。お前の相棒だ。

 そんなことより、ボコ殴りにされ続けるつもりか?』」

……うるさい。今忙しいんだよ。なにか用だ?

「『はぁ……いいかよく聞け。相手は力も技量も、超獣との連携もすべて上だ。

 じゃあ、俺たちが勝つためにできることは?』」

……連携を、うまくする……?

「『That's right。

 さあ、お前は俺に合わせろ。

 ここからが——反撃だ』」

ざ? え? どういうこと——?

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