番外編-過去
その存在の名は日和見。正義にも悪にも癒着しないハグレモノ
彼らは自身の欲望に忠実に動く。
それこそがこの世界での生きる術なのだ。
◇
俺は幸せだった。アイツらが来るまでは。俺の故郷が破壊されるまでは。
いや、実際幸せだったのだが本当の意味で理解したのは何もかもが破壊された後だった。俺自身も理解している気でいただけで理解していなかったのだ。人は失わないと持っていた物の価値を理解するのはできないのだ。
ある俺が《銀河大剣 ガイハート》を抜いた日、村ではお祭り騒ぎになった。数百年振りの救世主の登場だと。
違和感を感じたのは俺は神輿に担ぎ上げられ、村を巡っていき、英雄達が祀られている神社まで行き、その帰りのことだった。
なんとなく嫌な予感がした。普段では全く信じない第6感。だがどうしても不安だった。里には自分と剣の腕では互角かそれ以上の大人たちが何人もいた。それなのに動かす足がどうしても速くなる。悲鳴が聞こえたような気がした。血が流れている気がした。
隣にいた大人たちも何かを感じ取ったのだろう。俺たちはいつのまにか駆け出していた。
鼻が曲がるような匂いや耳を塞ぎたくなるような悲鳴が聞こえても俺は必死に心のどこかで否定しようとしていた。どうにか無事でいてくれ。どうか。普段は信じてもいなかった神に祈りながら。
騒乱に駆けつけた俺たちが見たのはボロボロになった里とグチャグチャに引き裂かれ原型をとどめていないたくさんの死体と血塗れになった祭りにあやかるために来たはずの商人どもだった。
「テメェ!俺たちの村に何しやがった!」
腹の底から憎悪の言葉をだす。
「ホッホッホ、私は大商人カイロスが一人、傲慢のアラゾネ。幸福の元にやってくる商人です。あしからず」
「うるせえ!戦士達が一瞬でやられるわけないだろ!」
「そのまさかですよ。我々の大好物は絶望。幸福から絶望のどん底に落ちるのがだ〜い好きなのですよ!」
「貴様ッ」
俺と村の俺と一緒にいた戦士達は一斉にカイロスに飛び掛かる。だがその次の瞬間には周りの戦士達は殺されていた。
「イイですねぇ、イイですねえ!その表情、ああ、どうして絶望の味はこんなに美味しいのでしょう!」
ヤツが放った軽い前蹴りで俺は吹っ飛ぶ。《銀河大剣 ガイハート》で防御したはずなのに体に響く。一体どんだけ強いのか想像もつかない。
「俺の心に答えてくれ、《龍覇 グレンモルト》、《銀河大剣 ガイハート》ッ!」
心が奮い立つ、とんでもない強さと相対した俺の心にあったのは恐怖でも絶望でもなく、勇気と愛だった。
その時《龍覇 グレンモルト》は俺に憑依し、《銀河大剣 ガイハート》は目覚める。《熱血星龍 ガイギンガ》の姿となって。そして声が聞こえた。
「「その想いよかろう。我がお前に力を分け与えてやろう」」
「お前は俺が許さねえ!」
「クフフ、面白いッ、まだ心は折れませんか、少し遊んであげましょう!」
俺は《熱血星龍 ガイギンガ》を握り締め、奴に向かって振り下ろす。奴とぶつかった余波で大地は軋み、あたりは燃え盛る。
「《二刀流 トレーニング》ッ」
《熱血星龍 ガイギンガ》は2方向から不可避の斬撃を放つ。それはありとあらゆるものを消滅させるはずだった。だがそこに残ったのは力を使い果たし、《銀河大剣 ガイハート》に戻った《ガイギンガ》と傷一つついていないアルゾネだった。
「面白いモノを見せてあげましょう」
そしてアルゾネはおもむろに《D2M マグラカツラ》を憑依させると《レインボー・ヘル》を発動させる。
それは俺の体を徐々に蝕んでいく。底なしの痛み、もし俺が一人なら耐えられなかっただろう。しかし今の俺には仲間がいる。なんとか体が崩壊するのを免れることができた。
「ねえ、まだ〜アルゾネ?」
「ええ、今行きます、ズリエボ。あなたも精々頑張ってください。そうしたら案外、道も開けるかもしれませんよ〜?」
「そいつ、いい顔してるねぇ。あたしがいたぶりたいぐらいだよ」
「フフフ、ダメですよ。コレは私の獲物なんですから」
奴らが去っていったのを見ると、最後の力を振り解き、《レインボー・ヘル》を振り解く。それと同時にアガピが心配そうに駆け寄ってくる。
「大丈夫!?」
無事だったんだ...よかった...本当によかった...
◇
というのが俺の過去であり、カイロス達を倒すのが当分の目標なのだ。
◇
水面下では2度目の侵略者達の侵略が開始されようとしていた。前回は転移門の周りの森で殆どの軍団が倒されてしまったので今度は少数精鋭で攻めることになったようだ。今回はS級侵略者達も参加するようだが果たして...




