第三夜 先駆者
その少年は先駆者だった。その後輩にとっての。
その後輩は少年と学び、戦い、やがて少年にとってかけがえのない存在になる。
ある日、少年はまた先駆者となった。
◇
試験から1日経った。協会の寮に泊めてもらっているため泊まるところには困っていない。むしろかなり快適だ。まだ任務を一回も受けていないのに見事な高待遇だ。いかにこの仕事が大変かがわかる。ちなみに給料は受けた任務によって変わるらしい。
今日は初めての任務&先輩(お目付け役)との初会合だ。
◇
先輩がきたのは集合時間ギリギリだった。これだけを聞くとだらしない人を思い浮かべるかもしれないが、本質は全然違う。集合時間ぴったりだったのだ。そう、1秒たりともズレていなかった。約束は守らなくてはならないという常識と他人に自分の時間を割きたくないという考えが入り混じっていることがよくわかる。見た目は20いったか、いってないかぐらいの美青年だ。着物を着て腰に刀をつけている。いかにもサムライという格好をしている。
「よお、俺がお前達の指導係になるアーシェだ。言っとくが俺は優しくないからな。もしこの仕事を続けたいなら俺の言うことには絶対服従!せいぜい本気で喰らい付いてくるんだな。見習いのお前達には俺の仕事の手伝いをしてもらう」
◇
火文明に属するチョリオ村では、伯爵領の駐留軍が戦っていた。
「コイツッ、教会の方に行こうとしている!?生存者や死体も食い散らかす気か!?」
俺は駐留軍の上等兵。名前はA。名前がAだからといってAランクに相当するわけではない。テキトウな名前だって?うるせえよ!今は上からの命令を受けて、伯爵領の城塞都市にこの化け物《侵略者 ブルンブル》がたどり着く前に討伐せよと命を受けたのだがどう考えても無理ゲーである。こんなの倒せるのは協会のBランク以上の騎士だけだよ!
「落ち着け、ここは俺が時間を稼ぐ。お前は応援を呼んでこい」
兵隊長がそんなことを言った時、隊長は《侵略者 ブルンブル》に轢き殺される。「隊長ぉぉ!」とか言った時には遅かった。俺もここで終わりか・・・
◇
小一時間後、連れて行かれたところは殺伐とした雰囲気の村だった。戦闘音が奥でこだましている。どうやら奥でまだ生存者がいるようだ。
「俺があの《侵略者 ブルンブル》を迎え撃つ。お前達は足手纏いを現場から離せ」
「ちょっとその言い方はないでしょう」
「そうです。あんまりですよ」
「ああん?黙れよ。絶対服従だって言ったろ?第一、俺たちは正義の味方ではねえ。優先順位考えろ」
冷たいようだが確かにそのとおりだ。生きているか分からない人たちよりも確定している者達を救う。それにこれは任務外なので助ける必要もないのだ。だが言われた通りにやるのはなんかムカつく。ということで全員助けることにした。
「はーい皆さん、お分かりだとは思いますがここには化け物がいるので速やかに避難しましょう」
「皆さんは我々について来てください」
アガピが村人たちに《キリモミ・ヤマアラシ》をかける。呪文ってホントに便利だね。
◇
アーシェは1人、《侵略者 ブルンブル》と対峙していた。アーシェはその身に《ボルメテウス・武者・ドラゴン》を宿し、戦意を奮い立たせる。
「こい、《ゴウソク・タキオンアーマー》」
そしてその身を守るのは自身のスピードを強化する《ゴウソク・タキオンアーマー》。
《侵略者 ブルンブル》はアーシェが一筋縄ではいかない相手だと察知したのか1度距離をとり、最高速度まで加速して轢き殺そうとする。しかしそこは既にアーシェの射程圏内だ。
「《戦国無双》」
アーシェは初手から自身の最終奥義を繰り出す。アーシェが刀を鞘に収めた時には塵一つ残っていなかった。その燃え盛る刀が《侵略者 ブルンブル》を刻みながら焼き尽くしたのだ。
◇
「今日の任務は終了だ。帰るとするか」
「・・・先輩って強いんですね」
「お見それしました」
「そんなことねえよ。俺よりも強い奴なんてごまんといるからな」
先輩が照れたように言う。
「・・・先輩が知っている中で一番強い存在はなんですか?」
「そうだな...会ったことがある奴ならこの国のD・Mだが、お伽話に出てくる零のD・Mはそれ以上かもな」
「D・Mに会ったことがあるんですか!?」
「ああ、5年前の侵略者侵攻の時に会って話したことがある。フレンドリーだが、圧倒的な覇気を持つお方だ。《熱き侵略 レッドゾーンz》を瞬く間に倒していた」
侵略者侵攻とはプロタヒコスの森から出てきた侵略者が5つの文明に侵攻を開始した事件だ。特に火、水、闇の文明が大打撃を受けたそうだ。光文明からの情報によると闇文明ではその影響で大量の餓死者が出ているらしい。
「先輩、これからもよろしくお願いします!」
「・・・お願いします」
「照れるじゃねえか、よろしくな」
こうして俺たちには心強い存在ができた。
◇
「支部局長、伯爵領の城塞都市の近くのチョリオ村に侵略者が出現しました」
アーシェが答える。その声は心なしか震えている。
「そうか、大変なことになったな...」
キリオスは重々しく答える。その侵略者は前回の侵攻時の撃ち漏らしなのか、それとも...
「上に伝えた上ておく。お前達も万全の状態を保ち警備を怠るな」
・・・終焉の時が近づいている。