第二夜 合格
ちなみにオモーフィアさんを1話で男と見間違えたのは鎧を着込んでて胸が潰れていたからです。
少女は願った。少年と永遠にいることを。
その願いは幾千の時をも越える。
しかし少女は知っている。この世に永遠などないことを
◇
「ここがあのプロスタシア協会か...」
城塞都市「イアシ」もなかなかだったが協会の建物もそれに劣らず迫力がある。これが火文明を代表する互助組織か...
「見えてきたよ、「ペラセ」支部が」
お姉さん――名前はオモーフィアというらしい――が言った。倒置法だったがわざわざ強調するとこだろうか。
「誘っておいてなんだが君達の実力をウチのお偉いさん達は知らない。だから試験を受けなくてはならないが、どうする?運が悪かったら死んじゃうかも」
オモーフィアは全く悪びれずに言う。言うの遅くないか?このお姉さんは服装だけでなく、頭も抜けているらしい。
「もちろんです。そうだろ、アガピ?」
「ええ」
アガピもコクリと頷いて言う。
「オッケー。じゃあ、行くよ」
おもむろにオモーフィアがドアを開けると一人の中年がカウンターにいた。正直、見た目はパッとしないが、その放つオーラが只者ではないことを物語っている。
「彼らがそうかい?」
「ああ、そうだよ」
そんな危険物質を扱うように言われましても.....
「コイツ、が言うのだから腕は立つのだろう。最低限の試験で済ませてやる。小僧、お前はな」
「つまり私は試験を受けろと?」
「当たり前だろ?」
アガピが問うと中年の男は言った。
「試験は実地試験だ。俺が召喚する《強戦士フレイム・クロー》を倒してもらう。基本的には何でもありだが俺の作り出す領域の外に出てはならない。どうだ、やるか?」
「ええ」
「フッなかなかの度胸だな。では《チキチキJETサーキット》展開、《強戦士フレイム・クロー》召喚」
どこで試験をするのだろうと考えていたがそんな必要はなかった。どこからともなくリングが出てきた。ていうかコレ出たくても出られないのではないだろうか。
「どうする、逃げるか?」
《強戦士フレイム・クロー》が動いてないことを確認した後おっさんは言った。2度も確認してくれるなんて優しいんだね。
「笑わせないでください。この程度に私が逃げるとでも?」
アガピが挑発する。心なしか興奮しているように見える。こんなに好戦的だったっけ?
「はじめッ!!」
《強戦士フレイム・クロー》が走り出す。なかなか速いもののアガピはその比ではなかった。
アガピは《強戦士フレイム・クロー》の右ストレートを軽くのけぞって躱した後、後ろに回り込み、《熱龍爪 メリケン・バルグ》を発現させ、真っ二つにする。勝負はアガピの圧勝だった
「・・・見事、合格だ」
おっさんが言う。役が見事にハマっている。というか本職の人だったね。
「では君達に協会のルールを教えよう。まずウチに所属している「騎士」達にはそれぞれランクがある。簡単に分けてA〜Eランク。また、クリーチャーやウチの敵対している存在も同じようにA〜Eランクまであるものの、その意味は似ているようで異なる。簡単に言うと「騎士」のAランクは敵のAランクに勝てるように設定されている。まあ、敵の力を完全に見分けられているかは分からんから、目安でしかないがな。ちなみに《デュアルショック・ドラゴン》のランクはBだ」
「ちなみにSランクってのもあるよ〜」
オモーフィアが言う。今までもフレンドリーだったがよりフレンドリーになった気がする。
「ああ、Sランクってのは全文明で協力して立ち向かわなければならない災厄レベルの力だ」
「今までSランクはいたんですか?」
「歴史上だと一人いたと言われている。その名も「零のD・M」圧倒的力を持っていたとされる伝説の存在だ。存命ではないがな」
「零というのは何ですか?」
「分からん。何も分からんから「零」じゃないのか?話を戻すぞ。お前達は今のところEランクなわけだが昇級するには新しいランクになってから5回任務をこなした後、昇級試験を受ける必要がある。どこの支部でもBランクまでは受けられるがAランクは本部でしか受けることはできないぞ。また支部か本部で任務を定期的に受けなければならない。また予定が空いていれば依頼を受けることもできるがタチが悪いことが多いからやめておいたほうがいい。何か質問はあるか?」
「先程《強戦士フレイム・クロー》を召喚していましたがそれは憑依とは違うのですか?」
「良い質問だ。召喚とはクリーチャーに自分のエネルギー、マナを消費させてこの世界に呼び出し、命令に従わさせるものだ。しかし例えば《強戦士フレイム・クロー》を戦わさせている時間もマナを消費するから注意が必要だがな。これより上位のものを呼び出すのも可能だが、強すぎると反逆され、殺される場合もあるらしい。他には質問はあるか?」
「あの《デュアルショック・ドラゴン》はどこからきたのですか?」
「誰かが召喚したのが暴走したのかもしれんが、おそらく「クリーチャーの巣」と言われる場所から来たのだろう。文明の境界沿いにはよくある。他にはあるか?」
「いや、ないです」
「・・・ええ、ないです」
「そうか?まあ、今日は疲れただろうから近所を見てくるといい」
「「ありがとうございました」」
こうして協会での俺達の最初の1日が終わった。
◇
「どうだった?あの2人」
「女の方もなかなかだが、やはり男の方はいいな。あいつはそのうち凄まじい化け物になる」
「そうかい?私はアガピちゃんが不気味に思えたけどね。なんというか力を隠している気がするんだよね」
「まあ、この頃は人手不足だからな。何でも利用する」
「利用している気になって利用されてるかもしれないけどね」
「そんな化け物だったなら策を弄するだけ無駄だ」
騎士達は知らない。これから何が起きてしまうかを。
おっさんの名前はキリオスと言います