第十夜 刺客
宿題多いぜ
大罪──それは人間に刻まれた呪われた異名。
大罪──それは星すら揺るがす意思。
大罪──それは進化の軌跡。
◇
(クソ……馬鹿みたいな高笑いしやがって……)
パロスは目覚めるなり、自分が敗北したことを悟った。同時に、意識が途切れる直前の光景が頭に浮かぶ。
最後に見たイェネロスの顔を思い出した瞬間、パロスの中で何かがぷつりと切れた。周囲の目ばかり気にしていた自分が、急にばかばかしく思えたのだ。それに──
「や、おつかれ。ボロ負けだったね」
自分には、支えてくれる仲間がいる。
「おいおい、パートナーを少しくらい労れよ」
「いや、見事なくらい誘導されてたからさ。どう?なんか吹っ切れた顔してるけど」
「ああ、おかげさまでな。なんというか……今まで悪かった。言い訳したいわけじゃないが、俺、ずっといっぱいいっぱいだったんだ」
「はは、どうしたの急に。何?これからは私にもっと時間を割いてくれるとでも言うの?」
「ああ。支えられるだけじゃなくて、支え合えるようになりたいんだ」
「えっ」
ペリバの耳が赤くなる。やっぱり可愛い。
──これから変わっていく。少しずつ。もう子どもじゃないんだ。
◇
俺、イェネロスは現在、四龍教の僧侶らしき40代ほどの男性に疲労を癒してもらっている。
十字の首飾りを見る限り、間違いないだろう。神の力をなんとかかんとかして治療できるらしいが……俺にもできないかな、これ。
「よし、こんなもんでいいでしょう。ほら、行った行った」
「患者を労うのも僧侶の仕事じゃないんですか?」
「協会から教会へ報酬は入っていますからね。治療自体はいいんですが、決まった額しか出ない以上、やるべき最低限だけやればいいんですよ」
「神に仕えてるんじゃないんですか?ずいぶん金に詳しいようですけど」
「神はそんなことで怒りませんよ。信者が倒れてたら神様だって格好がつかないでしょう。さ、もう出てください。二度と会わないことを祈ってますよ」
「はいはい」
そんな会話をしながら部屋を出ると、アガピが待っていた。
「随分長かったね」
「決勝に行く相手となると、神に仕える方々も本気を出さなきゃいけないらしい」
「こら、そんなこと言わないの。ところでイェネロス、決勝の気持ちはどう?」
「ええ、私の全てを出し切って……ってなんだこれ。まあいいや。うん、頑張るよ。相手も強そうだし」
「だね。クリファも予選で戦うの避けてたし、全身鎧もなんか高そうだし。まあ頑張れ!あと、あの人ちょっと変な感じするから気をつけてね」
「了解」
◇
「ではこれより決勝戦!エクトス選手対イェネロス選手!よーい、スタート!」
見合った瞬間、相手が話しかけてきた。
「……いやはや、こんなことってあるんですねぇ。どんな確率です? いや、あいつが仕組んだんでしょうね。はぁ、彼女に任せておけばいいでしょうに。どうせ飛んでくるんでしょうし」
「ん?その声、どこかで……」
「まあそうでしょう。観客も多いですし、いいでしょう。こんにちは。そして、お久しぶりです。私の名はズリエボ。あなたの村を襲った者ですよ。もう一人いましたが、彼女は裏方でしたからまあいいでしょう。それにしても驚きました。本当に生きているとは」
意味がわからない。目の前のこの男が?
アガピも驚いている。嘘をつく理由もない。じゃあ、なぜ──。
「私がアウトレイジのボスから受けた命令はあなたの殺害。では、邪魔が入らないうちにさっさと済ませましょうか。《Dの楽園 サイケデリック・ガーデン》展開」
まずい。これは明らかに俺を狙ったフィールドだ。勝てるか?こいつに──。
◇
火文明デュエル・マスター、エンカヴマは目の前の展開に焦っていた。
見どころのある新人が出てきて、火文明の未来を思い描いた矢先にこれだ。
(まずい。部下の貼ったフィールドがどんどん剥がされている。このままでは外殻が完成するのも時間の問題だ。完成前に破壊しなければ!)
「え、え!?これはどういう──」
「どけ!《ドギラゴン一刀双斬》!」
大剣で斬りかかるが弾かれてしまう。
「くそっ、間に合わなかったか!」
フィールドは、よほどの実力差がなければ一定時間敵の侵入を防ぐ。
だが燃費は悪く、壊れた瞬間総攻撃を受ける危険な仕様だ。
相手はそんなことなどお構いなしに、イェネロスの殺害だけを狙っている。
「《Dの炎闘 アリーナ・カモーネ》!」
フィールド破壊には時間がかかる。
(時間にして3分……耐えろ!)
◇
「さあ、時間もそんなにないので始めましょうか」
ズリエボが静かに踏み込む。その瞬間──空気が揺れた。
重い鎧を着ているはずなのに、音ひとつ立てずに加速する。
『まずい、避けろ!』
モルトの声が響き、反射的に横へ跳ぶ。
次の瞬間、拳が地面に打ち込まれ、石床が大きくえぐれた。
(っ……速い!さっき見たの、あれ本気じゃなかったのかよ!)
ズリエボが首を傾け、鼻で笑う。
「反応は悪くない。ですが──」
視界から消える。
「ッ!?上かッ!」
見上げた瞬間、影が迫る。
跳躍力も尋常じゃない。
両腕をクロスして受けるが、衝撃が全身を揺らす。
「ぐっ……!」
後方へ吹き飛ばされる前に態勢を立て直し、モルトの力で足に炎をまとわせ加速して着地を滑り込む。
『イェネロス、来るぞ!連撃だ!』
ズリエボが足を踏み鳴らし、地面を裂く勢いで突進してくる。
さっきとは比べ物にならないほど速い。
「くっ……!」
拳、肘、膝、蹴り──一撃一撃が重く鋭い。
必死に受け流すが、完全にはいなせない。
腕が痺れ、息が荒くなる。
(防ぐだけで精一杯だ……!)
ズリエボが口元だけで笑う。
「やはり、あなた本気ではありませんねぇ。動きが甘い」
「うるさい……!」
火球を放つ。
だがズリエボは体を少し傾けただけで避ける。
反撃の蹴りが横から入り、イェネロスの視界が揺れた。
「がっ──!」
壁に叩きつけられる。
視界が一瞬白くなるが、モルトの声が意識をつなぎ止めた。
『まだだ!立て、イェネロス!』
ズリエボがゆっくりと歩み寄る。
その姿には余裕がありすぎた。
「復讐心で戦うのは結構ですが……あなた、どこかで妥協している。“ここまでやれば十分だ”と。そんな生ぬるい覚悟で、私に勝てると?」
イェネロスは歯を食いしばり、拳を握りしめる。
(違う……そんな覚悟じゃない……!)
ズリエボが腕を引く。
明確に“仕留める”軌道。
『避けろッ!!』
その叫びと同時に、地面を蹴る。
ギリギリでかわし、炎をまとった《銀河剣 ガイハート》を放つ。
「おおおおッ!!」
ズリエボの胸部に命中。しかし──
「……軽いですねぇ」
鎧の表面を焦がしただけだった。
反応する間もなく、カウンターが鳩尾に突き刺さる。
「──ッ!」
息が詰まり、膝が崩れそうになる。
それでも倒れまいと踏ん張るが、次の蹴りが横腹を打つ。
吹き飛ばされ、転がりながら壁へ激突。
(……強すぎる……!)
ズリエボは冷ややかに見下ろす。
「大したことありませんね、“傲慢”。結局あなたは、今のぬるま湯の生活に満足している。復讐も、覚悟も……口だけ」
胸の奥がざらついた。
図星だった。
・・・そうか、そうだったのか。そうだよ、認めよう。
俺はなんとかアガピと安定した職を得て、人を助け、クリーチャーを倒し、少しずつ強くなって今の現状に満足していたんだ。
例え仇が取れなくても「まあ、そういうこともあるよ。俺は頑張った」みたいな感じで自分を慰め妥協して現状に甘えていたんだ。
このままでいいのか?確かに今の生活は幸せだ。色んな人と出会い、暖かさに触れ、暮らしていく今の生活が。
それでも故郷の生活は、あの素晴らしかった日常はあいつらに崩されたんだ。
おい、俺。本当にこのままで良いのか?
....モルト、俺に力を、お前の全てを貸してくれ、絶対にあいつを倒す。
拳を握り、立ち上がる。
モルトが呼応するように燃え上がる。
『イェネロス……それでこそだ!俺の力を全部持っていけ!!』
炎が渦を巻き、モルトが進化する。
《龍覇 グレンモルト》から《次元龍覇 グレンモルト「覇」》へと
「ズリエボ……絶対に倒す」
「ふふ……その目ですよ。“傲慢”らしくなってきましたね。さあ──ここから本番といきましょう」
ズリエボが構える。
空気が震える。
足元の石が砕ける。
二人の間に、強烈な圧力が満ちた。
「行くぞッ!!」
炎をまとった突撃。
ズリエボも迎え撃つように加速。
互いの拳と剣がぶつかり合い、衝撃がフィールドを揺らした。
天井から粉塵が降るほどの爆発的な衝突だった。
『イェネロス、押し切れッ!』
「おおおおおッ!!」
「まだ甘い!」
ズリエボは体を沈め、下から拳を突き上げる。
イェネロスは腕で受け止めるが、痺れるほどの重さだ。
(まだ……まだ足りない!)
炎をさらに強め、回し蹴りを叩き込む。
ズリエボが初めて後退する。
「……やりますねぇ」
挑発とも賞賛ともつかぬ声。
だがズリエボの瞳には、確かな“殺意”が宿っていた。
次の瞬間──ズリエボが加速する。
今までよりもさらに鋭く、速く。
「しまっ──」
「終わりですよ」
拳が迫る。
掠っただけで意識が飛びそうな速さ。
だが──
「おい、無事かい?」
轟音とともにフィールドが崩壊した。
割れた空間の向こうに、デュエル・マスターが立っていた。
「アウトレイジさんよ。よくもうちの若いのを痛めつけてくれたな。落とし前つけてもらおうか?」
「……っ」
「逃げられると思うなよ。《革命の鉄拳》!」
放たれた拳が会場を包み、衝撃が全てを薙ぎ払った。
これからは週1で更新できるよう頑張ります。




