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第7話 “雪宮氷莉劇場”


 雪宮が校長室に入ってくる。


 俺を含めた全員が、他校の制服に身を包んだ雪宮を見て驚いた。


「な、なんだお前は!」


「っ⁉ あれは……翠明高校生徒会長、雪宮氷莉⁉⁉」


「なに⁉ あの雪宮氷莉だと⁉」


 先生陣が驚き、声を上げる。

 どうやら校長すらも他校の生徒である雪宮を知っているらしい。

 それほどに有名人なのか。


「ど、どうして『白銀の女神』がこんなところに……」


「っ! あんたは……!」


 大沢が雪宮を睨みつける。

 雪宮はそんな牽制に怯みもせず、淡々と答えた。


「今日も水樹さんを待っていたのですが、なかなか来ないので不思議に思っていたんです。そうしたら、水樹さんを含めたあなたたち六人が校長室に呼ばれたとお聞きしまして」


「だ、だからってなんであんたがうちの学校に入ってくんのよ!」


「そりゃ、水樹さんが心配に決まってるからじゃないですか。あなたたちも含めて呼び出されたということは、間違いなくあの動画の件。成山高校は過去にいじめ問題を揉み消した事例があると風の噂で聞いてましたし、何より嫌な予感がしたのでお邪魔させていただきました」


「で、でもさすがの雪宮さんでも無断で他校に入ってきたらマズくなぁい? 普通に問題でしょぉ?w」


「だ、だよねwやってることぶっ飛んでるっていうか、頭おかしいっていうかさwwま、どっちにしろこれであんたは何かしらの処罰を……」



「――ご安心ください。だらしない顔で校門に来た白髪の先生に許可は取りましたので」



「なっ……!」


 白髪の先生と言えば、地理の田村先生。

 可愛い女子高校生が大好きで、成績も贔屓しまくりの終わってるおじいちゃん先生だ。


「そして、校長室に来てみたらたまたま興味深い話が聞こえまして、ね」


「ッ!!!!!」


 雪宮が校長に視線を向ける。

 校長はびくりと体を震わし、汗をぼとぼとと机に落とした。


「この人の父親が多額の寄付金を出しているから処分はしない。そんな風に受け取れたのですが……まさか、そんなことはしませんよね?」


「ッ!! そ、それは……」


 校長がわなわなと口を震わせる。

 顔をそむける教頭と竹本先生。


 この場が一瞬にして雪宮に支配される中。





「――部外者は黙ってくれない?w」





 大沢が頬を吊り上げながら雪宮に言った。


「部外者、ですか」


「そうだけど? あんたこの件に何も関係ないじゃんwそのくせに首突っ込んでくるとか余計なお世話だから。マジうっとおしい。ってか早く出て行ってくれる?ww」


「ということは、校長に圧力をかけて揉み消そうとしているのは事実なんですね?」


「……はぁ、めんどくさ」


 大沢はわかりやすくため息をつくと、


「当たり前でしょ? これは私の当然の権利。自分が使えるモン使って何が悪いわけ?ww」


 開き直った大沢が、全員に聞かせるように悠々と話し始めた。


「私のパパはこの学校に多額の寄付金を出してんの。だから特別扱いされて当然。そういうのが社会ってものでしょ?w私のパパはすごいから、下の奴は私の良いように使われる。私に盾突かない。従順であり続ける。世の中のせつりっしょwwww」


「……なるほど、そうですか」


「だから、顔がいいだけでチヤホヤされてて、こういう変に正義感出したぶっ飛んだことしちゃうようなあんたの出る幕じゃないのwwwとっとと去れば? マジ邪魔だから。つか――帰れ」


 大沢がしっしと手で雪宮を払う。

 その顔は実に得意げで、この場の誰よりも自分が偉いと言わんばかりだった。


「美琴ちゃんの言う通りだからぁ~。早く帰って、『白銀の女神』ちゃぁ~んww」


「っ…………」


 片瀬が大沢に加勢する。

 橋本たち男組は、雪宮にいい顔をしたいのか押し黙っていた。


 雪宮が俯く。

 それを見て大沢が勝ち誇ったような笑みを浮かべた――そのとき。



「実は先日、動画を見て水樹さんについて調べているとき、あることが分かったんです」



「……は?」


 雪宮はブレない姿勢で、淡々と続ける。


「あなた……確か、大沢美琴さんでしたよね?」


「だからなに?w」


「そしてお父様が会社を経営されてる、と」


「そww私のパパは社長なの。しかもおっきい会社のね。色んな会社と繋がりがあって、正直めちゃくちゃ稼いでるわけwwだから、この学校が成り立ってるのもしょーじき“私の”パパのおかげだしwww極めつけに、パパの会社はあの雪宮グループの……ん? 雪宮グループ?」


 雪宮はクスリと微笑み、大沢を見ながら言った。





「そうです。あなたのお父様が社長を務められている会社、私の父が代表をしている会社の子会社なんです」





「「「「「…………は?」」」」」


 大沢を含めた五人が口をぽかんと開ける。


「どうやらその様子だと気づいていなかったようですね。普通なら知ってるはずですが……あなたのことだから知らないと思いましたよ。あなたのことを無知の阿呆だと推測して正解でした」


「ッ!!!!!!!!」


 雪宮が大沢に一歩近づく。


「もし仮に、父親でその子供の優劣を決定するのであれば……あなたは私の下ということになるわけです」


「ッ!! あ、あんたねぇ……!!」


「そして、私の父にこう進言することも可能です。大沢様は、娘の不祥事をお金で揉み消すようなお方だ、と。それを聞いた父はどうするでしょうか? さすがの阿呆なあなたでもわかりますよね?」


「こ、この……クッ……!」


 しかし、大沢は何も言い返せない。

 すべてにおいて、大沢は雪宮に劣っている。

 つまり正真正銘、言うなれば――下なのだから。


「校長先生、教頭先生。賢明なご判断をお願いします」


 雪宮がぺこりと二人に頭を下げる。

 顔を歪め、拳を握り、一つしかない選択肢を見せつけられ。

 校長は唇を噛むと、震えながら告げるのだった。




「……橋本寛人、竜崎敦也、片瀬由美、海藤葉月。そして……大沢美琴。以上五名に、しかるべき処分を下す」




「「「「「ッ!!!!!!!!!!」」」」」


「ちょっ、ちょっと待ってくれよ先生! 推薦があんだよ俺には!!」


「学校側も俺たちの推薦がなくなるのは困りますよね? だから……」


「先生ッ!! 学校ヤバくなるって! マジで!! なぁ、おいッ!!!」


「ま、マジありえないんだけどぉ…………最悪」


「そん、な……私が……私が……!!!」


 ぺたんと地面に崩れ落ちる大沢。

 五人が絶望する中、雪宮は颯爽と校長室から立ち去るのだった。










 その後。


 俺が学校を出るころにはすっかり夕方になっていて。

 校門を潜ると、「あの」と鈴の音のように綺麗な声で引き留められる。


「雪宮」


 とてとてと俺の下に駆け寄ってくる雪宮。

 息を整えると、俺をまっすぐ見て言った。






「待っていましたよ――水樹朔さん」








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