第51話 お調子者の本当の立場
※橋本寛人視点
トイレに行こうと思い、一人で廊下を歩く。
今までは絶対に一人でなんか行かなかった。
絶対葉月か敦也が連れションしてくれてたし、ってか俺が学校で一人になることなんてほとんどなかった。
なのに、今は一人。
しかも周りにはやけに白い目で見られて、一人でいることが無性に痛かった。
「(どうなってんだよ……)」
せっかく復学できたっていうのに、初日から地獄すぎね?
気づいたら由美たちが退学することになってっし、あの童貞くんがイメチェンしてバカカッコよくなってるし。
そして何よりこの学校の空気よ。
前はみんなが俺たち見て「すげぇ!」って感じだったのに、腫物でも見るかのような目をなんで向けてくんの?
おかしいっしょ! これ!!
「(それと、やっぱり美琴よなー)」
美琴の様子がずっとおかしい。
生理なんかな?
まぁよくわかんないけど、めっちゃ苛立ってる。
確かにこの状況が屈辱的なのはわかるけど、どうせすぐ終わるくね?
今だけっしょ、この雰囲気。
「もっとどっしり構えるのが、トップの風格っしょ!」
ほんと、俺を見習ってほしいわー。
カリカリしてても、何も解決できないしwww
どうせすぐよくなるだろうと思い、楽観的に構える。
するとふと、仲がいい他クラスの奴らが目に入った。
お、ちょうどいい。俺の愚痴でもアイツらに聞いてもらおっと。
「おーい雅也! 久しぶりだな~!」
肩をどつき、前みたいな本当に親しい奴としかできない距離感で接する。
「やっと停学明けたわ~。ってか迎えに来いよwww俺が復学したんだぞ?ww」
「…………」
ん?
なんだこいつら。
全員反応悪すぎない?
見ちゃいけないものを見てるみたいに顔歪めてるし。
そういうノリか? これ。
だとしたら面白くねーwww
「おいおい、この一か月の間に腕鈍ったんじゃね?ww面白くなくなってんのかよこの野郎~!」
もう一度肩をどつくも、反応がない。
「マジでいいってそのノリwwwあれだろ、復学した俺を無視する的なノリだろ? マジ古いっしょwww飽きた飽きたwwww」
「…………」
しかし、これでも反応がない。
どんだけ頑固にノリ守ってんだよwww
ま、こいつらなりの歓迎の仕方だと思っておくか。そういうお調子モンな奴らだしな、こいつら。
「ってか聞いてくれよ! さっきから俺めっちゃ白い目で見られててさ! なんか一か月ぶりに学校戻ってきたらみんなの態度変わってんだけどwwwさすがに面白すぎない? 由美たち退学することになってるし、マジで浦島太郎状態っていうかさ~!」
「……なぁ、寛人」
「あ、もう無視するノリやめたのか?wなんだよ意外に意志弱いなー! ちなみに、俺はまだまだ耐えられるくらいに強靭なメンタルを持って……」
「――話しかけないでくんね?」
「…………え?」
雅也の言葉に、頭が真っ白になる。
は? どういうこと?
今俺、なんて言われた?
「その接し方やめろ。あと肩どつくな」
「お、おいおいww次は俺をハブるノリか?wwwそれも全然面白く……」
「ノリとかじゃねぇから。ガチでお前のことハブってんの」
「もうお前と仲良さそうにすんのやめるわ。ってか元々仲良くねぇし」
「お前面白くないんだよ。つるんでる奴も普通に面白くないし」
「マジでキモイから。話しかけてくんな」
「……は?」
浴びせられる罵詈雑言。
初めはこれすらもそういうノリだと思った。
けど、こいつらの目がマジだ。
「な、何言って……」
「ってか、正直な話、大沢たちのグループいるから話してやってただけで、お前のことなんて友達とも思ってないんだわ」
「そうそうwwwだってお前、シンプルに面白くねぇもん。発言全部薄っぺらいし、馬鹿丸出しでさ」
「いつも誰かの腰巾着やってるお前なんか、一人になったら価値ねぇよwww」
「なっ……」
う、嘘だろ?
雅也たちとは友達だと思ってたのに……面白くない? 薄っぺらい?
価値が……ない?
「ってか、いい加減気づけよ。お前ずっと浮いてんだよ。色んな奴と仲いいポーズ取って威張りたいのか知らねぇけど、お前自体に人望なんて一ミリもねぇから」
「あと、俺らに二度と関わんな。お前と仲いいって思われると、俺たちまで価値下がるからよ」
「ちょっ……」
立ち去っていく雅也たち。
「ま、待てよ雅也! 俺たち仲いいよな⁉ 中学から、ずっと……!!」
放課後に遊びに行く仲ですらあった雅也が、俺の声に振り返る。
雅也だけは俺に手を差し伸べてくれるんじゃないかと期待した。
――が、しかし。
「中学からお前のこと、一度も友達だと思った事ねぇよ」
「…………は?」
雅也がそう吐き捨てて、俺を置いて立ち去る。
取り残される俺。
孤立してる……本当に、俺が一人ぼっちになってる。
ありえない……だって俺は色んな奴と友達で、カーストトップで、人気者のはずなのに……。
「なんだよ、これ……」
おかしいだろ……おかしいだろ!
俺が、こんな目に遭うなんて……!!
「おかしいだろッ!!!!」
一人、床を殴る。
しかし、返ってくるのは痛みだけ。
痛みただ一つだけだった。
「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!」




