第5話 大炎上のカス共
※大沢美琴視点
じわりと額に汗が滲む。
……嘘。
噓噓嘘嘘ッ!!!
なんで……!
動画のコメント欄をひたすらスクロールする。
『笑ってる奴ら何様なんww』
『やってること普通に最低じゃね?』
『クラスにいたわー、こういうイキりw』
『通報しました』
『吊るし上げろよこいつらw』
『普通にネタだろww信じてる奴乙www』
『マジでキショいな』
『タヒね』
『ネタでもアウトだろwww』
『いじめじゃね?w』
『こういう陽キャぶってる奴キモすぎ』
『誰かこいつら特定しろ』
『最近の高校生終わってるww』
『これあげる辺り倫理観終わってんだろ』
『義務教育の敗北で草』
「なにこれ……マジありえない……マジありえないんだけどッ!」
「ちょっと落ち着いてよみこっち~。炎上って何がぁ?」
「私たちがあげた動画! あのクソ陰キャフってる動画がヤバいんだって!」
私は慌てて他の四人にスマホの画面を見せつける。
「はァ? 何言ってんだよ美琴。あの動画が炎上するわけねぇだろ?」
「ってかもう二万イイねいってんじゃん! 正真正銘のバズキター!!!」
「あははっ、何度見ても滑稽だね」
「よく見てって! コメント欄!」
「何そんな焦ってんのみこっちゃん! 急にらしくな……」
「「「「…………え?」」」」
橋本たちが画面を見て固まる。
『こいつら全員キモすぎんだろ』
『自尊心が肥大化した化け物』
『同じ高校通ってるけど、いつもデカい顔しててクソイキってる』
『制服からして成山高校かな?』
『ツインテールの女、誰でもヤラせてくれるって有名』
『マジかよメシウマwww』
『特定完了っ』
『金髪の女は大沢〇美琴。二年A組』
『晒されてて草ww』
『〇の意味絶対ないだろwww』
『うわ、竜崎映ってんじゃん。バスケ部エース』
『チビのクソガキは中学同じだった。ちなみにクラスの女子にクソ嫌われてたww』
『全員のイ〇スタ特定完了っとw』
『何マジになってんの? ネタだからどうせ』
『イ〇スタのアカウントこちらまで→(URL)』
『個人情報晒した奴ヤバいぞー(棒)』
『開示請求待ったなし』
『未成年にガチすぎw全員陰キャかよ』
『こういう奴らは全員処すべき』
『社会的に抹殺しろw』
『人生終了乙wwww』
「嘘、だろ……」
橋本がわなわなと震え始める。
全員の顔が一瞬で真っ青になった。
バン! と敦也がテーブルを叩きながら立ち上がる。
「ふざけんじゃねぇよ! なんで俺たちがこんなこと言われなきゃなんねぇんだッ!!」
「これ、結構ヤバくなぁい……?」
「……普通に特定されてる。イ〇スタだって晒されてるし」
「マジヤバいじゃん!!! マジで炎上してんじゃん!!!!」
「だからさっきからそうだって言ってんじゃん!!」
まさかこんな反応が来るなんて予想だにしてなかった。
中にはネタだって言ってるコメントもあるけど、ほとんどが私たちに対する誹謗中傷のコメント。
しかも視聴回数は三十万を超えていて、今も凄まじい速度で拡散されてる。
ありえない……なんでこんなことに……!
「美琴! 今動画消さねぇとマズいって!」
「はぁ⁉ なんで消さなきゃなんないのよ!」
「俺様の推薦に関わったらどうすんだよ! 大学はバスケ推薦で行くつもりだって言っただろ⁉ このまま俺様の経歴に傷がついたらマジやべぇって!!」
「それは俺も同じだ。サッカー推薦がかかってる……だから、動画は消した方がいい」
「葉月まで……」
「今消せば大丈夫だって! ネットなんて小さい炎上に溢れてるんだし、そのうち収まるからさ! 今しかない! ってかこれ以上はヤバいって!!」
「っ……!」
今動画を消したらどうなる?
この動画のことを知ってる学校の他の奴らにどう思われる?
「……今消したら、私らがビビって消したみたいになんじゃん。そしたら舐められるでしょ……学校の奴らに!」
「っ! そ、それはそうかもしれないけど……でもこのまま派手に拡散したらマズいよ絶対!」
「うっさいわね! 第一あんたが動画上げようって言ったんでしょ⁉ あんたが責任取んなさいよ!」
「今その話すんのは違くない⁉ ってか、動画上げようって言ったのはみんなの総意っしょ!!」
「あんたが悪い! あんたのせいで……!」
橋本を睨みつける。
すると店員が恐る恐る声をかけてきた。
「すみません。他のお客様のご迷惑になりますので……」
「うっさい!!! 平民は黙っててッ!!!!」
「ひっ!!!」
店員が怯えたように逃げていく。
ふと周囲を見ると、他の客が私たちを見ていた。
「ねぇ、ヤバくない?w」
「なんかクソ揉めてんじゃん」
「今平民って言わなかったか?w」
「あれ絶対ナリ高の生徒だろ」
「民度終わってんなww」
「あぁーあのバカ高か」
「相変わらずの質の悪さだなw」
「誰か止めて来いよww」
「絶対出禁だな」
「見てて恥ずかしいわwww」
「っ!!!」
一瞬殴り込みに行ってやろうかと思ったけど、グッと堪えて席に座る。
全部ムカつく……何もかもがムカつく!
「美琴! とにかくあの動画は削除した方がいい! ってか、お前の父親にも迷惑かけねぇ方がいいだろ⁉」
「っ!!!」
「そうだよみこっちゃん! 今消せばまだ間に合うって!」
「私たちのこと舐めるような奴いないよぉ~。いたらぶっ潰せばいいだけ。後から何とでもなるからさぁ~」
「美琴。お願い、動画消して?」
「葉月……」
四人に見られ、お願いされ。
胸の内からせり上がるイライラを鎮め、ため息を吐いた。
「……わかった。消すよ」
それから、私は動画を削除した。
全く持って不本意だし、ムカつくでしかないけど。
でもこれで、とりあえずは一安心……。
――な、はずだった。
「ここに来た理由はわかるかね、君たち」
校長室に呼び出され、生活指導の竹本、教頭先生、校長先生の前に立たされる私たち五人。
そして――クソ陰キャの水樹。
「あの動画について、学校に問い合わせがあった。いじめなんじゃないかとな。今日はその事実確認をするために呼び出したんだ。わかってるな?」
「ッ!!!」
なんで、なんで……。
なんで私が、こんなことしなきゃいけないわけ⁉⁉⁉