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第49話 復学初日から地獄


 その後、片瀬や海藤、竜崎たちは学校に来なくなった。


 あの動画の影響により三人は成山高校ですっかり孤立していたし、ほぼ退学は決定的だと誰かが話していた。

 詳しいことは知らないし興味もないが、三人には何故か因縁を持たれていたので俺にこれまで通りの平穏がようやく訪れそうだ。


 とはいえ、俺にも大きく変わったことがあり……。


「さっくん、最近オファーとんでもないんでしょ? やるな~!」


「ありがたいことにね。でもそれを言ったら西海だって殺到してるんだろ? 地上波ドラマの役も決まったってマネージャーさんから聞いたし」


「ふふっ、オーディションで勝ち取りました! ブイっ!」


 ピースを決め込む西海。

 なんだかここ最近の西海は、輪をかけて明るい。


 実は俺は西海と撮影した動画がバズった以降、両親と事務所の社員さんの猛プッシュにより事務所に所属することになった。

 目立つのは好きじゃないからかなり抵抗したが、三時間説得され、俺に務まるならと渋々受け入れた。

 

 それにちょうどアルバイトもしてなかったし、少しでも将来に向けて選択肢を多く持っておくのは大切だし。

 ということで、今日は西海と事務所に向かっていた。


「でもアタシは、さっくんとまた二人で撮影したいんだけどな~? 何ならカップルチャンネルとかしてみたりして……」


 西海が俺に一歩近づいた、そのとき。



「二人でカップルチャンネルなんてはしたないです。断固拒否の姿勢ですよ、私は」


「私もです! 西海先輩だと明るすぎていちいち視聴者が画面の明度を下げなきゃいけないという最悪のデメリットがあるのでやめた方がいいかと!」



「猛批判⁉」


 不満げに言う雪宮と桜川。

 放課後からそのままの足で事務所に向かっているため、いつものごとく校門前で待ってくれていた二人もついてきていた。


「あ、そうだ。今日は私も事務所に入れてもらえないか交渉しようと思っていたんです。これから同期になると思いますがよろしくお願いしますね、水樹さん」


「え⁉」


「私も私も! 今日芸能人デビューしちゃう予定です! そしたら水樹先輩ともっとお話が……ぐへへへ!」


「ちょっとちょっと! 二人が事務所に入るとかマジ⁉ いや、でも二人のルックス的に断るどころかむしろ来てくれって事務所は思うだろうし……あぁーっ! でもアタシの最強の切り札がぁああああっ!」


 頭を抱える西海。

 今日も今日とて騒がしい。 

 最近はこの騒がしさにも慣れ、もはや心地いいとすら思うようになったが。



「ギャハハハハハ! マジかよ!」

「マジ焦ったわあの瞬間! な?」

「あははは……そうですねぇ」



 路地裏から聞こえる声。

 見てみると、そこにはガラの悪そうな複数の男に連れていかれる片瀬の姿があった。

 

 しかし、本人に全く嫌そうなそぶりは見られず、むしろ自分からついて行ってる感じだった。


「…………」


 学校に来ていないと思えば、男と遊んでたのか。

 全く持って、片瀬のイメージ通りではあるけど。


「水樹さん? どうしました」


「いや、なんでもない」


 俺と片瀬に名前の付く関係は存在しない。

 強いて言えば、“元クラスメイト”。


 だから片瀬が何をやろうが、これからどんな道を歩もうが、俺には一切関係のないことだ。





     ♦ ♦ ♦





 ※大沢美琴視点



 遂に復学当日を迎えた。


 私の頭にはまだあの時感じた怒りや苛立ちが残っていて、廊下を歩く速度はいつもより速い。


「どうしたんだよ美琴! そんな焦って……」


「うっさい!」


「なんだよもぉ~」


 私の隣を歩く寛人。

 寛人は私の怒りにも、この状況のヤバさにも気づいてない。


 やっぱりこいつは救えない馬鹿だ。

 だから薄っぺらいんだよ、クソ男。


 ホームルームが始まる五分前に教室に到着する。

 すると教室中の視線が私に集まった。



「ねぇ、あれって」

「そっか。大沢さん今日復学なんだ」

「マジか……」

「この状況でよく来れるよな」



 噂の声なんてすべて無視して、今は一早くアイツらと顔を合わせたい。

 そして私の思ってること全部ぶつけて、縁を切ってやる!


 ――しかし。


「あれ?」


 辺りを見渡すも、三人の姿はどこにもない。

 まだ教室に戻ってきてないのかと思ったが、一向に三人の来る気配はなかった。


 しびれを切らして、二軍の女子に声をかける。


「ねぇあんた、葉月たち知らない?」


「えっと……」


「知らないかって聞いてんの!」


 相変わらず鈍いな……だから二軍なんだよ。


「か、海藤くんたちは今日も来ないんじゃないかな。最近学校来てないし」


「はぁ⁉ 学校に来てない⁉」


 アイツら、ほんと……!


「でもしょうがないんじゃない? あの三人、ほぼ退学確定みたいなものだし」


「…………は?」


 一瞬、言葉が理解できなくなる。

 しかし、時間差で二軍の言葉の意味がわかった。


「はぁ⁉ た、退学⁉」


「校長室に呼び出されてたし、停学明けたばっかにやらかしてるから間違いないと思うけど」


「なっ……」


「おいおいマジかよ……葉月たちが、そんな……」


 退学って……いや、確かにアイツらはそれだけのことをした。

 でも、全然腑に落ちない。


 あの三人に天罰が下れとは思ってたけど……退学は違うでしょ。

 だって……私のこの苛立ちはどうすればいいわけ⁉


 ふざけんな……ふざけんな!

 なんでこんなことになってんの⁉

 

 ……それもこれも、全部……アイツが悪い。

 私がこんな目に遭わされたのは全部、元はと言えば……!!



「水樹ッ……!!!」





     ♦ ♦ ♦





 席に着き、パラパラと単語帳を見ながら音楽を聴く。


「水樹! 水樹はどこにいるわけ⁉ 早く出てこいッ!!!!」


 なるほど。as soon asってこういう使い方するのか。


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 水樹効果で大沢の頭は良くなった、勉強のできるバカに退化した。
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