第46話 視線の意味が変わる
※片瀬由美視点
……ヤバい。
ヤバいヤバいヤバいぃ!
由美たちが昨日、学校でシた動画がSNSでバズってるんだけどぉ⁉
なんで⁉
いつ撮られてたの⁉
というか誰が……どうしてぇ……!
「ヤバいだろこれはァ……」
「あはは……わ、笑えないな」
乾いた笑みをこぼす葉月っち。
みんな、この動画を見て由美たちの噂してるんだ。
動画は荒々しいけど、由美たちのことを知ってる人なら由美たちだってわかるし、ナリ高生なら場所だって完全にわかる。
そもそもあの屋上前の踊り場はヤリスポットとして知られているし。
「って、冷静に考えてる場合じゃないよぉ……」
こんなの出回ったら、さすがにマズい。
学校でS〇Xしたことバレちゃったら、今度こそ停学じゃ済まない。
水樹の動画の件もあるしぃ……。
それにこれ、一生残るよね⁉
そ、そんなの……黒歴史すぎるよぉ!!!
「っ!!!」
「と、とりあえず動画消してもらうよう運営に言うしかねェかァ⁉ それか警察ゥ⁉」
「いや、運営に言ったところで動画はもうたくさんの人に保存されてるし、どんどん拡散される。こうなったら、もう……」
「ネットでひたすらこすられ続けるってことかァ⁉ そんなの生殺しだろォ⁉ なァどうすんだよこれェ!」
「わかってるよそんなことッ! お前は考える脳がない脳筋なんだから黙ってろッ!!!」
「あァ⁉ 葉月テメェ……!」
いがみ合う葉月っちと敦也っち。
しかし、仲裁する気にもなれない。
だってほんとにヤバいんだもん……こんなの、人生終わる一撃だもんぅ!
「噓噓嘘嘘嘘嘘嘘嘘……」
爪をひたすら噛む。
頭が真っ白になっていく。
ヤバい、ほんとに今度こそ……。
「あいつら、なんかめっちゃ取り乱してね?」
「今更気づいたんじゃねぇの? あの動画」
「ほんと学ばねーよなwwww」
「前も動画拡散して停学食らってたのにさ」
「さすがに退学だよね、これ」
「せいせいするよねぇw学校ですっごいイキってたし」
「片瀬さん、大して可愛くもないのに我が物顔で歩いてたしね」
「あれほんと見てられなかったわ~www」
由美たちに向けられた視線が全部、由美たちに対する嫌悪の視線だと今になってようやく気が付く。
「っ!!!!!」
急に由美の存在が小さく思えてくる。
由美はお姫様なのに……誰からも求められて、羨ましがられる存在なのにぃ……!
「ッ!!!!!!!!」
カッとなって、由美たちを馬鹿にする女子生徒に近づく。
そして肩を掴み、思い思いに言葉をぶつけた。
「ふざけんな!! 由美たちのこと笑うんじゃないぃ! 由美たちはあんたみたいなブスよりももっとすごくて、上のカーストで……!」
しかし、女子生徒は由美の手を払った。
その拍子に体勢を崩し、地面に尻餅をつく。
「うぐっ!」
何すんのよこいつぅ……!
由美よりも下の人間のくせにぃ……!!!!
「ッ⁉⁉⁉」
顔を上げると、女子生徒たちが由美のことを見下ろしていた。
いや、女子生徒だけじゃない。
由美たちを見ている全員が、由美たちを下に見ていた。
「上とか下とかうるさいんだよ。そんな中学生みたいなこと言ってんの――あんたたちだけだから」
「ッ!!!!!!!!!!!」
言葉が胸を貫く。
ぽっかりと穴が開いてしまって、由美は言葉を発することができなかった。
「……あ」
そんなとき、水樹が由美の横を通っていった。
ちらりと見もせず、心底興味がないように。
「っ!!!! 水樹ぃ!!!」
ほぼ無意識に声をかける。
なんでこの状況で声をかけたのかわからない。
――けど。
「…………」
水樹は由美の声に気づきもせず、昇降口に入っていった。
もう、由美が視界にすら入ってない。
「そん、なぁ……」
すべてがもうどうでもいいと思った――そのとき。
ふと、頭によぎる一つの可能性。
由美が屋上の踊り場にいたことを確実に知っていた人が、一人だけいる。
それは……。
「水樹ぃ……」
もしかしてあの動画、水樹が撮って上げたんじゃない?
由美たちがそうしたように、仕返しでぇ……。
「許せない……許せないぃ……!!!」
もう由美たちには何も残らないかもしれないけど。
でもこのままになんてしておけないぃ!
されるがままなんて、そんなの……絶対に受け入れられないぃ!!!!
――旧体育倉庫。
ここは校庭を挟んで校舎と最も離れた場所にあり、ここもヤリスポットとして有名だった。
そんな場所に由美一人で、とある人を待つ。
その人はもちろん、由美たちを終わらせた――水樹朔。
今回のことを問い詰めて、逆に由美たちが水樹に処分を下させてやる。
あんな動画SNSに上げたら、それこそ水樹も停学じゃすまない。
由美たちが退学させられるなら、水樹も道連れにしてやるぅ……!
「――――」
足音、そして話し声が聞こえてくる。
独り言かな?
最初はそう思ったけど、明らかに足音が一人分ではなかった。
ガヤガヤと話し声を連れている。
そして由美がいる旧体育倉庫の前で止まった。
やがてがらりと扉が開くと、光が差し込んでくると共に、全員の顔がよく見えた。
「なっ……」
全員、見覚えがあった。
だってみんな、由美とヤッたことがある男の子たちだったから。
「久しぶりだな――クソ女www」
男の子たちが由美を見てゲラゲラと笑う。
「なに、これぇ……」
その視線は、朝に向けられたものと全く同じだった。




