第45話 絶望のバズり
※片瀬由美視点
「はぁ……はぁ……」
息を切らす。
体は汗とか、もはや何かわからない液体にまみれていて、べとべとだった。
気持ちばかりにシャツだけ羽織り、疲労困憊の二人を見る。
……由美、やっちゃったぁ。
まさか葉月っちと敦也っちの二人といっぺんに、しかも学校でヤッちゃうなんて……。
想像もしていなかった。
けど、二人とシたおかげで由美が失いかけていた自尊心を取り戻すことができた。
だって二人はナリ高でもカースト高くて、顔もいいし。
そんな二人を同時に相手して、よがられる由美ってほんとにすごくなぁい？
やっぱり由美はお姫様だ。
水樹とか桜川ちゃんとか、そこら辺の有象無象が言ってることはただの嫉妬にすぎなくて、全部嘘だったんだ。
「……ふふっ」
承認欲求が満たされる。
こんなにも激しく求められるなんていつぶりだろう……でも、すっごく気持ちよかった。
体も、心も。
こうなったら、やっぱり水樹落とさないとダメだよねぇ？
じゃないと由美の気が収まらない。
もういっそのこと襲って、既成事実でも作っちゃおうかな。
それくらい、次に失敗は許されない。
これは由美が、由美であることの証明に必要なんだもん。
由美は可愛くてお姫様なんだって、知らしめないと……ふふっ、気が済まないよぉ。
散らばった下着と服を着ながら、水樹との決着を想像する。
――しかし、このときの由美は全く気が付いていなかった。
『ピコン』
階段から小さく響く、録画終了の音。
男子生徒はニヤリと笑うと、階段を降りていく。
それがすべての始まりで、終わりだった。
♦ ♦ ♦
※片瀬由美視点
あの後、由美たちはラブホテルでもう一回戦交え、帰宅した。
そして翌朝。
たまたま校門近くで遭遇した由美と葉月っちと敦也っちは、三人で学校に入る。
二人に抱かれた由美。
ふふっ、悪い気しないよねぇ。
なんて思っていたのだが……。
「ねぇ、あの人たち……」
「うわ、やっぱりそうじゃんw」
「仲良く三人で歩いてるってことは……」
「大沢さん海藤くんのこと好きじゃなかった？」
「泥沼過ぎるだろ」
「さすが片瀬。グロすぎwww」
「リアルにこういうことあんだな」
由美たちを見てヒソヒソ噂する生徒たち。
会話の内容はよく聞こえないけど、由美たちに注目してるのは間違いない。
「なんだァ？」
「やけに注目されてるね」
昨日まではこんな視線感じなかった。
……あ、もしかして由美たち、目立っちゃうくらい圧倒的なオーラ放っちゃってるぅ？
よく言うもんね。
ヤッた男女は一気に雰囲気が変わって大人っぽくなるというか。
由美たちは昨日、三人で何度も体を重ねたわけだし？
しかも由美に至っては葉月っちと敦也っちっていう超上物二人を同時に相手してたんだから、大人な魅力が溢れちゃうのも仕方ないよねぇ？
普通の女の子ならどれだけ頑張ってもこんな経験は出来ないわけだし。
由美だからできる。
由美みたいに可愛い女の子しかできないよねぇ。
「ふふっ」
あぁ、すっごく気持ちいいかも、今。
由美のことをもっと羨ましがって、由美のことにもっと夢中になって？
それが普通で、仕方がないことだよぉ？
ふふふふふっ……。
「マジで見てらんねぇな……」
「気持ち悪い」
「あの三人が……考えたくもねぇな」
「きっしょwww」
「よくいけんな、あんな女」
「見境なさすぎだろwww」
「もっと選べよなww」
……ん？
ちょっと聞こえたけど、今由美のこと気持ち悪いとか言った？
これだけみんなが由美に傾いてる中、逆張りしちゃうおバカさんが今いたよねぇ？
葉月っちと敦也っちに目配せをすると、ひそひそと噂をしていた男子生徒に近寄る。
「ねぇ君たちぃ。何か由美たちに文句でもあるのぉ？」
「っ！」
顔を歪める男子生徒。
ふふっ、ビビってるビビってるぅwww
「そういうのはさぁ、正々堂々言わないとダメじゃなぁい？ っていうか、由美たち敵に回すと大変なことになるよぉ？ 知ってるよねぇ、ナリ高通ってるならさぁ？」
由美が笑いながら言うと、男子生徒二人は逃げ出していった。
「なんだ、つまんないのぉ」
これだから度胸のない男の子はww
肩で風を切り、葉月っちと敦也っちを連れて歩く。
あぁ、最高に気持ちいいぃ！
これが由美の、あるべき姿で……！
「屋上の踊り場だろ？」
「やっぱあの動画マジなんだろうなぁ」
「どっからどう見てもあの三人だろ。ヤッてたの」
「3Pとかエロすぎんだろwww」
「普通にドン引きだけどな」
「さすがビッチだわ」
「きっしょwww」
……んんん？
屋上の踊り場？ あの動画？ 3Pぃ？
「…………へ？」
スマホが振動する。
葉月っちと敦也っちも同じく通知が来て、それは美琴っちと寛人っちも入ってる五人のグループからだった。
『寛人：なんだよこの動画……』
寛人っちのメッセージに送付された、SNSにあげられた一つの動画。
それは……。
『あっ、んんぅっ！ いいよぉ……もっとぉ……』
『オラオラァ！ もっと声出せェ！』
『由美、こっちもして』
『もうぅ……しょうがないなぁ』
「……嘘、でしょぉ」
隠し撮りされた、屋上の踊り場の動画。
そこには入り乱される男女三人が映っていた。
「な、なんで由美たちの動画が上がってるのぉ⁉」
しかもインプレッション300万って……すっごいバズってるんだけどぉ⁉
