第44話 遂に手を出す(崩壊へ)
※片瀬由美視点
チャイムが鳴り響く。
もう四時間目の授業は始まってる。
だから教室に戻らなきゃいけないのに、由美は踊り場の壁に背中を預け、地面に座り込んでいた。
とてもじゃないけど、今教室になんて戻れない。
だって由美の心はぐっちゃぐちゃだから。
「三回も水樹に断られるなんてぇ……」
三度目の正直すらダメだった。
しかも三回目に関してははっきりと、決めに行くつもりで色仕掛けをした。
最終手段だった。
それでもダメだってことは、きっとこれからも……。
「うぅ……」
心がえぐられる。
これまで由美は常に男の子に求められる女の子だった。
みんなが由美のご機嫌を取ってきて、都合よく由美を抱いた。
由美は別にそれでよかったし?
たとえ体の関係でも、抱きたいって思うほど由美に魅力があるってことでしょ?
そうやって男の子のお友達も増えて、男の子同士で由美を巡って争うことさえあった。
それくらい、由美は求められて、モテてきたんだもん。
ずっとずっと、お姫様扱いされてきたんだもん。
なのに水樹は由美のこと三回も拒絶して、しまいには……。
――そもそも、俺は片瀬とできれば関わりたくない。関わってもいいことがないからだ
あんなひどいこと、由美に言うなんてぇ……。
ムカつく、ムカつくムカつくムカつく!
由美はお姫様だよ? 男の子に大人気なんだよ⁉
昨日だってそうだ。
桜川ちゃんよりも可愛くないとか、ビッチだとか色々言われた。
どうせ言ったやつ全員、由美がちょっとでも押したら求めてくるくせに。
男の子なんてみんなしょうもない。
だって簡単に手玉に取れるんだもん。
でも、水樹は全然揺らがなかった。
しかも由美に、心をえぐるようなことも言ってきた。
――他人は自分が思うよりずっと、片瀬に興味ないよ
「くぅっ……」
童貞のくせに偉そうに……!
由美に興味ない?
そんなわけない!
由美はこれまでいーっぱい男の子に求められてきたんだから!
なのになのにぃ!
由美に向かって間違ってること言って、傷つけてぇ……!
「ムカつくぅ……」
綺麗に仕上げられた爪を無意識のうちに噛む。
昨日と今日で、由美の大事な自尊心がボロボロだ。
誰かに認められたい、誰かに可愛いって言ってもらいたい。
嫌な言葉を全部、上書きしてほしい。
「もうぅ……!」
イライラが止まらない。
……チッ、クソぅ。
体の内側が燃えてるみたいに痛くて、ひたすら爪を噛む。
すると階段を上がってくる足音が聞こえてきた。
「あれ、由美?」
「何してんだァ?」
「葉月っち……敦也っち……」
二人を見上げる。
「なんでここにいんだァ?」
「それは……授業受けたくなかったからぁ」
「あはは、俺たちと同じだね……」
そう言う葉月っちは、前みたいに圧倒的オーラを放ってなくて、今はそこら辺の冴えない男の子と一緒に見えた。
敦也っちも威圧感ないし、すっかり大人しい。
意気消沈した様子の二人。
「っ!」
ふと、胸元に視線を感じる。
そうだった。今の由美は、水樹を誘惑したときにシャツのボタンを開けたままで、赤い下着が見えていた。
それにきっと谷間だって見えてるだろうし、普通の制服じゃありえないくらい露出してる。
体育座りで露わになった太ももだって、二人は釘付けになっていた。
「…………」
由美の傷ついた自尊心が疼く。
二人の由美に対する下心ある視線が心地いい。
由美の視線に気が付くと、葉月っちと敦也っちは慌てて視線をそらした。
「きょ、今日は学校サボろうぜェ? 駅前のゲーセンとか行ってよォ」
「あははっ、それはいいね。由美も一緒にど――」
「葉月っちぃ……敦也っちぃ……」
二人の手をぎゅっと握る。
またしても由美の露出された体を、我慢できないと言わんばかりにチラ見した。
ごくりと唾を飲み込む。
この衝動に身を任せる。
だって今、誰でもいいから求められたいんだもん。
美琴っちのこととかあるし、五人で仲良かったからセーブしてたけど……でも、もうどうでもいいや。
由美が満たされるなら、それで全部いいや。
「……えっち、しよぉ?」
「「っ……!!!!」」
由美の言葉に、葉月っちと敦也っちは頷きもせず、由美に体を寄せてきた。
♦ ♦ ♦
※大沢美琴視点
美琴:私たちそろそろ停学明けるし、またカラオケでも行こうよ
寛人:いいね! 行くっしょ当然!
美琴:葉月たちはどう?
寛人:ブイブイ言わせてんのか~?
美琴:葉月?
寛人:おーい! 寝てんのか~?
それ以降も、三人からの返信はなく。
「どうしたんだろう……」
由美まで音信不通になるなんて心配だ。
葉月に至っては私から何度も電話してるのに出ないし……。
「大丈夫かなぁ……葉月」
正直な話、もはや敦也と由美に関してはどうだっていい。
葉月さえ無事でいてくれれば、私は……。
声を大にして言えないけど、葉月がいるから今のグループにいるまであるし。
「…………」
でも、嫌な予感がすごくする。
早く停学明けて、葉月に会わないと。
いや、葉月に会いたい。
「……気のせいだといいんだけど」




