第38話 大敗の海藤葉月(終了)
※海藤葉月視点
「っざけんな!!!!!!!!!!!!!!」
真奈美ちゃんを怒鳴りつける。
校門前にいた人たちの視線がすべて俺に集まった。
しかし、そんな周囲の目なんて気にならないくらい腹が立っていた。
「何がカッコいいだよ! 俺の方が何倍もカッコいいでしょ⁉ あんなの、ちょっとイメチェンしただけの陰キャだよ!」
「か、海藤くん? 急にどうしたの?」
「それはこっちのセリフだから! あんな奴カッコいいとか言っちゃってさ。おかしいんじゃないの? 目腐ってんの? 壊れてんの?」
俺じゃなくて水樹をカッコいいと思うなんてどうかしてる。
目の前に俺がいるのに。
そもそも真奈美ちゃんは俺を待ってたのに。
「これだから浅い女は嫌いなんだよ。すぐ可愛いとかカッコいいとか言って……それしか言えないわけ?」
「えっと……」
「そんな女に俺、魅力感じないから。周りの奴らもそうだ! 全員センスがない。周りに流されてる。ほんっと――しょうもない」
気づけば真奈美ちゃんに対してだけじゃなくて、水樹を持ち上げるナリ高の奴らにも怒りの矛先を向けていた。
「イケメンなのも、カッコいいって言うべきなのも俺だから。わかる? それくらいお前のちっさい脳みそでもわかるよね? ね!」
「っ…………」
真奈美ちゃんが顔を歪める。
「チッ……」
めんどくさい女だな……。
「早く行こう」
真奈美の腕を引く。
すると真奈美ちゃんが抵抗してきた。
「……は? 何、嫌なの?」
「い、嫌っていうか……」
「いいから」
さらに強く腕を引く。
しかし、真奈美ちゃんはまたしても抵抗した。
「やめっ……」
「っ……! これ以上俺を苛立たせないでくれる? 俺と遊びたいんでしょ? だったら黙ってついてきてよ」
「や、やっぱり……」
「は? ……ふざけんなよ。いいから黙ってついてこい」
「いやっ……!」
「っ!!!」
こいつ……!
「いいから!」
めんどくさくなって、強引に連れ出そうとした――そのとき。
「――やめろ」
手を振り解かれる。
驚いて顔を上げると、間に入り込んでいたのは――
「っ! 水樹……!」
「嫌がってるだろ」
「お前に関係ないだろ! ちょっと評判よくなったからって……でしゃばってくるなッ!」
水樹を睨みつける。
しかし、水樹は怯むどころか全く気にする様子もなく。
相変わらず感情が読めない表情のまま、俺を見ていた。
「あははっ……その俺を見下したような態度もムカつくなぁ」
「見下してない。ただ軽蔑してるだけだ」
「ッ!!!!!!!!!! お前……!」
またしても頭に血が上る。
「調子に乗るなよ! 所詮お前は陰キャのまま! 中身が終わってる時点で勝ち目なんてないんだよ! だから下の人間は下の人間らしく、地に這いつくばって俺たちの後ろ歩いてればいいんだよ!」
「陰キャとか陽キャとかよくわからないし、たぶんそんな言葉で人を分けることはできない」
「はぁ?w何言ってんの? そういう言い訳しちゃうところが陰キャだって言ってるんだよwww」
やっぱりこいつにはわからせないと。
どっちが人として上なのかを……!
「カッコよく真奈美ちゃんを庇ったつもりかもしれないけど、そんなことして俺の上になったとでも言いたいの? あははっ! 笑わせてくれるね!」
本当に面白い。
でも笑えない。
「身の程わきまえなよww水樹なんて所詮俺たちに笑いものにされるだけの陰キャなんだからさ。ちょっと人気が出たところで、本当に人を魅了しちゃう俺とは――段違いなんだよ!」
言ってやった。
やっと全部ぶちまけてやった。
――しかし。
水樹は無表情のまま、さらりと言ってのけた。
「俺は容姿以前に、女の子に優しくできない男は魅力なんてないと思う」
「……は?」
水樹はさらに淡々と続ける。
「確かに海藤は女の子にモテる容姿をしてるし、これまで散々モテてきたんだと思う。だから地味な俺のことを見下すのもよくわかる。けど、そうやって女の子にキレたり、乱暴にするのは海藤の言う“陰キャ、陽キャ”以前の問題じゃないか?」
こ、コイツ……!
好き勝手言いやがって……!!!
「俺は親の仕事柄、たくさん容姿が優れた人に会って来たけど、みんな容姿に負けないくらい人柄が優れた人が多かった。本当のイケメンって、外見と中身が伴った人のことを言うんじゃないか?」
そして水樹は、俺をまっすぐ見て言った。
「その点、海藤は――イケメンじゃない」
「ッ!!!!!!!!!」
水樹の発言に少し離れたところで俺たちを見ていた雪宮さんたちが言う。
「水樹さんの言う通りですね」
「勘違いしちゃう人多いよね~、彼みたいな」
「見てて恥ずかしい~! とっても残念な人っ」
「ウグッ……!」
三人の言葉が胸に突き刺さる。
周囲もほとんどの人が水樹の意見に賛同しているようで、俺を見る目が批判一色になっていった。
嘘だろ?
俺が……あの海藤葉月がこんな陰キャに完敗?
……そんなの、絶対許せない!
俺が積み上げてきたプライドに誓って……!
水樹を睨み、拳をぎゅっと握りしめる。
俺を見下すような水樹の目。
頭がカッとなって、正常な判断ができなくなって。
気づけば俺は水樹に殴り掛かっていた。
――しかし。
「ッ!!!!!!!!!!!!」
殴るに至らなかった。
いや、殴れなかった。
背中を伝う嫌な汗。
水樹から醸し出される異様な圧が、俺の体を震わせていた。
な、なんだ……これ。
体が本能的に水樹はヤバいと告げている。
怖い……怖い怖い怖い。
震えが止まらない……知らない、こんな感覚。
「じゃ」
水樹が三人の下に戻り、立ち去っていく。
やっと圧から解放されたと思ったのに、俺の体は震え続けていた。
まるで恐怖を刻み込まれたかのように。
「……海藤くんがこんなに気持ち悪い人だと思わなかった」
「え?」
真奈美ちゃんが吐き捨てるように言う。
「マジで気持ち悪い。ちょっと海藤くんのこといいなと思ってた自分を殴りたいくらい」
「俺、は……」
「さようなら。金輪際関わらないで」
真奈美ちゃんが俺を睨み、立ち去っていく。
俺は一人、その場に取り残された。
膝から崩れ落ち、ひたすらに絶望する。
周りはそんな俺をまるで腫れ物を見るかのように囲んだ。
「海藤終わったな」
「海藤くんってあんなに終わってたんだ」
「前からいけ好かない奴だとは思ってたんだよ」
「ずっと偉そうだったしな」
「普通にせいせいするわwww」
「ざまぁみろよwww」
「海藤くんの連絡先消そ」
「もう見たくもないんだけど」
「イタい男www」
……あぁ、あぁ。
なんでこんなことに……俺は、俺は……!
「あぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
――この日、海藤葉月の脳は破壊された。
粉々に砕け散ったプライドと共に。
♦ ♦ ♦
※大沢美琴視点
電話は繋がらず、メールも既読にならない。
「どうしたのかな……葉月」
葉月とも連絡が取れないし、敦也もずっと前から連絡が取れない。
こんなこと、今までなかった。
もしかして……。
――……やら、れた。水樹朔に……やられた
「っ!!! そ、そんなわけないでしょ! 敦也が、葉月があんな奴に……!」
間違いないはずなのに、嫌な予感が離れてくれない。
だ、大丈夫だよ。
私たちが復学したら、また最高の毎日が……!
「大丈夫、だよね……?」