第34話 革命を起こせ!
控室に連れてこられる。
隣では西海がメイクをしてもらっていて、正面の鏡には前髪で目がほとんど見えていないもさっとした俺が映っていた。
「ほんとに俺でいいんですか? どこからどう見ても雑誌に載れるような容姿じゃないと思うんですけど」
「そこは安心してください! うちには超一流のヘアメイクさんがいますし、何よりあのHIROMIさんとKAYAさんの推薦ですから! しかも息子さんともなれば、朔さん以上に相応しい代役はいません!」
「は、はぁ」
マネージャーが興奮気味に話す。
「ではちょっと私、ヘアメイクさん呼んできますね! 少し待っていてください!」
控室を勢いよく出て行くマネージャー。
取り残された俺に、父さんと母さんはニヤニヤしながら話しかけてきた。
「遂に朔も芸能界デビューかぁ」
「昔からさりげなく勧めてはいたけど、全然靡かなかったものね~!」
「そりゃできるなら目立ちたくないし。でもほんとに大丈夫なのか? メンズモデルの代役が俺で」
「大丈夫よ~! 私が保証する! ね、博臣さん?」
「何の心配もいらないよ。朔はさらっと撮ってくればいいんだから。それに、今回の主役は西海ちゃんなんだしさ」
「が、頑張ります!!!」
やる気十分の西海。
しかし、俺は少しだけ引っ掛かっていることがあった。
「でもどうして俺を代役に推薦したんだ? いくら大至急とはいえ、見た目に無頓着な俺を推すなんて普通考えないだろ?」
俺の質問にぽかんと口を開ける二人。
やがてニコッと笑うと、二人口を揃えて言うのだった。
「「それはもちろん、面白そうだったから」」
狂ってるだろこの二人。
「でも、代役に最適だと思ったのは本当よ? だって朔は私たちの子だもの。問題ないわ」
「うんうん、香也の言う通りだ」
どうやら親馬鹿でもあるらしい。
「悪いな、西海。父さんと母さんのせいで代役が俺になっちゃって」
「ううん! そんなことないよ! むしろありがたいというか……もはや申し訳ないというか」
「申し訳ない?」
「だってさっくん、雑誌撮影とか嫌いそうじゃん? だからきっとやりたくなかっただろうなって」
俯きながら言う西海。
「確かに、やりたくはないな」
「しょ、正直だね……」
「――でも」
これだけは誤解のないように伝えなければいけない。
西海をまっすぐ見ると、混じりっけない言葉で告げた。
「せっかくの西海の仕事を無駄にしたくないから」
「っ!!!!!!!!」
俺の言葉に、西海が顔を真っ赤にさせる。
「そ、そっか! さ、さすがさっくんだな~! あはははは……ほんと、さっくんだね」
「?」
言ってる意味が理解できず首を傾げていると、父さんと母さんがニヤニヤしながら俺のことを見てきた。
「ほんと、朔はこういうところよねぇ。博臣さんのDNAを継いでるって感じするわ~!」
「朔の場合は無意識だからちょっと性質が違うけどね」
「え?」
さっきから会話に置いてけぼりにされている気がする。
頭の上にはてなマークを浮かべながら三人を見ていると、慌ててヘアメイクさんがやってきた。
「ふんふん……なるほど。ばっさり切りたいから時間もらっていい?」
「わかりました」
「じゃあ帆夏ちゃんは先に個別撮影の方よろしく!」
「はい! じゃあさっくん、がんば!」
「おう?」
やる気満々で控室から出て行く西海。
「さてと、久しぶりにやりがいがありそうなのが来たね……グフフフフ……」
「よ、よろしくお願いします」
「よろしくッ!!!」
こっちもやる気凄いな……。
ヘアメイクさんがハサミを手に取る。
そして慣れた手つきで俺の髪にハサミを入れていった。
――三十分後。
「水樹朔くん入りまーす!」
マネージャーに案内され、事務所の三階にある撮影スタジオに足を踏み入れる。
初めての雰囲気だ。
これがプロたちの仕事現場。
父さんと母さん、そして西海はこういうところに常に身を置いているのか。
「よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。
――しかし。
「「「「「…………」」」」」
みんな俺を見て固まっていた。
西海でさえ一言も発さず、俺をじっと見ている。
やはり場違いだっただろうか。
急に素人が現場に入るなんて。
若干不安に思っていると、やがて、
「マジかよ……」
「嘘でしょ?」
「あの二人の子供とはいえ、ここまでとは……」
「やば……」
ぽつりぽつりと聞こえてくるスタッフの声。
カメラマンと思わしき人は無言で俺に近づいてくると、肩に手を置いて言った。
「俺は君を撮るために生まれてきたんだ!!!」
「絶対違いますよ」
やけに興奮気味のカメラマンに背中を押され、西海の隣に並ばされる。
「よろしく、西海」
「…………」
「西海?」
「…………ハッ!!!! う、うん……よ、よろしく」
西海が俺をちらりと見て、慌てて目をそらす。
どうしたんだろう。いつもならこんなことないのに。
「じゃあ撮るよ二人とも!!! 芸能界に革命が起こるまで……三! 二! 一ッ!!!!」
――パシャリ。
……この時の俺は、想像もしていなかった。
この撮影がとんでもない事態を引き起こすことになるなんて。




