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第33話 芸能事務所前


 とある休日。


 父さんと母さんは結局数日、日本に滞在することになり、家にいたのだが今日は仕事があると言って家を出て行った。

 しかし、仕事道具が入ったバッグを持っていき忘れたようで、俺が届けることになり。


 最近二度も来ていたため、もはや見慣れた道を歩く。

 そしてやってきたのは――



「あれ、さっくん? なんでここにいるの?」



 目的地の前でばったり西海と会う。


「あ、西海。今日も仕事か?」


「うん! 今日は雑誌の撮影があってさ~! うちの事務所で!」


「そうか」


「それより、なんでさっくんがここにいるの?」


 西海が首を傾げる。

 答えようとした――そのとき。




「朔~! わざわざありがと~!」

「ごめんな、休日に来てもらって」




 父さんと母さんが事務所から出てくる。

 

「いいよ、暇だったから」


 父さんにバッグを渡す。

 これにて俺の用件は済んだのだが……。



「えぇ⁉ ほ、本物⁉ 本物だよね⁉⁉⁉」



 西海が口を押えて声を上げる。

 その視線の先には変装なんて一ミリもしていない父さんと母さんがいた。


「なんだ朔。この子と友達なのか?」


「友達っていうか、まぁ……」


「さっくん! なんでそんな親し気に話してるの⁉ この人たち知ってるよね⁉ 日本人なら知らないわけないよね⁉」


「知ってるも何も俺の両親だからな、この二人は」


「…………へ?」


 西海がぽかんと口を開ける。


「さ、さっくんのご両親? うちの事務所所属の大人気アーティストのHIROMIさんと、大人気モデル兼女優のKAYAさんが……ご両親⁉」


「なんでそんな説明口調なんだ?」


 興奮気味の西海に、父さんと母さんがニコリと笑いかける。


「どうも初めまして。朔の父親の水樹博臣みずきひろおみです」


「朔の母親の水樹香也みずきかやです。よろしく~」


「えぇええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!」


 西海の声が事務所前に響き渡るのだった。










「どうして言ってくれなかったの⁉」


 西海が食い気味に訊ねてくる。


「言う必要ないと思って」


「あるよ! 私の事務所の先輩だし、日本人で知らない人はいないくらい有名人じゃん⁉ 普通言わない⁉」


「言わないと思うけど」


「普通言うよ! 言いふらすよ! 言い散らかしもするよ!」


「は、はぁ」


 一度も西海のような考えに至ったことがないので共感できない。


「でもそっか。だからさっくんは事務所の場所知ってたんだ……そう思えば納得できるというかなんというか……」


 ブツブツと独り言を言う西海。

 すると父さんと母さんが俺の耳元でヒソヒソと言い始めた。


「ちょっと朔! どういうことなのよ!」


「お前には雪宮ちゃんっていう彼女がいるんじゃないのか?」


「なのに西海ちゃんみたいな可愛い子とも仲良さそうにして……いつの間に女の子侍らせちゃうようなクズ男になっちゃったのよ!」


「彼女いないしクズ男じゃないから」


「しまいにはいないとか言って……香也、朔には女性関係の教育が必要みたいだ」


「そうね! 女の子一人として悲しませないように、根掘り葉掘り枝は折りで教えましょう!」


 枝は折りってなんだよ。


 俺が呆れていると、今度は西海に話しかける。


「西海ちゃん」


「ひゃ、ひゃいっ! な、なんでしょうか!」


 父さんと母さんに話しかけられて明らかに緊張した様子の西海。

 誰にでもフランクに接する西海には珍しい光景だ。


「朔にひどいことされてない? されてたら言ってね?」


「水樹家の方針では、女の子にだらしない男は厳格に処罰すると決まってるんだ。例えば一人で峠を越えさせるとか、琵琶湖の水質を改善させるとか」


「後者は専門家にしかできないだろ」


 父さんと母さんの言葉を受け、西海は全力で首を横に振った。


「いえいえ! さっくんにひどいことなんてされてません! むしろいつもアタシによくしてくれるというか、さっくんは私にとっていてくれるだけで回復できるありがた~い存在というか……ひどいの対義語で言うなら“すごい”です」


 ひどいの対義語はすごいなのか?


「そ、そうか……西海ちゃんがそこまで言うなら息子を信じてみようか」


「そうね。まぁ私は初めから朔はそういうところもしっかりしてると思ってたけど」


「有無も言わさず初めから疑ってただろうが」


 俺のこれまでの人生を見て、どこが遊んでる人間に見えるんだろうか。

 むしろ遊ばれている。

 大沢にフラれた動画を拡散されたぐらいなんだし。


 でも、両親はそれを知らないみたいだ。

 SNSとか見ないからな、この二人。


「西海ちゃん、これからも朔のことをよろしくね?」


「不愛想だし無表情だし、天然で鈍感なところもあるけど受け入れてやってほしい」


「も、もちろんです! むしろ……だ、抱きしめちゃいますよ!!!」


「まぁ~!」


 パーッと顔を明るくさせる母さん。

 西海は「フンス!」と荒く息を吐き、意気込んでいた。


 こないだに引き続き、どうして父さんと母さんは最近知り合った雪宮たちにことごとく会っていくのか。

 奇異な巡り合わせに思いを馳せていると、事務所から慌てた様子で社員の人が出てきた。


「あ、マネージャーさん!」


「帆夏さん! ……とHIROMIさんにKAYAさん⁉ 事務所にいらしてたんですね!」


「野暮用があってね。それよりどうしたの? 慌てた様子で」


 マネージャーはちらりと西海を見ると、しょんぼりした様子で話し始めた。


「じ、実は今日雑誌の撮影だったんですけど、メンズモデルの子が急遽来れなくなってしまって……カメラマンさんの予定もあるので、急遽代役を立てなければいけないんですけど、全然見つからなくて……」


「そうなんですか⁉ せ、せっかく取れた大きなお仕事なのに……」


 落ち込む西海。

 すると父さんが何か閃いたのかポンと手のひらを叩き、マネージャーを見ながら言った。



「あ、ちょうどいい代役なら心当たりがあるよ」



 父さんの考えに共鳴した母さんが「あぁ~! 確かにそうね!」と声を上げる。


「だ、誰ですか⁉ ぜひ紹介してください!」


 食い気味に父さんに言うマネージャー。

 父さんはニヤリと笑うと、さらりと言ってのけた。









「うちの息子なんてどうかな、その代役に」









「…………え?」


 メンズモデルの代役が……俺?


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