第3話 興味ありません
やってくる大沢たち。
俺が見えてないのか、橋本たちは俺の前にいる明らかに別格のオーラを放つ美少女、雪宮氷莉に熱視線を注いでいた。
「どうしてどうして⁉ どういう用件でナリ高来たの⁉」
「落ち着きなよ寛人。雪宮さんが引いてるでしょ?」
「ったく、これだからチビでモテねぇガキはよォ」
「二人とも言ってること酷くない⁉」
橋本たち男三人組がワイワイと雪宮を囲む。
ジロジロと見られているにも関わらず、雪宮の表情は一切変わっていなかった。
「なんですか? あなたたちは」
雪宮が力強く言う。
すると海藤が爽やかな笑みを浮かべながら雪宮の肩に手を伸ばした。
「ごめんね? うちの寛人が怖がらせちゃって。でも悪い奴じゃないからさ。あ、そうだ。自己紹介まだだったよね? 俺の名前は海藤葉月。それでこっちは……」
「――やめてください」
雪宮が海藤の手を払いのける。
「……え?」
唖然とする海藤。
しかし、すぐに笑顔を戻した。
「あはは、急に距離感近すぎちゃったか。ごめんね?」
「ガハハハハハッ! 葉月でもフラれることあんだなァ! さすがは『白銀の女神』ってか?」
竜崎が雪宮に顔を近づける。
「ふぅん、噂通り可愛いじゃん。俺様のタイプとはちっと違うが、もちろん対象内だぜ。ヒヒッ」
「マジそれな! ガチで可愛いわぁ! あ、そうだ! 今から俺たちカラオケ行くんだけど一緒にどう⁉ うわそれ絶対楽しいじゃん! 俺って天才? 天才に違いない! みこっちゃんたちもいいよね⁉」
橋本に視線を振られ、大沢が品定めをするように雪宮を見る。
「ふーん……ま、別にいいけど」
「楽しいかはさておきだけどねぇ~」
「ナイスナイス! じゃあさ雪宮ちゃんっ! 六人でカラオケ行って、盛り上がってさ! 一気に仲深めちゃって、そんで……!!」
「――お断りします」
「……ふぇ?」
間抜け面を浮かべる橋本。
雪宮は断固拒否の姿勢を取っていた。
冷たい目で五人を見ると、突き放すように話し始める。
「用事があってここに来たので、あなたたちと遊ぶようなことはできません。そもそも、用事がなくても答えは同じですが」
「え、えっと……あはは! そ、そうだよね~! 急にはキツイか!」
「そ、そうだよ寛人。いくら寛人が人見知りしないからって、相手のこともちゃんと考えてあげないとさ」
「うっかりしてたわ~! あははっ! ごめんごめん!」
橋本が取り繕うように笑う。
「ってか誰に用があんの⁉ よかったら俺たちが呼んできてあげよっか? しょうみ、この高校なら俺たちが一番目立つっていうか? 顔広いしさぁ~! じゃんじゃん俺たちに頼ってもらって……」
「その必要はありません。だってすでにここにいますから。――ずっと探していた人が」
雪宮が俺を指さす。
橋本たちは俺の方に視線をスライドさせ、驚いたように目を見開いた。
「「「「「…………え?」」」」」
口を間抜けのようにぽかんと開ける五人。
「はぁ⁉ こいつに用って……あの雪宮氷莉が⁉ こんな奴とォ⁉⁉⁉」
「あはは……それはどういう冗談かな?」
「冗談ではありません。この人に用があって、校門で待っていたんです」
「ちょ、ちょっと待ってよぉ! こいつって……ひ、人間違いじゃない⁉ あの『白銀の女神』が、こんな見るからに芋臭いオタクくんに用なんて……あ、ありえないでしょwマジで……」
「――ありえない?」
「「「「「ッ!!!!!!!」」」」」
橋本の言葉に、雪宮はさらに鋭く、氷柱で刺すかのように橋本たちを睨む。
「ありえなくないですし、人間違いでもありません。私はずっとこの人を探していたんです。そして昨日、SNSで回ってきた動画を見て確信しました。私が探していたあの人だって」
「なっ……」
雪宮が俺の横に並ぶ。
そして俺の腕を雪のように白くて綺麗な手で掴んだ。
「「「「「ッ⁉⁉⁉」」」」」
「すみませんが、ついてきてもらってもいいですか? ここでは落ち着いてお話できそうにないので」
「え?」
雪宮に腕を引かれて歩き始める。
すると橋本たちが慌てて進路方向に回ってきた。
「ちょいちょいちょい!! オタクくんに用とか冗談でしょ⁉ 時間の無駄だから辞めときなって! ね、ね⁉⁉⁉ 俺たちと遊んだ方がきっとたの……」
「時間の無駄ではありません。むしろあなたたちと遊ぶことの方が時間の無駄だと思いますが」
「うぐっ!!」
胸を押さえる橋本。
「そんなこと言うなって! ってかそいつがフラれる動画見たんだろ? ならわかるっしょ! こいつがしょうもねぇ、噓告にも気づかねぇでぬか喜びしてるようなクソ陰キャだって……」
「――不愉快です。どいてください」
「ぐはっ!!!」
地面に膝をつく竜崎。
「まぁまぁ、落ち着いてよ雪宮さん。人違いかもしれないでしょ? だからここは一旦、俺たちも交えて話すっていうのは……」
「あなたたちを交えて話す必要性が感じられません。というか普通に邪魔です」
「ぐっ……そ、そんなこと言わずにさぁ! ね? というか俺、正直に言うと君に興味あるんだ」
「葉月⁉」
大沢が驚いたように声を上げる。
「だからお茶でもどうかな? いいお店知ってるんだ。そこでゆっくり……」
「――私はあなたに一切の興味もありません。そして私が今、興味を持っているのは、この人だけです」
「……へ?」
唖然とする海藤。
雪宮は三人のことなど気にも留めず、俺の腕を引っ張った。
「行きましょう」
「お、おう」
雪宮に連れられ、校門から離れる。
「……嘘、でしょ」
「なにあれぇ……三人とも相手にされないとか、ありえないんだけどぉ」
わずかの間で起こった出来事に周囲がざわつく。
「おいおい、あの海藤たちがフラれたぞ」
「相手にもされてなかったな」
「つか今、アイツに興味あるって言ってなかったか?」
「マジで⁉ あんな陰キャと⁉」
「どうなってんだよこれは……!」
「波乱の展開だぜ……」
「『白銀の女神』が遂に……⁉」
そんな周囲の声なんて気にせず、雪宮はずんずんと進んでいくのだった。
雪宮に連れられてやってきたのは、人気の少ない公園。
雪宮に促され、人一人分の間隔を空けてベンチに座った。
沈黙が重く横たわる。
「えっと……」
訳も分からず連れて来られたので、どうしたものかと思い悩む。
すると雪宮が俺に顔を向けて話を切り出した。
「……あの。覚えていませんか? 私のこと……そして、あの日のことを」
それから、雪宮は話し始めた。