第28話 三大美少女集結
あれから、桜川は男子生徒の件を警察に相談した。
きっとあの男子生徒には然るべき処分が下されるだろう。
もちろん俺も、桜川のことは気にかけるつもりだ。
そして一夜明け。
朝の喧騒を感じながら学校に登校する。
教室にやってくると、いつもとは違う視線を向けられていることに気が付いた。
「ん?」
視線の下を辿ってみる。
するとそこには……。
「おはよう、水樹」
「おはよぉ~童貞くんっ」
教室の中心に集まる、見た目が派手なグループ。
海藤と片瀬が俺のことをニヤニヤと見ていた。
そうか。今日で停学が明けたのか。
「おはよう」
一応挨拶を返しておく。
すると二人がぷっと吹き出し、声を上げて笑い始めた。
「あははははっ! おはようだってさ」
「私たち、今童貞くんに挨拶返されたぁ~? 噓ぉ~、やばぁ~」
挨拶を返しただけで、どうしてこんなに笑われなきゃいけないんだろう。
どうやら停学処分を受けたというのに、全く反省していないらしい。
「敦也もそう思わない? おかしいよね?」
「っ!!!」
海藤に見られ、ビクリと反応する竜崎。
なんだ、竜崎もいたのか。
「そ、そう……だな」
俺の顔色を伺いながら竜崎が言う。
「敦也っちどしたのぉ~? なんかいつもとノリ違くなぁい?」
「そ、そんなことねェよ……い、いつも通りだよ俺さ……お、俺はァ」
「?」
首を傾げる海藤と片瀬。
竜崎は終始、俺のことをチラチラ見ていた。
どうやら竜崎にはちゃんと、あのときの恐怖が残っているらしい。
明らかに俺に怯えている。
多少海藤と片瀬の前では強がっているが、以前のような食って掛かるような勢いはどこにもない。
牙を抜かれた獣。もはや子犬だ。
「っていうか、よく俺たちが復学する日にのうのうと学校来れたね」
「私たち、今日は童貞くん来ないんじゃないかって思ってたんだよぉ~?」
「どうしてだ?」
「え? だって俺たちが戻ってきたんだよ? 学校にさ」
「何かされるんじゃないかって考えたでしょぉ~? よく来たよねぇ~。その度胸だけは褒めてあげてもいいけどねぇ~?」
「あはははっ! 確かに」
俺を見て笑う海藤と片瀬。
俺は二人をまっすぐ見て言った。
「だから、それがどうして学校に来ない理由になるんだ?」
「「…………は?」」
ぽかんと口を開ける海藤と片瀬。
「ひっ!!!!!!!!!!!」
竜崎だけが俺を見て恐怖していた。
海藤と片瀬はやがて人を小馬鹿にするような笑みを浮かべ、
「ほんと意味わかんないんだけどぉ~www」
「あんまり強がることはオススメしないな? 確かに水樹は俺たちにあの場所で一泡吹かせたって思ってるかもしれないけどさ。でも――どっちの方が立場が上なのか、ちゃんと考えた方がいいかもね?」
不敵な笑みを浮かべる海藤。
「ね、敦也?」
「っ!!!!! ……あ、あァ」
海藤と片瀬が何か企んだ目を俺に向けてくると、もう用はなくなったのか俺から視線を逸らす。
そして三人で話し始めた。
そんな三人から目をそらすと、俺は席に座った。
迎えた放課後。
昇降口を出て、校門に向かっている道中。
「お疲れぇ~、童貞くんっ」
「今日も帰るのが早いんだね」
海藤と片瀬に絡まれる。
竜崎は一歩後ろで、相変わらず怯えたように体を震わせていた。
「そういえばさ、あの後『白銀の女神』とはどうなの?」
「気になるぅ~。もしかして……付き合っちゃったりぃ~?」
「付き合ってないけど」
俺がそう答えると、二人はぽかんと口を開いたまま顔を見合わせ、笑い始めた。
「あははははっ! 付き合ってないけどって、そりゃそうでしょwww」
「今私たちぃ、冗談で聞いたんだよぉ~? だって、君みたいな童貞くんが『白銀の女神』みたいな美少女と付き合えるわけないじゃん~!www」
「そもそも、あぁやって話してもらえたのが奇跡なんじゃないかな? もっと身の程をわきまえた方がいいと思うよ? 俺はさwww」
「そうか」
「ぷっ! そうかだってさぁ~www」
「まぁまぁ、からかうのはそこらへんにしてあげようよ。水樹も気にしなくていいよ?」
海藤が俺の肩に手を置く。
そして、魔王みたいな人を最上級に下に見た笑みを浮かべて言った。
「そもそも、お前みたいな陰キャがあんな美少女と関われるわけないんだからさwww」
そう言って、今度は爽やかな笑みを浮かべてくる。
こうして海藤と片瀬に絡まれている間に、気づけば校門まで来ていて。
二人は俺を馬鹿にして満足したのか、俺から少し離れようとした――そのとき。
「水樹さん!」
「「…………え?」」
声をかけられる。
その声の主は……。
「「は、白銀の女神ぃッ⁉⁉⁉」」
驚いたように声を上げる二人。
雪宮は俺の下にやってくると、二人を見て首を傾げた。
「なんですか、この阿呆な顔をした二人は」
「それは俺も聞きたい」
「う、嘘だろ……? ま、まだ関係が続いてるなんて……」
海藤が絶望した顔で呟いた――そのとき。
「あ、さっくん!」
「水樹先輩~!」
さらに二人、遅れてやってくる。
その二人を見て、海藤と片瀬は目を見開いて叫んだ。
「「はぁ⁉ 『常夏のプリンセス』に『桜月の天使』までぇ⁉⁉⁉」」




