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第26話 キショいです


 地面に倒れる男子生徒が顔を歪める。


「ッ!!!!!!!!!!」


 やがて俺を睨むと唾をまき散らしながら叫んだ。


「な、何すんだお前ッ!!!」


「それはこっちのセリフだ。今桜川を襲おうとしただろ」


「し、してない! あ、アレは桜子ちゃんにきょ、教育をしようと思っただけで……ひ、必要なことだったんだ!」


「必要なこと? 桜川が嫌がってたことが必要なわけがない。ただお前が欲望のままに迫っただけだ」


「ッ!!! お、お前ぇ……な、何様だ! 僕の桜子ちゃんに近づいて……ふ、ふざけるな! 桜子ちゃんは僕のものだぞ!!!」


 ひどい暴論だ。

 聞くことすら堪えられない。


「桜川はお前のものじゃない。見えないのか? 桜川が嫌がってるのが」


「そ、それは……」


 男子生徒が桜川を見る。

 桜川は嫌そうに男子生徒を見ていた。

 それにようやく気が付いたのか、ショックを受けたように「あっ……」と声を漏らす。


「……で、でも僕に優しくしてくれたんだ……桜子ちゃんは」


 今にも泣きそうな声で話し始める男子生徒。


「で、デブでブスで、お、女の子なんて二次元くらいにしか相手にされてなかった僕が……さ、桜子ちゃんみたいな可愛い女の子に話しかけてもらえたんだ。そ、それが嬉しくて……だ、だから! 僕をこんな気持ちにさせたせ、責任を桜子ちゃんは負う必要があるんだぁ!!!!」


 さらにとんでもない暴論が飛んでくる。

 本当に酷い。


「ぼ、僕の行動は間違ってない……さ、桜子ちゃんはわかってないんだ! ぼ、僕と桜子ちゃんがどれだけ運命の糸でむ、結ばれているのかを……さ、桜子ちゃんは僕が幸せにする。ぼ、僕しか幸せにできないんだ! だ、だから……!」



「――さっきから何言ってるんだ、お前は」



「ッ!!!!!」


「全部お前の勘違いだ。自分の都合のいいように解釈してるだけだ。桜川はお前を好きになる責任なんてないし、お前しか幸せにできないわけじゃない。全部お前の妄想だよ」


「な、なんだと⁉」


 怒りを露わにする男子生徒。


「お、お前に偉そうに言われる筋合いなんかないぞ! ちょ、ちょっと桜子ちゃんと仲いいからって……ぼ、僕と同じ陰キャじゃないか! いや、むしろ僕よりカッコよくない陰キャだ……き、気持ち悪いオタクだ!!!」


「そうか。お前がそう思うなら別にそれでいい」


「ブフォwwそ、そうやってすぐ開き直るとこもい、陰キャだなwwwだ、ダサい……さ、桜子ちゃんの隣にふ、相応しくない……www」


「それも、お前がそう思うのは勝手だ。――だがな」


 俺を馬鹿にするように笑う男子生徒を睨みつける。

 自信満々なチンピラだって怯んだ、背筋が震えるような圧。


「ッ⁉⁉⁉」


 男子生徒は雰囲気の変わった俺を見て、驚いたように目を見開いた。

 こいつはただ虚勢を張ってるだけで、話し方からも自分の自信のなさが分かる。

 だからこそ、扱いやすい。


 俺は小さく息を吸うと、言葉をぶつけるように言った。






「桜川のストーカーして、嫌がってるのに無理やり迫ったのは、誰かを幸せにする男に相応しい行動とは絶対に言えない」






「ッ!!!!!!!」


 後ろに下がり、地面に手をつく男子生徒。


「先輩……」


 男子生徒に圧をかけ続ける。

 すると後ろから足音が聞こえてきた。


 やがて俺の隣で止まると、鈴のように涼し気な声で言う。




「――私も同感です」




「は、白銀の女神ぃ⁉⁉⁉」


 驚く男子生徒。

 俺よりもナチュラルに圧が強い雪宮は、ドストレートに男子生徒を睨みつける。


「はっきりと言わせてもらいますが、あなたがさっきから言ってることは聞くに堪えないです。あまりにも自分勝手で、醜くて――気持ちが悪い」


「うぐっ!!!!」


「優しくされたから、桜川さんがあなたを好きになる責任がある? 何を言ってるんですか? 意味が分かりません。気持ち悪いです」


「ぐはっ!!!!!」


 気持ち悪いの二連撃が男子生徒に突き刺さる。


「確かに桜川さんにはいわゆる“あざとさ”のようなものがあって、勘違いしてしまう男性は多いと聞きます。ですが、それを理由に桜川さんを襲うことを正当化するのはありえないかと。気持ち悪いを通り越して気色悪いです。略してキショい、です」


「ッ!!!!!!!!!!!」


 胸を押さえる男子生徒。

 雪宮のような美人にここまで罵倒されたら、あれほどに暴論を展開した男子生徒でさえ苦しんだ様子だった。


「――そしてなにより」


 雪宮が人一倍語気を強め言い放った。







「水樹さんをあなたのような人が罵倒したことは許せません!」







「……え、そこ?」


 雪宮はスイッチが入ったように語り始める。


「水樹さんは素晴らしい人です。とてもじゃありませんがあなたに罵倒されていいレベルにありません。素敵な人です。誰からも愛される才能を持っている人です。強い人です。正義感をしっかりと持っている人です。それが私にとっては、あぁまた面倒ごとに巻き込まれに行って、女の子に好かれてしまうんだろうなと落胆してしまう理由になってしまいますが、そこもまた水樹さんの魅力です。世の中は難しいです。その難しさも含んで、水樹さんは美しいんです!」


 雪宮に美しいって言われたんだけど。


「だから、あなたのような見た目ではなく心が醜悪で見てられない人を水樹さんの下に置くことはありえません。水樹さんの方が数億倍素晴らしいです。そしてあなたは気色悪いです。略してキショいです。――以上です」


 澄ました顔で言い終えると、満足したように一息つく。

 

 男子生徒はぽかんとしながらも、やがてみるみるうちに目じりに涙をため、そして……。


「うわぁああああああああっ!!! フグっ……うぅ……うわぁああああああああああっ!!!!」


 号泣しながら、男子生徒は情けない後ろ姿を見せて逃げて行ったのだった。

 

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― 新着の感想 ―
おもしろい!主人公が正体不明で最強とかまったりさんを意識したりしてるのかな?         不快でしたら無視してください
2025/06/07 22:38 ゆきみやちゃんかわいい
水樹さんの下に置く は、上に置く、じゃないのかなと思います。
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