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第24話 返り討ちと嫌な予感


 ――校舎裏にて。


「うぐっ……」


「い、いてぇ……」


「な、なんなんだよお前は……」


 地面にうずくまる上級生三人組。

 連れて来られた場所が人気の少ない校舎裏でよかった。

 こうして遠慮なく返り討ちにできたのだから。


 苦しそうに顔を歪める三人を見下ろす。


「ひっ!」


「か、勘弁してくれ!」


「もうお前に何もしねぇから! な⁉」


 慌てて助けを乞うような目で見てくる三人。

 俺はしゃがみ、一人をじっと見ながら訊ねた。


「どうして俺を呼び出したりなんかしたんですか?」


「そ、それは……お、お前が調子に乗ってると思って……」


「調子に乗ってる?」


「っ!!! う、ウザかったんだよ! お前みたいな奴が翠高の美少女に好かれてんのが!」


 表情を見る限りこれが本音か。

 他の二人にも同様に視線を向ける。


「う、羨ましかったんだよ! 誰だってそうだろ! あんな可愛い女の子と仲良くできたらよ!!」


「そ、そうだ! 俺たちだって桜子ちゃんとかと遊びてぇんだよ! ちやほやされてぇんだよぉ!」


「……そうですか」


 立ち上がると、三人に背を向けて歩き出す。


「く、クソが……」


「マジで何者なんだよ……アイツ」


 三人から聞いて、ようやくわかった気がする。

 最近抱いていた、モヤモヤの正体を。










 校舎裏を出て、教室に戻ろうと廊下を歩く。



「おい、あれって水樹だよな? 先輩たちに呼び出されてたっていう」

「たっぷり絞られたんだろwwあの顔、絶対ボコされた後だって」

「可哀そうだなww」

「でも顔に傷とかなくね?」

「傷あったら大事になんだろ! 先輩たちもそこまで馬鹿じゃねぇって」

「確かになwでもせいせいするわ。アイツだけいい思いし過ぎww」

「それなーwボコされねぇと釣り合い取れねぇだろwww」



 注目を集めながらも、俺はさっき分かったことを思い出していた。

 さっきの上級生三人組と言い、今こうして気持ちの良くない視線を向けられていることと言い。


 俺は今、妬まれているんだ。


 一体俺の何が気に食わないのかとずっと考えていた。

 しかし、その理由は簡単だった。

 雪宮や西海、桜川みたいな他校の有名な美少女に待たれるというシチュエーションは、普通の人からすれば羨ましいんだ。


 だから俺に嫉妬の感情を向けてくる。

 ただそれだけだったのか。


「(……よくそんなめんどくさい感情抱けるな、俺に)」


 怒るのと同じで、妬むのは体力を使うだけで何も生まない。

 だから賢い行動とは決して言えない。


「……あ」


 そういえば、桜川に付きまとっていたストーカーも同じ気持ちだったんだろうか。

 俺と桜川が一緒にいることに嫉妬して、それで……。


 なんだか嫌な予感がする。

 俺が上級生三人に呼び出されたように、ストーカーは桜川に対していき過ぎたことをしてしまうんじゃないか?


 だとしたら、桜川は……。


「…………」










 放課後。


 校門を潜ると、当たり前のように彼女がやってくる。

 しかし、その顔は膨れっ面でどこからどう見ても不機嫌そうだった。


「……お疲れ様です、水樹さん」


「お疲れ、雪宮」


 雪宮が俺をじっと睨む。


「な、なんだ?」


「いえ……別に。ただ水樹さんの頭の中、心の内側をじっくりしっかり見てみたいと思っただけです。ついでにいらない記憶も除去出来たらなと」


 わからないけど、今の雪宮の発言ってだいぶヤバくないか?

 いや、雪宮は至って真剣そうだし……普通なのか。


 少し引っ掛かりつつも、雪宮と並んで歩き始める。

 しかし、いつもより少しだけ距離感が近かった。


「水樹さん、こないだ西海さんと会ったそうですね」


「あぁ、そうだな」


「しかも連絡先を交換して、メッセージのやり取りをしていると」


「そう、だな」


 ほぼ西海の流れに引きずられているみたいな感じだが。


「ふぅん……そうですか」


 雪宮が俯き、ムスッと頬を膨らませる。

 まるで拗ねた子供みたいだった。


「それと、昨日は桜川さんと話したそうですね? しかも喫茶店に二人で行ったとか」


「行ったな」


「……桜川さんはまだ15歳。高校一年生です。やましい感情を抱いたらそれは犯罪になりますよ」


「ならなくないか?」


「なりますよ!」


「そ、そうか」


 雪宮に食い気味に言われ、頷いてしまう。

 この世にそんな法律あっただろうか。


「その後、桜川さんとは連絡を取ったりしているんですか? ちなみに反語です」


「その補足の仕方は聞いたことないけど、取ってないよ。連絡先も交換していないし」


 桜川の目的はあくまでもあの日の俺に対する感謝を伝えること。

 それが喫茶店で達成されているので、俺とこれ以上話す必要はない。

 その点、雪宮と西海が例外と言える。


「そ、そうですか……よかったです。水樹さんを犯罪者にしなくて……ふふっ」


 少し嬉しそうに頬を緩ませる雪宮。

 本当に俺が犯罪者になると思ったんだろうか。

 それくらいじゃないと基本クールな雪宮が微笑まない気がする。


「今日の私は気分がいいです。今水樹さんが私に対するお礼を言ってくれれば、なんでも叶えてあげます。なんでもですよ? なんでもが例外を含むまがいものの何でもではなく、本当の何でもで……」


「落ち着いてくれ雪宮」


「落ち着けません。言いましたよね? 今日の私は機嫌がいいと。それは邪魔も……こほん。静かな時間を過ごせているというのもありますし、それに……ん? あれは……」


 雪宮が前を歩く女子生徒に気が付く。

 翠明高校の制服に発色のいいピンク色の髪。


「桜川?」


 桜川が一人で歩いている。

 それだけなら別によかった。

 しかし……。



「……ブフォwwさ、桜子ちゃぁんぅう……」



 電柱の陰に隠れる肥満体型の男子生徒。


「あれはこないだの……」


 嫌な予感は案外早く的中してしまったかもしれない。



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