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第21話 あざと女子の一刺し


 美少女が首を傾げながら俺を見る。


「先輩?」


 大きくて宝石のように輝く瞳と目が合う。

 どこからどう見たってこの子は俺に用があるようだ。

 しかし、今度こそ本当に心当たりがない。


「……確かに俺は水樹朔だけど、同姓同名の人違いじゃないか?」


「第一声が人違いって……さすがの私でも驚いちゃいますよぉ~」


 クスクス笑う彼女。


 ピンク色のボブくらいの長さの髪が特徴的で、顔立ちは幼くも整っていて美しい。

 雪宮が綺麗系ならこの子は完全に可愛い系で、“小悪魔”という言葉が似合いそうな雰囲気だった。


「人違いなんかじゃありません。私は水樹先輩に用があって来たんです」


 美少女が俺に一歩近づいてくる。


「そういえば自己紹介まだでしたね。私、桜川桜子さくらがわさくらこって言います。翠明高校に通う一年生です。以後、お見知っちゃってくださいね?」


 翠明高校ってことは雪宮や西海と同じ高校か。

 どうやら俺はやけに翠明高校に縁があるらしい。

 もちろん、全く心当たりがないのだが。


「っていうか先輩、ちょっと表情硬いですね。緊張してますか? ふふっ、いいですよ? 私に緊張して、ドキドキしても……ね?」


 桜川が俺の顔を覗き込んでくる。

 そして可愛くニッと微笑んで見せた。

 一連の流れが洗練されたもののように感じる。


「緊張してるわけじゃない。ただ俺に何の用があるのかなって思ってるだけだ」


「もぉ~照れ隠しはいいですよ~! 全く、水樹先輩は素直じゃないなぁ~」


 桜川が俺の肩をバンバン叩いてくる。

 そんな俺たちを見て、周囲はさらにざわつき始めた。



「またアイツじゃんか!」

「なんであんな陰キャに三大美少女が集まってんだ⁉」

「陰キャが爆モテする時代なのか……⁉」

「なんか仲良さそうじゃね⁉」

「はぁ⁉ なんでアイツが⁉」

「桜子ちゃんと仲良さそうにしてるの羨ましいィッ!」

「許せない……桜子ちゃんは俺の推しなのに!」

「どうなってんだよ……おかしいだろこれェ!」

「そこ代われクソ陰キャ!」



 もはや罵声まで飛び交っている。

 しかし、桜川はそんな周囲の声なんて気にせず俺を見つめていた。

 

 桜川の意図が全くわからない。

 困惑していると、俺と桜川の下に男子生徒三人組が近づいてきた。


「ねぇねぇ。君、桜子ちゃんだよね?」


「誰ですかぁ? あなたたちは」


「あれ、覚えてない? 前に駅前のゲームセンターで話したと思うんだけど」


 笑いながらそう言う男子生徒たちは、セットされた髪型に着崩された制服とチャラそうな雰囲気があった。

 校章の色からして三年生だろう。


「あぁ~! そういえばそんなこともあったような?」


「あったってww結構仲良く話したんだよ? 俺たち」


「ってかナリ高来てくれたのマジで嬉しいわ~。で、どう? こないだ遊べなかった分、今から俺たちと遊ばない?」


「奢るよ? マジでさ」


 俺のことなんて気づいてないみたいに桜川に話しかける三人。

 桜川は笑みを浮かべながら、やんわりと答えた。


「ごめんなさ~い! 提案はすっごく嬉しいんですけど、今日は用事があるっていうか? 先輩たちと遊ぶのは難しいっていうか~」


「用事って……もしかしてそいつと?」


 一人が俺のことを見る。

 まるで『そいつなんかと用事があるわけがない』とでも言いたげだ。


「そうなんですよぉ~。すみませんっ。またの機会にお願いします~」


「っ! ……いやいや、そいつより俺らと遊んだ方が楽しいよ? 何倍もさ」


「だよだよwwそいつとの用事なんていいじゃん、ね?」


「すみませ~ん。どうしても外せなくって~、ね?」


 桜川が俺のことを見てくる。


「えっと、そもそも用事はな――」



「ね? 先輩っ?」



「……そう、だな」


「ですよね~!」


 パーッと顔を明るくさせる桜川。

 頷くことしかできなかった。

 いや、どちらかというと頷かされたに近い。


「ということなので、私たちはこれで失礼します! では!」


 桜川が俺の腕を取って歩き始める。

 すると男子生徒たちは焦ったように桜川の肩を掴んだ。


「ちょっ、ちょっと待ってよ! 俺たちの話はまだ終わって……」





「……はぁ、めんどくさい」





「「「……え?」」」


 一瞬、桜川の雰囲気がドス黒いものに変わる。

 それはふわふわと可愛い、これまでの桜川の雰囲気とは全く違うもので。

 男子生徒たちはぽかんと口を開いたまま固まった。


 すぐに桜川はいつもの可愛らしい笑みを浮かべ直すと言った。


「しつこい男の人は、女の子に嫌われちゃいますよ~?」


「え、えっと……で、でも俺たち、桜子ちゃんと遊びたいっていうか……」


「私言いましたよね~? 用事あるって?」


「「「っ!!!!」」」


「私今から、こっちの先輩と用があるんです。それ以外はこの高校に用はないっていうかぁ~。先輩たちに会いに来たわけじゃないこと、わかってくれますかね~?」


 ニコニコと笑いながら桜川に言われ、バツが悪そうに押し黙る三人。


「というか、往生際の悪い人って……ふふっ、カッコ悪いですよね~。私はすっごくそう思っちゃいます」


「「「うぐっ!!!!」」」


「先輩たちはそんなカッコ悪い人にはならないでくださいねっ? では~!」


「「「…………」」」


 三人を振り払い、ニコニコで歩いていく桜川。

 笑みを浮かべながらも、心の内はどこか笑っていないように見えた。


「先輩、場所を変えるのでついてきてください。そこでたっくさんお話ししましょうね? ふふっ♡」


 しかし、すぐに可愛く微笑んでみせる。

 その変わり身の早さに困惑しながらも、腕を引かれるがままついていくのだった。





     ♦ ♦ ♦





「……お、俺たちフラれた?」


「つか、今の桜子ちゃんなんか雰囲気違ったよな?」


「でも、相変わらず可愛かった……なのに」


「……チッ。澄ました顔でいやがって……うぜぇな、アイツ」


「最近調子乗りすぎだよな、冴えないモブのくせに」


「調子乗んなよ、陰キャが」




 

 

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主人公に絡んでくる女全員見た目だけの地雷ばっかで草も生えない 彼はずっとこれに耐えなきゃいけないのか…不憫過ぎる
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