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第20話 ナリ高のネームド陰キャ


 ※田中優斗視点



 僕の名前は田中優斗たなかゆうと

 翠明高校に通う二年生だ。


 僕という人間を一言で言うなら“モブ”。

 悲しくも逆に誇らしくもあるモブである。



「なぁ見ろよ!」

「今日も『常夏のプリンセス』は可愛いな……」

「付き合いてぇよなぁ」

「こないだの動画も最高に可愛かったし!」

「めっちゃバズってたよな!」

「さすが芸能人だよなぁ……」



 教室の中央に座り、見た目が華やかな陽キャ女子たちに囲まれる美少女。

 西海さんは紛れもないネームドキャラ。

 僕とは対照的な存在だ。


「いやぁ~最近ボーっとしちゃうこと多くてさ! 勉強も手につかないよ~」


「だから今日の課題全部忘れてたんだ」


「え、課題? 課題なんてあったの?」


「もう忘れてる⁉」


 うんうん。

 あの陽キャ女子たちの中でも圧倒的なオーラを放つ『常夏のプリンセス』は今日も可愛い。

 

 クラスの男子全員の注目を集めてると言っても過言ではないし、相変わらずすごい人気だ。

 なんていつものごとく、ぼんやりとモブらしくクラスを見ていると……。




「――すみません、西海さんはいますか?」




 教室に響き渡る透き通った声。



「お、おい見ろよ!」

「『白銀の女神』がいるぞ!」

「やっべぇ……マジで神々しいな……」

「綺麗すぎる……ちょ、直視できないッ!」

「朝から雪宮さんを見れるなんて……!」

「ロケットスタート過ぎるだろ俺たちの朝は!」



 ざわつく教室。

 

 ど、どういうこと?

 これまで翠高が誇る美少女、『白銀の女神』と『常夏のプリンセス』が交わることなんてなかったのに……!


「……ちょっとごめんね?」


 西海さんが立ち上がり、雪宮さんが待つドアへと向かう。

 やがて向き合うと、お互いに凄まじいほどの圧を発し始めた。


「アタシに何の用かな? 雪宮さん?」


「何の用って、心当たりありますよね?」


「心当たり? うーん……ちょっとわかんないなぁ?」


「わからないはずがありません。だってあなたの顔はすごくニヤけています。ということは絶対……水樹さんと何かあったに違いません」


「へぇ、気になるんだ。あの『白銀の女神』が、ね?」


「その呼び方はやめてもらえますか? 『常夏のプリンセス』さん?」


「フフフフ……」


「フフフフフフフ……」


 静かに微笑む二人。


 こ、これはただならぬ雰囲気が……!

 


「雪宮さんと西海さんがなんで話してんだ?」

「共通点なくね?」

「そういえばあの二人、“ナリ高”行ったって噂になってたよな?」

「あぁー! 《《あのパッとしない男》》か!」

「雪宮さんに関しては毎日のように通ってんだろ?」

「通い妻とか言われてたよな」

「あの難攻不落の『白銀の女神』が……」

「西海さんも行ったんだって、その男の下に」

「はぁ⁉ マジかよ!」

「何者だよそいつ……」



 そ、そうだったんだ。

 二人はガラが悪いで有名なあのナリ高に行ってたんだ……しかも、一人の男の子に会いに……。


 そ、そんなの大ニュースだよね⁉


「とにかく、私は真剣なので。ちょっかいを出すのはやめてもらえますか?」


「ちょっかいなんて失礼だな~? アタシもさっくんには真剣だし?」


「っ! そ、その呼び方やめてください!」


「やだよ~! さっくんっ、さっくんっ♪」


「は、ハレンチですよ!」


「ハレンチじゃないも~ん」


 いがみ合う二人。

 あそこまで取り乱した『白銀の女神』は初めて見た。


 一体二人をあそこまでにしてしまうナリ高のある男とはどんな人なんだろう。

 モブとして、あまりにネームドすぎるその人に震えてしまう。


「す、すごいことになってるぞ……」


 モブである僕は、一人物語が動いていることを感じるのだった。






「……ふぅん、さっくんですか……」





     ♦ ♦ ♦





 竜崎との一件から数日が経ち。


 今日も今日とて放課後、俺は真っすぐに家へと帰宅していた。

 昇降口から校門までの道を歩きながら、ずらっと続いているメッセージアプリのトーク画面を見る。



『氷莉:今日は曇りで少し残念な気分ですね』


『氷莉:水樹さんはどんな気分ですか?』


『氷莉:せめて心だけは晴れの気分でいてくれたら私も嬉しいです』


『氷莉:そういえば最近、名前が暑苦しい人と話したみたいですね』


『氷莉:何を話したんですか?』


『氷莉:どんなことを思ったんですか?』


『氷莉:水樹さん?』


『氷莉:……もしかして今もあの女と話してるんですか?』


『氷莉:そんなわけないですよね』


『氷莉:ねぇ、水樹さん?』


『氷莉:……ねぇ』


『朔:話してない』



 この後にもまだまだ雪宮からのメッセージが続いている。

 これがほぼ毎日なのだから、さすがに怖い。

 どうしたものかと悩ましいのだが……俺の悩みの種はこれだけじゃなかった。


 別のトーク画面。

 そこにもずらりとメッセージが続いており……。



『帆夏:やっほーさっくん!』


『帆夏:元気してる?』


『帆夏:あれ? おーい!』


『帆夏:アタシのメッセージを寝かせるとは……』


『帆夏:ふっふっふっ……さっくんもなかなか大物だね』


『帆夏:……さっくん?』


『帆夏:ちょっと返信遅くない⁉』


『帆夏:さすがのアタシでも自信なくなっちゃうんだけど!』


『朔:悪い、見てなかった』



 こちらもまだまだスクロールすればメッセージが続いている。

 

 今俺は、二人からのメッセージでスマホを埋め尽くされている気分だった。

 スマホは普段ほとんど見ないのでマメに返すという習慣がない。

 だからこうして気づいたら溜まってしまうのだ。


「……はぁ、今日は早く返さないと」


 アプリを開いてメッセージがそれぞれ十件以上溜まっているのは面倒だ。

 それにきっと普通の人にとってはこれが当たり前なんだろうし、俺も世の中に追いつかないと。


「あ、そういえば今日、雪宮用事あるって言ってたっけ」


 ほぼ毎日校門前に来る雪宮だが、こうして来れない日は連絡してくれる。

 実のところ、一緒に帰る約束なんてしてないんだが。


 そういえば西海も放課後はオーディションがあると言っていた。

 ということは、今日は久しぶりに一人で帰れるのか。

 

 ……と、思っていたのだが。


「…………ん?」


 校門付近に見える、見覚えのある人だかり。



「おいおい! 見ろよあの子!」

「うわ、可愛い……やっば」

「あれが翠高の『桜月の天使』か……」

「初めて生で見たけど可愛すぎんだろ……」

「これほんとにただの女子高校生か?」

「他の二人とはまた違うタイプだな……」

「でもまたどうしてうちに来てんだろうな」

「またアイツじゃね?」

「な、なわけねぇだろ……今回はさすがになぁ」

「二度あることは、実は三度ないし……」

「翠高三大美少女が……なぁ?」



 声を聞く限り、どうやら今日も美少女が校門前に立っているらしい。

 とはいえ、今回ばかりは心当たりが本当にない。

 あれから雪宮や西海のように、誰かを助けたことがあったか思い出そうとしたけどあの二人だけだった。


 今回は“さすがに”俺じゃないだろう。


 そう思い、校門を通過する。

 俺の予想通り声をかけられず、そりゃそうだと思いながら歩いていると……。



「あ、先輩!」



 後ろから声が聞こえてくる。

 きっと俺の後に通った人を待っていたんだろう。


 声の方を見ず、そのまま歩いていく。

 すると足音が近づいてきて……。



「水樹先輩!」



 俺の苗字を呼ばれた。

 が、水樹なんてありふれた苗字だ。

 きっと後ろの人の名前がたまたま俺と同じで……。




「水樹朔先輩っ!」




 今度はフルネームを言われ、さらには服の袖を掴まれて引き留められる。

 振り返ると、そこにはピンク色の髪が特徴的な、これまたアイドルのような美少女が立っていた。








「もうっ、待ってくださいよ、先輩っ♡」








 俺の目を見て、美少女が頬を膨らませながら言う。




 えっと…………また俺?

 

 

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