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俺のフラれる動画がバズったら、他校で有名な美少女たちが殺到しました  作者: 本町かまくら


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第19話 さりげない言葉


 西海の表情がわずかに陰る。


 これまでずっと“明るい”が一番に来ていたからだろうか。

 西海の沈んだ表情から目が離せなかった。


「アタシさ、今モデル兼インフルエンサーって感じで活動してるんだけど……実は昔から女優さんになりたいって思っててね? 事務所に入ってからオーディションいっぱい受けてるんだけど……全然受かんなくて」


 西海が乾いた笑みをこぼす。


「事務所入るまでは楽しい! ってだけで来れたけど、急にダメダメで……ちょっと自信なくなっちゃってるんだ」


「西海……」


「だからなんか、すんごい速度で成長して勝っちゃったさっくんとか見てたら、すごいな、いいな~って思っちゃったりして。アタシはさっくんみたいにすごくないな~っていうか……ヒーローじゃないなぁって、なんか思っちゃった」


 夕陽を背に西海が話す。

 やがて西海ははっと我に返ると、いつものように笑い始めた。


「って、きゅ、急に変だよねアタシ! ごめんね⁉ なんか夕陽にあてられちゃったのかな⁉ 普段はこういうこと絶対言わないんだけど……ってか、弱気になることほとんどないし! あはは、どうしちゃったんだろうアタシ……忘れて⁉ 今の全部……」





「――変じゃないよ」





「……え?」


 気づいたら口から言葉が出ていた。

 でも、そこに全く後悔はなくて。

 

 驚いたように口をぽかんと開けている西海に、俺の思っていることを伝えようと体を向けた。


「誰だって弱気になるときはあるだろ」


「それは……さっくんも?」


「俺もあるよ、当然。……たまにだけど」


「たまになんだ……」


 たまにというか、思い返せば弱気になったときを思い出せない。

 が、これは黙っておこう。

 今話したいのはそこじゃない。


「それで西海、さっき自信がなくなってるって言ってたよな」


「う、うん」


「俺は西海のことよく知らないし、オーディションがどれくらい難しいのか分からない……でも、西海は自信を無くす必要なんてないと思う」


「え? どうして……」


 西海が恐る恐る訊ねてくる。

 俺は西海をまっすぐ見て、混じりけのない言葉で言った。








「だって、西海はきっと女優になれるから」








「ッ!!!!!!!!!!」


「というか西海なら何にだってなれると思う。それくらい西海は“魅力的”だよ」


 俺が言い終わると、西海は口を手で押さえた。

 そして揺れる瞳で俺のことを見るのだった。





     ♦ ♦ ♦





 ※西海帆夏視点



 さっくんの言葉が胸に飛び込んでくる。


 なに、これ……。

 すっごく不思議な感覚だけど、一つ確かなのは――すっごく嬉しいということ。


 さっくんの言葉は短かったし、シンプルだった。

 もしこれが小説やドラマなら、もっとドラマチックで凝った言葉が出てくるんだと思う。


 でも、アタシはどんな言葉より今のさっくんの言葉に胸を打たれた。救われた。

 それは何より、さっくんに言われたからなんだろう。


 さっくんの目は本気で、嘘なんてどこにもない。

 そんなさっくんに言われ、見つめられ。


 なんだか本気でなれるような、失っていた自信が湧き上がってくるような気がしてくる。


「俺は応援してるよ、西海のこと」


「ッ!!!!!!」


 さっくんは無表情だ。

 あまり笑ったりもしないし、和らいだりもしない。


 でも、今のさっくんの顔はどこか優しくて。

 心がじんわり満たされていく。


 そんな多幸感を噛み締めながら、手を口元から離す。

 俯き、グラグラだった足元をしばらく見てからさっくんに視線を向けて言った。





「さっくん、ありがとうっ!」





 心の底から、今のアタシは笑えていた。

 今までの笑顔が嘘だったんじゃないかって思うくらい、すっごく。


「ど、どういたしまして?」


「だからなんで疑問形⁉」


 さっくんは面白おかしい。

 そしてちょっぴり変な人だ。

 

 でも――すっごく愛おしくて、素敵な人だ。










「送ってくれてありがとね」


「あぁ」


 事務所の自動ドアを開くと、アタシはさっくんを見て言った。



「またね、さっくん」


「おう」



 短い挨拶を交わして、さっくんと別れる。

 さっくんはなんともない様子で帰っていった。

 そんなさっくんの背中をじっと眺める。


 さっくんがアタシの背中を押してくれたんだ。

 もっともっと、頑張んないと!


「……あ、そういえば」


 ふと思い出す。

 今日もそうだけど一年前、さっくんは当たり前のように事務所に来ていたけど……どうしてさっくんは事務所の場所を知ってたんだろう。


 一年前もスマホを一切見ずに来ていたし、今だってまるでよく来ていたみたいだった。

 そんなの、さっくんが……。

 

「…………ま、これは今度聞こっと!」


 そう思いながら、さっくんのエールを胸に事務所に入っていくのだった。





     ♦ ♦ ♦





 ※大沢美琴視点



 今日も今日とて葉月たちと電話する。


『そういや最近、敦也と連絡取れてないんだけどどうしてるか知ってる?』


『そういえば俺も取れてないな』


『由美は知らなぁ~い』


「私も知らない……けど」


『何してんのかな、アイツ。脳筋だからイラつきすぎて外で暴れてそうだけどwww』


『あはは、確かに』


『バカだもんねぇ~敦也っちは』


「…………」


 敦也と連絡が取れなくなったことが、何故か引っ掛かる。

 こないだの雪宮を攫った友達が返り討ちにされて、警察送りになった件もあるし……嫌な予感しかしない。


『ってか、そろそろ停学明けっしょ⁉ 葉月と由美はさ』


『一足先にごめんね、二人とも』


『やっと外出れるの嬉しぃ~』


『羨ましいぞこの~!!!』


 葉月と由美は私たちより停学期間が二週間短い。

 私と寛人はさらにもう二週間あった。


『でも安心してぇ? 童貞くんの様子は由美たちがしっかり見ておくからさぁ~?』


『アハハハハハハハハ! 助かるわ~! ってか、案外あの陰キャ、今頃雪宮にフラれたりしてなwww美琴もそう思わね?ww』


「っ!! ……そ、そうだね」


『つかそもそも、俺らの学校の連れにいじめられてる可能性もあるくね?www』


『あぁー、確かにww俺たちが停学になって隣のクラスの大関とかすごい怒ってたし』


『由美たち友達多いもんねぇ~?』


『由美は特にな?w』


『寛人っち下品なんだけどぉ~。ってかそんなんじゃないしぃ~』


 確かに、寛人の言う通りナリ高の奴らがあのクソ陰キャにどんな対応なのか気になる。

 絶対に良いように思ってないはずだ。


 だってカーストトップの私たちに盾突いたわけだし……そこは期待してもいいかもww


『ま、早く停学明けて仕返ししたいよなぁ~アイツに!』


『あははっ、そうだね』


 私もアイツにとにかく仕返しがしたい。

 この屈辱を全部倍にして返してやりたい。


 ……けど、やっぱり引っ掛かる。

 


「水樹、朔……」



 ほんとにただの陰キャなの? アイツは……。



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