第17話 竜崎の悪足搔き
その後の展開は、まさに一方的だった。
シュートを放つ俺。
これまたスリーポイントラインからで、焦った竜崎が手を伸ばしてくる。
「オラァアアア!!!」
しかし、それを計算に入れた上でのタイミング、高さで竜崎の手にかすりもせずボールはリングに向かっていく。
「なっ!!!!」
またしてもボールはリングのふちにも触れず、ゴールに吸い込まれた。
「同じことの繰り返し、か」
「ッ!!!! テメェ!!!!!」
しかし、それからも竜崎を見て覚えたドリブルを駆使してシュートを放ち、そのすべてを沈め。
――三分後。
「はァ……はァ……はァ……」
膝と手を地面に突き、息を切らす竜崎。
「勝った……お兄ちゃんが勝った!!!」
「全部スリーポイントで結局十二点の圧勝! すごすぎるよ!」
駆け寄ってくる小学生たち。
俺は勝利した。
バスケ部のエースである竜崎に。
「ふぅ、意外にこんなもんか」
「ッ!!!!!!!!!!!!!!!」
ふぅと一息つくと、悔しそうに顔を歪める竜崎を見下ろした。
♦ ♦ ♦
※竜崎敦也視点
負けた……。
う、嘘だろォ?
俺様がバスケで負けるなんて……それも、見るからに初心者だった奴にィ……!
……なんなんだよ、コイツ。一瞬のうちに成長しやがった。
初めはド素人だったのに俺の動きを見て、吸収しやがった!
……ありえねぇ、だってコイツはいつも教室の隅にいるような、社会的に“下”の人間のはずだァ!
でもこの“成長速度”と俺様に勝てるほどの“胆力”。
信じられねぇが……バケモンだ。
……いやいや、何考えてんだ俺様はァ!!!
クソ陰キャだぞ⁉
俺様を停学に追い込んだゴミカスだぞォ⁉
そんな奴が俺様より“上”なんて……そんなのありえていいはずがねぇ!!!
「ふぅ、意外にこんなもんか」
「ッ!!!!!!!!!!!!!!!」
調子に乗りやがってぇ……!
「さっくんっ!!」
西海がクソ陰キャの下に駆けよる。
そしてカスの腕に抱き着いた。
「ッ⁉⁉⁉」
「さっくんすごいよ! 超強いじゃん!!」
「ありがとう。でも九点も取られたし、危なかったよ」
「とか言って、めちゃくちゃ楽勝だったくせに~! 能ある爪は鷹を隠すとはこのことか~! って、アタシ難しい言葉使えたの初めてかも⁉ やったー!」
「……爪が鷹隠してるよ」
「……はっ! け、ケアレスミスだ……! でも赤点回避! やったー!!」
「お、おめでとう?」
「えへへ、どういたしましてっ!」
興奮した様子で西海がクソ陰キャに抱き着く。
その度にぽわんぽわんと押し付けられる豊満な“胸”。
制服越しからでもわかる。
形もいいし、俺様がマジで揉みてぇと思ってた胸をアイツは腕に押し付けられてぇ……!
クソッ!!! クソクソクソクソッ!!
羨ましいぃいいいいいい!!!
陰キャの分際で……ふざけんじゃねぇ!!!
そのおっぱいは俺様のモンだぞォ⁉
「ヒューヒュー!」
「お兄ちゃんたちアツいね~!」
「これがこいびとってやつか~!」
「えへへ~! アタシたち、めっちゃホットでしょ?」
「ちょっと西海、俺たち付き合ってるわけじゃ……」
「じゃ、付き合っちゃう?」
「え?」
「ぷっ! さっくん表情変わんなすぎ~! もう少し動揺とかしてくれないとつまんないよ~」
「わ、悪い」
「ッ!!!!!!!!!!!!!」
しかも俺様の前でイチャイチャしやがってぇ……!!!
あぁあああああああああああああああああああああああああ!!!
ムカつくぅううううううううううううううう!!!
地面を拳で殴りつける。
すると頭上から声が降ってきた。
「竜崎」
「ッ!! テメェ……!」
「約束通りコートとボールをこの子たちに返せ」
「……チッ」
ほんとは返したくねぇが、今は『常夏のプリンセス』の前だ。
これ以上ダセェところをさらすわけには……。
「そして、この子たちに謝れ」
「…………あァ?」
「謝罪するって約束だったよな? だから謝れ」
「ッ!!!!!!!!!」
……やっべぇ。
カチンと来ちまった。
コイツマジで調子に乗ってやがる。
俺様にバスケで勝ったからって、『常夏のプリンセス』の前だからってイキがりやがってェ……!
「……俺様が謝罪だとォ? テメェ、どの分際で俺様に指図してんだァ⁉」
「どの分際って、そういう約束だろ?」
「約束とか関係ねぇよォ!!! 俺様が謝る⁉ ガキ共にィ? なわけねぇだろォ!!! 誰が俺様より雑魚な奴に謝んなきゃいけねぇんだァ!!! あァ⁉」
「話が違う」
「話が違うとかどうだっていいんだよォ!!! 俺様はしたくねぇからしねぇ! ……決めたぜェ。コートもボールも返してやんねぇ。全部俺様のモンだァ!!!」
立ち上がり、クソ陰キャを睨む。
すると西海がじっと俺を見た。
「キミ、ほんとにめちゃくちゃ言うね?」
「めちゃくちゃなんかじゃねぇ! 俺様はつえぇ! だから全部俺様の言う通りにいくんだよォ!! お前もォ!! 必ず俺様のモンにしてやるゥ!!! ヒヒッww」
『常夏のプリンセス』の体を舐め回すように見る。
「今に見てろォ? 必ずテメェの体ァむさぼりついて、俺様の“竿”無しじゃァ満足できてねぇ体にしてやるゥ……!!!」
「ふぅん? あっそー」
西海が興味なさげにそっぽを向く。
クッ……ムカつく……!
俺様に全く興味ねぇ感じも、全部……!
あぁークソッ!
我慢できなくなってきたァ……!
もういっそのことやっちまうか?w
今、ここでェ……!
「――そんなことどうでもいい。謝れ、竜崎」
「……はァ?」
クソ陰キャが俺を見る。
「お前は俺に勝負で負けたんだ。だからお前の気持ちなんてどうだっていい。約束通り謝れ」
「ッ!!!!!!!」
いい加減コイツにも我慢できなくなってきたァ……!
バスケで勝ったからって調子乗りやがってェ……!!!
「……身の程っつーモンを教えてやるよォ。テメェが、俺様にオスとして圧倒的に“下”ってことをよォ!!!!!!」
クソ陰キャに殴り掛かる。
『常夏のプリンセス』の前でボコボコにしてやる。
そんで!! 俺様が結局はつええぇんだってことをォ……!!!
証明してぇ……!!!!!!!
「――そうか。残念だ」
「……え?」
視界が急に反転する。
近くなる地面。
いつの間にかクソ陰キャの足元に目線があって。
「グハッ!!!!!」
打ち付けられる体。
いてぇ……な、何が起こったんだァ⁉
目に入る、俺様を見下すクソ陰キャ。
「もういいだろ――竜崎」
「ッ!!!!!!!!!!!!!」
背筋がブルッと震える。
絶対に敵わない、底の知れない相手に対して感じる寒気。
それを今、俺はコイツに感じていた。
「さっくんつよっ⁉⁉⁉」
『常夏のプリンセス』の声が降ってくる。
……は?
嘘……だろ。
俺、今コイツに投げ飛ばされたのかァ⁉
あのクソ陰キャにィ……俺様がァ⁉⁉⁉
「あァ⁉⁉⁉」




