第16話 こんな感じか
バスケコートに入り、準備体操をする。
そんな俺の傍らで、西海はワクワクした様子でボールをついていた。
「スポーツ対決……なんか漫画の王道展開みたいでいいね!」
「テンション高いな……」
もし俺が負けたら西海の連絡先をあの“輩”に渡さなきゃいけない。
そのリスクがあるだけでも相当嫌だろうに。
「どうして竜崎の条件を受け入れたんだ? 竜崎は一応バスケ部のエースだし、身長も見ての通り俺より断然高い。パッと見普通、俺が勝つなんてありえないと思うだろ?」
「んー、確かにそうかもね。でもさ」
西海はさも当然のことを言うみたいに言った。
「――さっくんが負けるはずないでしょ?」
西海の言葉にビリッと体が痺れる。
「まだほとんど話したことないのに?」
「だから話したことあるよ~、一年くらい前に!」
「一年も前だけどな」
「時間なんて関係ないし! アタシの勘がさっくんはアイツに負けないって言ってるの! それに、ヒーローは悪者に負けないでしょ? それが世の中のルールじゃん! ねっ?」
にひひと笑う西海。
どうやら本気で俺が竜崎に勝つと思っているらしい。
「アハハハハハハハハ! ったく、俺も舐められたもんだなァww」
竜崎がヘラヘラと笑う。
準備体操もせず、竜崎はすでにゴールの下に立っていた。
「西海、俺が勝ったらマジで連絡先交換してもらうぜぇ? そんで、俺様とデートだァ……!」
「好きにしたら~?」
「ハッ! ったく……ますます面白れぇ女だぜェ……!!!」
竜崎が再び高笑いする。
準備体操はこれくらいでいいか。
あとは靴ひもを結んで……準備完了だ。
「お兄ちゃん……」
小学生たちが不安そうに俺のことを見てくる。
「大丈夫だ。すぐに取り返してくる」
そう言うと、竜崎に向かって歩き始めた。
「ヒヒッwwwせいぜい『常夏のプリンセス』にダサいところ見せねぇように頑張れよ、クソ陰キャwwww」
「そうだな」
「ッ! ……チッ、腹立つ野郎だぜェ」
竜崎が俺の方にボールを投げる。
「ルールは簡単だ。バスケのルールに則って、十点先に獲った方が勝ち。そんだけだァ」
「わかった」
「お前からでいいぜェ。さぁ――ゲームスタートだァwww」
勝負が始まる。
ひとまずボールを地面に突き、様子をうかがう。
竜崎は余裕そうな笑みを浮かべながら、俺に間合いを詰めてくる様子もなかった。
「ほら、来いよクソ陰キャwww」
まさに“油断”という言葉が似合う表情。
バスケは見たこともないしやったこともほとんどない。
「……こんな感じか」
なんとなくボールの感覚を掴み、こういうのはゴール近くで打った方がいいと思い、ドリブルを開始する。
それでも竜崎は動かない。
ゴールに近づき、ここだと思ってシュートを放った――そのとき。
「素人がァ! 甘ぇよォッ!!!!!」
竜崎が俺の放ったボールを上から叩きつける。
そしてボールは彼方へと飛んでいき、タッチラインを割った。
「ったく、どっからどう見たって初心者じゃねぇかwwのくせしてバスケ部エースでプロにもなれる実力がある俺様に盾突くなんて……ハッ! 百年早えぇよォ!!!」
これで俺の攻撃失敗、か。
……なるほど、な。
♦ ♦ ♦
※竜崎敦也視点
ボールを持って雑魚と対面する。
今度は俺様のターン。
……ヒヒッwww
勝負するからにはちっとは自信あるのかと思いきや……ただ自信過剰なだけの雑魚だったかァwww
これは俺様の勝ち“確定”。
つまり、『常夏のプリンセス』の連絡先獲得っつーわけだァwww
なんてチョロいんだこの勝負はよォ!
ま、せっかく俺様の推しが見てるわけだしィ?
俺様のカッコいいところを見せて惚れさせてやっかァ。
そんでついでに……。
「オラよッ!」
スリーポイントラインからシュートを放つ。
それは綺麗な放物線を描いてリングに吸い込まれていった。
「教えてやるよォ!!! テメェがどんだけ身の程知らずで、敵に回した奴がどんだけすげぇ奴かってことをよォ!!!!」
こいつに絶望感を味あわせてやるぜェ!
そんで俺様の偉大さをその身に刻み込んでやるゥ!
「ハハハッ! これで三点! 俺様の得点だァ!!!」
「…………」
唖然としやがるカス。
驚け驚けwww
俺様の実力をよォ!
「……そうか。そこからシュートを打ってもいいのか」
ハッ!
意味わかんねぇこと呟いてやがるが、もう勝負は決まったも同然。
あとは俺様がどんだけこいつをいたぶって、西海を惚れさせるかだなァ!
「西海ィッ!!!! 約束忘れんじゃねぇぞォ!!! ハハッ!!!!」
「はいよ~」
余裕そうに手を振ってくる西海。
すぐに俺様のモンにしてやるよ。
待ってろ、『常夏のプリンセス』……!
その後、俺様が遊んでやって攻撃はカスのターンへ。
しかし、得点は九対ゼロ。
「やっと番が回ってきた」
ヒヒッwww
俺様の勝ちだぜェ……!!!
「オラ、さっさと打って来いよカスがァ!!!!」
「――わかった」
「……は?」
クソ陰キャがシュートモーションに入る。
しかも位置はスリーポイントラインから。
「んなとこっから入るわけが……あ?」
しかし、フォームはさっきと違ってあまりにも完璧だった。
放たれたボールは綺麗にリングに収まり、コートに転がっていく。
クソ陰キャは手のひらをじっと見ると、無感動に言った。
「こんな感じか、バスケって」
「ッ!!!!!!!!!」
な、なんだコイツはァ……!!!!!!!!




