第14話 面倒ごとホイホイ
河川敷を西海と歩く。
しかし、俺はこの子のことを知らない、もしくは覚えていないのでただひたすらに困惑していた。
「いや~嬉しいな~! さっくんとこうして再会できるなんてさ!」
しかもさっくんと呼ばれてもいる。
困惑する要素しかない。
「あのさ、失礼なんだけど……前に会ったことがあるんだっけ?」
「あ、そうそう! さっくん覚えてないんだもんね。ってかショックだな~。アタシとしては結構ドラマチックでフィクション的な? インパクト大の出会いだったんだけど」
「わ、悪い」
「いいよいいよ! ま、それも含めて話そうと思ってたし、このまま風を感じつつお話ししよっか」
「お願いします?」
「はい、よろこんでっ!」
無邪気に笑みをこぼすと、西海はワクワクした様子で話し始めた。
「あれは一年くらい前のことなんだけど、そのときちょうど芸能事務所に所属することになってさ。顔合わせ? 初めましての会? みたいなやつに行くことになって、事務所探してたんだけど全然見つからなくて……」
「ビルありすぎてどこかわかんないんだけど……うーん、ここかな?」
西海がスマホを見ながらキョロキョロと辺りを見渡す。
しかし、一向に目的の事務所は見つからなかった。
それからしばらく街を歩き……。
「や、ヤバい……全然見つからないんだけど⁉ 初めましてこんにちはで遅刻とかクビにされちゃうよ!!! ど、どうすれば……!」
頭を抱えていると、
「ねぇ、あれ西海帆夏じゃない?」
「あぁ! 最近SNSでよく見る!」
「インフルエンサー兼モデルの西海ちゃんだよ!」
「ヤバ! 実物可愛い~!」
「あの、すみません! 写真撮ってもらえませんか⁉」
「え、なに芸能人?」
「うわ、すっげぇ人だかり」
「あの子マジ可愛いな!」
女子高校生集団に見つかり、それから色んな人に囲まれる西海。
もちろん西海はファン対応を欠かさない。
「みんなありがとね~! これからも応援よろしくっ☆」
「「「「「きゃ~~~~~!!!!」」」」」
ピースまでしちゃって表では笑顔を振りまく西海だったが、内心は大焦り。
素早くファンに対応し終えると、慌てて事務所を探す。
しかし、あまりの方向音痴のせいで全く見つからず。
さらにはまたしてもファンに見つかり、削られる時間。
遂にはファンから逃げながら事務所を探すも、全然見つからない。
「うぅ……どうすればぁ……」
うずくまり、泣きそうになっていた――そのとき。
「大丈夫か?」
声をかけたのが俺、水樹朔だった。
その後、西海が芸能事務所を探していることを聞き、
「あぁ、そこなら知ってる。ついてきてくれ」
「え、マジ⁉ お願いしますお願いしますお願いします!」
「お願いしますは一回でいいから」
「ありがとうございますありがとうございますっ!!!」
「ありがとうもな」
それから、西海を芸能事務所に送る道中、他愛無くも色々な話をし……。
「ま、間に合った……!」
「じゃ、俺はこれで」
「ありがとね!! この恩はいつか……!」
慌てて芸能事務所に入っていく西海。
そこで俺たちは別れたのだった。
「……ってことがあって、慌ててたから連絡先とか、そもそも名前も聞き忘れちゃったんだよね~! めっちゃ感謝してたし、話して仲良くなりたいっ! って思ってたからすんごい後悔して……探してたんだよね、さっくんのこと」
西海の話を聞いて、ようやく思い出す。
「そういえばそんなこともあったな」
「さっくんにとってはそんなこと程度の話なんだ……ま、アタシのこと覚えてないくらいだもんね。割とレアなイベントだとは思うんだけど」
「そうかな」
「そうだよ⁉」
道案内とか結構するし、雪宮のようなトラブルにもよく出くわすので俺の中ではレア度が低い。
大沢たちの動画の件と言い、俺は面倒ごとに巻き込まれる体質なんだろうか。
「だからすっごく嬉しかったんだー。あの動画見て、さっくんだってわかってさ。まぁ、あの動画に関してはめっちゃ腹立ったし、アタシの友達に何してんだ! って思ったけどね。アンチしようかと思っちゃった。してないけど」
さっくん呼びどころかもう友達だったのか、俺。
「それで、今日ちょうどお仕事なかったから来たんだ~。で、会えた! 超嬉しいっ!」
「それは何よりだ」
「えへへ、どうも!」
西海はニカっと微笑む。
「でもどうして俺の名前知ってるんだ?」
「校門前にいた人に聞いた! 水樹朔くんって言うんだよね? うんうん、アタシの超好みの名前っ!」
「ど、どうも」
ってことは、俺の名前知ったのがほんの一時間前ってことだよな。
それでもうさっくん呼びで、しかも友達ってどれだけフランクなんだ、この子は。
「でもさっくんは変わらず優しくてのほほんとしてて最高だね! 会いに来た甲斐があったよ~!」
「ありがとう?」
「ちょくちょく疑問形なのなんで⁉」
「いや、自信がなくて」
「自信もっていいから! ありがとうが疑心暗鬼なのはありがとうの皮を被った何かになっちゃうし!」
「そ、そうか。……わかった。ありがとう」
「うん、よくできましたっ!」
またしても西海が俺の顔を見ながら笑う。
確かに周りから注目され、好意を持たれる理由がわかる。
それにあの芸能事務所に所属しているのも納得だ。
やっぱり、西海には圧倒的に“華”がある。
さすがは芸能人だ。
でも、なんでそんな人気者だろう西海にこんなにも評価されているんだろう。
そこが不思議でしかない。
「いやぁ~でもっ! 天気もいいし風も気持ちいいし! いい日だなぁ~!」
西海が歩きながら伸びをする。
確かに西海の言う通り天気がいい。
ふと、階段を降りた先にあるバスケのコートが目に入る。
「オラァッ!!!」
一人でバスケをする大柄の男。
小学生たちはその男を遠くから怯えたように見ていた。
「なんだあれは……」
しかもあの男にどこか見覚えがある。
ん? というかあれって……。
目を凝らしたその時。
その男が俺たちの方を見る。
やがて、俺の隣に立つ西海を見ると、
「あァ⁉⁉⁉」
大きな声を上げ、慌てて俺たちのところまで飛んできた。
「も、もしかしてお前、西海帆夏⁉ 『常夏のプリンセス』だよなァ⁉」
「本名と通り名を一回に言われたのは初めてだけど……うん! そだよー」
「マジかよォ!!!! こんなところで会えるなんて運命としか思えねぇ!!! あのさァ! 俺様、ずっとお前のことが……んぁ?」
ふと、長髪の男が俺を見る。
俺はこいつを知っている。
そしてこいつも、俺のことを知っている。
「はァ⁉ クソ陰キャ⁉ なんでテメェがここにいんだよ⁉ っつか……!!!」
俺と西海を交互に見て、ブちぎれるように言った。
「なんでテメェが『常夏のプリンセス』と一緒にいんだァ⁉⁉⁉⁉⁉」
停学中のクラスの陽キャ、竜崎敦也の顔が一瞬にして真っ赤になる。
……あぁ、また面倒なことになった。




