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第13話 陰キャの奪い合い


 騒然とする校門前。



「えっと……誰?」


「…………へ? ひど⁉⁉⁉」



 女の子がショックを受けたように顔を近づけてくる。


西海帆夏にしうみほなつだよ! 覚えてない⁉」


「えっと……西海? は初めましてかなと……」


「うそん⁉ ひどいよさっくん! アタシたちあんなに“情熱的”に言葉を交わしたっていうのにさ!!」


「「「「「じょ、情熱的⁉」」」」」


 よりざわつく周囲。

 『常夏のプリンセス』と呼ばれる彼女はわざとらしくグスンと鼻を鳴らした。


「ごめん、ほんとに覚えてないんだけど……」


「うぅ……せっかく動画見てあの人だ! ってワクワクしながらナリ高まで来たのに……探してたんだよ⁉ さっくんのこと!」


 なんで初めからさっくん呼びなんだろうか。

 ほんとに会ったことないと思うんだけど。


「えっと……」


「覚えてない⁉ 一年くらい前に街で……」


 彼女が話し始めようとした――そのとき。



「ちょっといいですか、二人とも」


 

 雪宮が間に割り込んでくる。

 その目は氷のように冷たく、どこからどう見ても怒っているように見えた。


「ちょっとかいちょ~! 今私、さっくんと話したいことあるから後にしてもらっていい?」


「ダメです。絶対にダメです。むしろダメです」


「えぇ? なんでよ~」


 項垂れる西海。

 雪宮はあからさまにため息をつくと、俺のことをジト目で見てきた。


「どうせ水樹さんのことですから、私と同じように覚えてないくらいさりげなく女の子を助けていたに違いありません。でもまさかこうしてタイミングが被るなんて……なんて気の抜けない人なんでしょうか。許せません……許すまじ……」


「ゆ、許すまじ?」


 どうやら雪宮は俺に対して怒っているらしい。


「とにかく、水樹さんは私と二人で帰る約束があるんです。だからあなたは帰ってください」


「手ぶらで帰るわけにはいかないよかいちょー! いや、一目見れただけで思い出という名の荷物を多少は持ってるところはあるよ? でも抱えるまでいかないと満足できない! 私は食いしん坊なんだよ!」


「何言ってるんですかあなたは」


 雪宮がこほんと咳払いする。


「とにかく帰ってください。ほら、行きますよ水樹さん」


「えっ?」


 雪宮が俺のことを引っ張る。

 すると西海がからかうように口を開いた。


「ふぅん? 学校で誰に告白されようが相手にもしないかいちょーが隣の高校の男の子を独占しようとしてる……へぇ? これは大事件だねぇ?」


 彼女の言葉に雪宮がぴくりと反応する。

 そして西海はニヤリと口角を上げて、続けて言った。







「もしかして……さっくんのこと好きだったりぃ?」







「っ⁉⁉⁉⁉⁉」


 雪宮の顔から湯気が上がる。

 慌てて西海に迫ると、捲し立てるように言い始めた。


「そ、そういうわけではありません! これはそんな単純なものではなく、もっと高尚な、別次元のお話なんです! というか勝手に推測で決めつけるのは人として良くない行為と言いますか、この先のあなたのことを考えたら私がしっかり問い正すのが世のため人のためと言いますか……!」


「えへへっ、かいちょーわかりやすいねぇ?」


「っ!!! やめてくださいその手の笑みは!」


 言い争う二人。

 そんな二人に周囲は、



「な、なぁ。どう見たってあの二人、あいつのこと取り合ってるよな?」

「大沢たちにフラれた動画がバズってる奴のことを?」

「なんであんな陰キャに固執してんだよ……」

「なんて羨ましい……! つか意味わかんねぇって!」

「夢だよな? 夢って言ってくれよ⁉」

「俺の推し二人が……うぅ」

「翠高の美少女二人があの陰キャ取り合ってんのか⁉」

「どうなってんだよこれ……」



 どんどんギャラリーも増えていく。

 しかし、雪宮と西海は全く気にした様子もなく口論を続けていた。


「第一、水樹さんの放課後は私と過ごすって決まってるんです!」


「え、そうなのか?」


「ほら、知らなかったみたいな顔してるよ?」


「知ってるはずですよ! 私メールで言いましたもん!」


「もんって。かいちょーもそういう年相応な女の子の怒り方するんだね~! 意外だなぁ~」


「っ~~~~~!!!」


 取り乱した様子の雪宮。

 何かを言いかけたそのとき。


「っ! こんなときに電話が……」


 ちらりと西海を睨み、電話に出る雪宮。


「はいもしもし。なんですかこんなときに」


『雪宮さん! 大至急生徒会室来てください!!』


「え? いやいや、今はどうしても外せない用事があって……」


『こっちも雪宮さん無しじゃヤバいんですよぉ~! 外せないです! 雪宮さん外せないです~~~~!!!』


「む、無理ですよ。今この場から離れてしまったら、その……家族の貞操の危機なんです」


『家族の貞操の危機ぃ⁉』


 ちょっと待ってくれ。

 家族の貞操の危機って、どこに雪宮の家族がいるんだ?


「かいちょーがそこまで入れ込むなんて……ふふっ、さっくんやるなぁ」


 あと、この人の近すぎる距離感は一体何なんだ。

 

『で、でも無理です! ほんとに来てください!!』


「家族の貞操の危機ですよ⁉」


『そんなことより生徒会業務ですッ!!! 待ってますから!!!』


「ちょっ……」


 電話が切れる。

 すると雪宮は悔しそうにスマホを握りしめ、鬼の形相で俺の肩に手を置いた。


「……水樹さん。絶対に変なところについて行っちゃダメですからね!」


「……え?」


「何かあったらすぐに電話してください。私に、すぐに! いいですね⁉」


「わ、わかった」


 よくわからないが頷いておくと、雪宮は唇を噛み、何とか納得した様子で立ち去って行った。

 取り残される俺と妙に馴れ馴れしい美少女。


「ふふっ、やっと二人きりになったねぇ~」


 西海が俺の横にぴたりとくっつくと、眩しいほどの笑顔を浮かべる。



「じゃあいこっか! 話したい事あるし~」



 えっと……俺の自由な放課後はどこに行ったんだ?





     ♦ ♦ ♦





 ※竜崎敦也視点



 久しぶりに外を歩く。


「やっぱ家に籠んのは無理だなァ」


 ほんとは停学中、許可なく家から出ちゃいけねぇ。

 でも、ずっと家に籠ってるなんて退屈で死んじまう。

 それにちょっとくらい出ても大丈夫だろ。


 っつーことで、親の目を盗んで俺様は河川敷を歩いていた。


「ん? あれは……」


 ふと目に入るバスケットゴール。

 そこでは小学生たちがバスケをしていた。


「ハッ! 最近してなかったし、ちと体動かすかァ」


 腕を回しながらコートに入る。

 すると小学生たちが俺様を見て怯えたように体を震わせた。

 ハッ、怖がってやがんなァ……ちょうどいいぜwww


「なァお前ら。今から俺様がここでバスケをする。だからボールとコートよこせ」


「え? で、でも……」



「あ? なんか文句でもあんのか?」



「「「っ!!!!!!」」」


「ひっ! ど、どうぞ……」


「お、ありがとよwww」


 小学生からボールを借りて、ゴールにシュートを放つ。

 ボールは美しい放物線を描いて、見事にゴールに吸い込まれていった。


「ハッ! ちょうどいいぜww」


 ムカムカしてたところだ。

 体動かしてこのストレスを発散するか。


「アハハハハハハハハハハッ!!! それにしても、やっぱり俺様は宇宙一うめぇなァ!!!!」


 あのクソ陰キャと雪宮に味あわされた屈辱と、家に籠って溜まっていた鬱憤をすべてぶつける。


 やっぱり楽しいなァ、俺様が大得意なバスケはよォwww





     ♦ ♦ ♦





 西海に連れられ、景色の開けた場所を歩く。


「アタシ結構好きなんだよね~! 河川敷!」





 

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― 新着の感想 ―
そこまで生徒会業務押し付ける意味がわからん ネタと判断してるんだろうが、ほんとに家族の危機で何か起こっても責任取れるんだろうか? 普通は翌日に回すか顧問か副生徒会長なりが対応しそうなもんだが 大人であ…
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