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第12話 二人目の有名人


 ※大沢美琴視点



 体から冷や汗が出てくる。


 そんなはずがない。

 見るからに貧弱で、喧嘩なんてしたこともなさそうなクソ陰キャがあいつら全員返り討ちにするなんて、そんな……!


「そうだ! 他の人にも電話して……!」


 急いで電話をかける。 

 しかし、誰一人として繋がらなかった。

 コール音だけが部屋に響き渡る。


「嘘でしょ⁉ そんなわけない! だってあいつは……!」


 するとスマホが振動する。

 電話は予想とは違い、敦也からだった。


「もしもし? 何?」


『お、繋がった繋がった。つかお前ラ〇ン見てねぇの? みんなあいつらどうなったか気になってんだけどよォ』


「え? ラ〇ンって……」


 五人のグループのトーク画面を開く。

 


『葉月:美琴、今どんな感じ?』


『寛人:今盛り上がってる最中っしょ⁉ 実況してよ~!』


『由美:動画興味あるなぁ~?』


『敦也:由美エロすぎww』


『由美:エロくないもぉん』


『敦也:出し惜しみすんなよ美琴! 送れって』


『寛人:マジでせいせいするよなww今頃二人が絶望して……』


『葉月:あははっ、だね』



 その下にもずっとメッセージのやり取りは続いていた。

 全然気が付いてなかった。

 今はこっちに夢中で……。


「ご、ごめん、見てなかった」


『なんだそれ。ま、いいけどよォ。で、どうなんだよ。動画届いたのか? そのォ……白銀の女神のやつはさァ』


「っ! それは……と、届いてない」


『はァ? もしかして金でもゆすられてんのかァ? 確かに美琴の友達結構金にがめついって聞くし、渋りそうだけどよォ』


「そ、そういうことじゃなくて!」


 金をゆすられてるわけでも、渋られてるわけでもない。


「……そもそも、動画がないかもしれないっていうか」


『はァ? どういうことだよそれ。意味わかんねぇ』


「なんかさっきその友達と電話して、その……やられたって」


『やられたァ? ますます意味わかんねぇってwwごちゃごちゃ言わずに早く送ってくんね? 焦らされんのとか好きじゃねぇんだよ、なァ』



「ッ!!! だ、だから! あのクソ陰キャに返り討ちにされたって言ってんのッ!!」



 思わず声を荒げてしまう。

 敦也は私の言葉に、ケラケラと笑い始めた。


『アハハハハハハハハッ!!! 何言ってんだお前! なわけねぇだろwwww』


「でもこいつら電話出ないし、強すぎるとか言って……」


『ぷっwwwもしそれが本当なんだとしたら、そいつらが弱すぎたんじゃねぇの?wwだってありねぇだろ、あんな貧弱クソ陰キャに拳で負けるとかよォwwww』


「だから! 私もそう思ってるんだけどそいつらが……!!」


『あぁーもういいわwwなんか興ざめしたしよォ』


「なっ……私はマジで!!!」


『ま、よくわかんねぇけど動画とか感想聞けたら教えてくれ。もしかしたらそいつら、そもそも攫ってすらもねぇビビり野郎かもしんねぇけどなァwwwアハハハハハハハハ! じゃ』


「ちょっ……!」


 電話が切れる。


「……なに、それ」


 こんなの……私が嘘ついたみたいになんじゃん。

 そんなんじゃないのに、意味わかんないことばっか言って……!


「ッ!! 何してんのよ使えない平民共がッ!!!!」


 スマホをベッドに投げつける。

 

 あの陰キャに返り討ちにされたか知らないけど、結局あの二人に何もできなかったってことだ。

 なんでそんな簡単なことができないわけ⁉

 意味わかんない……マジで……!!


「あぁあああああああああああああッ!!!!!」


 イライラする……イライラするッ!!!!!





     ♦ ♦ ♦





 ※竜崎敦也視点



 美琴との電話を切る。


 そのままベッドに倒れ、動画が見れるアプリを開いた。

 無気力に縦にスワイプしていく。


「チッ。つまんねぇなァ……家にいるっつーのもよォ」


 スワイプし続けていると、ふと一つの動画が目に留まった。

 制服を着たモデル体型の女が、流行りの曲に合わせてダンスする動画。


「ッ!! 『常夏のプリンセス』じゃねぇか!」


 相変わらず可愛い。

 さすがは俺様の推しだ。


「……抱きてぇなァ」


 繰り返し繰り返し、笑顔を振りまきながら踊る『常夏のプリンセス』の動画を見る。

 するとだんだんとムラムラしてきて……。


「……シコるか」


 停学じゃセフレにも会えねぇし、性欲が溜まるばっかだ。

 ほんとは雪宮の動画をオカズにする予定だったが……今日もこいつで抜くしかねぇな。


「…………いつかぜってぇ、俺様の思い通りむちゃくちゃに犯してやる」


 妄想を膨らませながら、ズボンを下げる俺様だった。





     ♦ ♦ ♦





 その後、チンピラたちは駆け付けた警察によって連行されていった。


 雪宮と俺は事情聴取を受け、それぞれ帰宅。

 そして今日を迎え、いつも通り家に帰ろうと昇降口を出る。


 歩きながら見ているのは、スマホのトーク画面。

 実はあの後、雪宮に半ば強引に友達追加させられたのだが……。



『氷莉:今日はいい天気ですね』


『氷莉:今水樹さんはどんな気分ですか?』


『氷莉:私は早く放課後になってほしいなって思ってます』


『氷莉:今日も校門前で待ってますね』


『氷莉:なるべく早く来てくれると嬉しいです』


『氷莉:水樹さん?』


『氷莉:届いてますよね?』


『氷莉:なんで返事ないんですか?』


『氷莉:水樹さん?』


『氷莉:水樹、さん?』


『朔:悪い、見てなかった』


『氷莉:見てください』


『朔:悪い』


『朔:でもいいのか? 今日も俺と帰って』


『朔:あんなことがあった後だし、家族に心配されてるんじゃ』


『氷莉:大丈夫です。送迎車を手配するとか、ボディーガードをつけるとか色々言われましたがすべて断りました』


『氷莉:だって……』


『氷莉:水樹さんと二人で帰れないのは困りますから』


『朔:そうか』


『氷莉:はい』


『氷莉:そうか、だけですか?』


『朔:え?』


『氷莉:なんでもありません』


『氷莉:校門前着きました』


『氷莉:待ってますね』


『氷莉:待ってます』


『氷莉:待ってますよ?』



 この前にも、実は昨日の夜からメッセージが送られ続けている。 

 正直、少し怖い。

 普通こんなにも一方的にメッセージを送られるものなんだろうか。

 

 メッセージのやり取りをほとんどしたことがないので、相場が分からない。

 ともかく、雪宮に若干の恐怖を感じていることは確かだった。


 校門が近づいてくる。

 今日も校門には人だかりができていた。


「……ん?」


 しかし、今日はやけにその数が多いように思う。


「ちょっと、あなたがどうしてここにいるんですか?」


「それはこっちのセリフなんだけど~? 最近うちの生徒会長様が通い妻してるって噂になってるし~?」


「かよっ……! そ、そんなのではありません」


 聞こえてくる、争っているような声。

 一人は雪宮だろうが、もう一人いるみたいだ。



「なぁなぁ、あれって西海さんじゃね?」

「え⁉ もしかしてあの『常夏のプリンセス』⁉」

「翠明高校のアイドルじゃんか!」

「私大ファンなんだよね! SNSフォローしててさ!」

「大人気インフルエンサーだもんな!」

「つかマジ可愛いな!」

「さすがモデルだわ……!」

「『白銀の女神』に続いてなんで西海さんがうちの高校に来てんだ⁉」

「二人いるとかどんな状況だよ!」

「マジやべぇって!」

「これが芸能人か……半端ねぇ」

「『常夏のプリンセス』可愛すぎんだろ……」



 ざわつく周囲。

 校門前に到着すると、雪宮と目が合う。


「あ、水樹さ――」





「あぁー! いたーーーー!!!」





「……え?」


 もう一人の美少女が雪宮より先に俺の下に駆けよってくる。


「なっ!!!」


「探したよ~~!! にひひっ、でも見つけられてよかった~! 超安心で超感激っ!」


 白い歯を見せながら無邪気に笑う彼女。


 水色で発色のいい、艶のある髪が揺れる。

 身長は175cmある俺とそこまで変わらないほどに高く、スカートから伸びる足はすらりと長い。


 まさにモデル体型であり、顔立ちは人形のように整っていた。

 雪宮と同じように放つオーラが別格で、芸能人を見たときに感じるようないい意味で現実から浮いている雰囲気。


 周囲が熱視線を送るのもわかるほどに容姿が華やかな彼女は親し気に俺の肩に手を置くと、人懐っこそうに言うのだった。



「久しぶり、さっくんっ!」



 彼女の言葉にどよめく周囲。



「おいおい、今さっくんって言わなかったか⁉」

「知り合いなんかな?」

「『白銀の女神』に続いて、『常夏のプリンセス』まで⁉」

「何者だよあいつ!」

「ヤバすぎんだろこの状況!」



 しかし、俺は首を傾げ困惑して言うのだった。






「えっと……誰?」







「…………へ? ひど⁉⁉⁉」


 

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