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第11話 決着と発覚


 拘束された雪宮の周りに立つ男たち。


 睨みつけると、一瞬顔を強張らせる。

 見るからにただのチンピラ。

 ――どうやら時間をかけずに済みそうだ。


「て、テメェ……!」


 一人の男が殴り掛かってくる。

 大振りの右拳。


 しかし、感情任せで動きが読みやすく、あまり力も使わず受け流し、そのまま懐に入り込んで腹に膝蹴りを食らわせる。


「グハッ!」


 男はそのまま地面に倒れ、苦しそうに顔を歪めて起き上がれない様子だった。



「「「「「ッ!!!!!!!!」」」」」



 さらに男たちの緊張感が増す。


「な、何モンだ!!」


「水樹朔だ」


「ッ⁉ あ、ありえねぇ……!」


「聞いてた話だと水樹って奴は貧弱で雑魚なクソ陰キャのはずだ! で、でもお前は……!!」


 震える男に一歩踏み込む。

 そして俺は地面を蹴り、一気に間合いを詰めた。



「――え」



 勢いのまま腹に拳をねじ込み、男が悶えながら倒れる。

 俺の動きに気づいていなかったのか、周りにいた奴らは男が倒れてからようやく驚いたように目を見開いた。


「ッ⁉⁉ な、なんだこいつッ!!」


「ありえねぇ……一人でもう四人も倒しやがった!」


「これがあの水樹朔⁉ 聞いてた話とちげぇじゃねぇかァ!!!」


「こいつの目の前で『白銀の女神』犯して、楽しむっていう計画が……!」


 腰が抜けたのか、地面に尻餅をつく男。

 俺が睨みつけると、男たちは後ずさりした。


 意図的に漂わせる、無言のプレッシャー。

 これは“本当の強者”しか出せない、戦わずして勝つ方法。

 俺もあの人たちみたいに出せるようになったみたいだ。




「――次は誰だ?」




「「「「「ッ!!!!!!!」」」」」


 顔を恐怖で満たす男たち。

 俺は依然としてブレない姿勢で、男たちを睨んだ。










 その後。


「うっ……」

「そ、そんな……」

「いてぇ……」

「聞いてた話と違ぇじゃねぇか……」

「こ、こんなはずじゃ……」


 地面に転がる男たち。

 ちらりとスマホを見る。


「なんだ、一分もかからなかったな」


 やはり素人相手、それもただのチンピラともなると手ごたえすらない。

 かなりブランクがある今でも、全く問題なかった。


 立ち上がれない男たちを横目に、雪宮の拘束を解く。


「水樹、さん……」


 雪宮がじっと俺のことを見る。

 その瞳は、まだわずかに恐怖で揺れていた。


 俺は地面に膝をつき、雪宮に手を伸ばす。

 そして言うのだった。







「――もう大丈夫だ」







 俺の言葉に、雪宮は……。





     ♦ ♦ ♦





 ※雪宮氷莉視点



 目の前で、あれほど敵わないと思った人たちが倒れていく。


 水樹さんはいとも簡単に男たちを倒し、私の拘束を解いてくれた。

 まるで“初めて会ったとき”のように、私を助けてくれた。


 そして、彼は言うのだった。





「――もう大丈夫だ」





 あの日の彼の姿に重なる。

 その時の感情も、今の感情と全く同じで。


 安堵のほかにも、彼に対する熱い感情あった。

 これは憧れ?

 ううん。それもそうだけど、それだけじゃない。


 そうだ。

 私は、私は―――










 水樹さんのことが好きなんだ。










「……ありがとうございます」


 水樹さんの手を取り、立ち上がる。

 水樹さんの大きな手。

 安心する。ずっと握っていたいと思ってしまう。


 好きって感情は、恋って“奇跡”はこんな感じだったんだ。


 初めて抱く、異性に対する気持ち。

 なんて私ってチョロいんだろう。

 でもしょうがないよね。

 だって二度もカッコいい水樹さんの姿を目の前で見せられて、追いかけても追いかけても手が届かなくって。


 どうしようもなく追いかけたくなってしまう男の子。

 それが水樹朔さん。あなたなんだね。


 遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。

 

「お、もう来たみたいだな」


「呼んでくれてたんですね」


「あぁ。ここにいるのもあれだし、外に出ようか」


 水樹さんが私から手を離し、歩き始める。


 ――あのとき。

 水樹さんを引き留められず、離れて行ってしまった背中と重なる。


 私は咄嗟に地面を蹴って、水樹さんの背中を抱きしめていた。


「っ⁉ ゆ、雪宮?」


「……あと少しだけ、このままでいさせてください」


「で、でも……」


「…………今度は逃がしたくないんです、絶対に」


「え?」


「こうやってぎゅっと抱きしめておくんです。そうすれば水樹さんは私から逃げられない。だから私は、水樹さんをぎゅっとするんです」


「雪宮……」


 水樹さんはすぐに私から離れてどこかに行ってしまうから。

 だから……。




「……ふふっ。この先もずっと、離さないんですから」




 水樹さんの背中に顔を押し当てて、小さく呟く。

 

 もう逃がしたりしてあげない。

 だって私、水樹さんのことが好きになってしまったんだから。

 あなたが私の、初恋の人になったんだから。


 覚悟してくださいね? 水樹さん。





     ♦ ♦ ♦





 ※大沢美琴視点



 ……おかしい。


 あれから結構時間が経ったのに、一向に連絡が来ない。

 別に頼んでないけど、普通連絡くらいするはずだ。


「……あ。もしかしてあいつら……私に連絡できないくらいお楽しみだったりして……ww」


 絶対そうだ。

 想像するだけで頬が緩んでしまう。


 気が強くて、自分が一番正しいとでも言いたげなムカつくあの女が荒い男たちに好き放題犯されて、それを見る水樹はあまりの辛さに絶叫して……。


「フフッ。フフフフフッwwww」


 ダメだww

 その状況が最高すぎるwww


 ってかどうしても二人が苦しんでる姿が見たい。

 やっぱり、リアルタイムで私も楽しみたいな。


「うん、やっぱり電話しよっとw」


 急いで電話をかける。

 真っ最中で盛り上がってて気づかないかもしれないけど、何とか電話越しに私もその高ぶりを感じたい。


 それで最高に……ざまぁみろって思うんだwww


 八コール目で、ようやく出る。


「あ、もしもし?w今何してんの? ってかどんな感じ?wあいつらどんな顔で苦しんでんのか……」



『……りえない』



「……え?」


『あり、えない……歯が、立たなかった……』


「は? 何言ってんの? ってか息絶え絶えなのキモすぎwwwあの女に何発出して……」




『……やら、れた。水樹朔に……やられた』




「……は?」


 意味が分からない。

 水樹朔にやられた?


「どういうこと?」


『聞いてた話と違う。あいつは……あいつは……』


 そして電話が切れる直前。

 恐怖に震えた声でそいつは言うのだった。






『――強すぎる』






 ぷつりと電話が切れる。

 ……意味が分からない。


「強すぎる? 誰が? ってかなんで切れて……」


 急に汗が噴き出してくる。

 電話をしながら、そんなはずないとわかりながらも薄っすらと嫌な予感はしていた。


 でもそんなはずはないんだ、絶対に。

 だってあいつは……。


「でも、やられたって……あの水樹朔に……?」


 しかも強すぎるってこいつは言ってた。

 息絶え絶えに、苦しそうな声で。


 まるで本当に、あいつにやられたみたいに……。



「…………嘘、でしょ? やられた? チンピラたちが……あのクソ陰キャに⁉⁉⁉」



 そんなはずない!

 だってあいつは貧弱で、雑魚で、ただの陰キャで……!

 私たちにおもちゃにされて、笑いものにされるだけの存在じゃ……!!!





「はぁ⁉⁉⁉⁉⁉」





 

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