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決断(2)

 

 妻に気持ちを打ち明けてすっきりしたわたしは、いわゆる〈針のむしろ〉を選ぶことにした。

 定年延長を選択するのだ。

 給料は支社長時の三分の一以下になるし、仕事はなかったが、それは覚悟の上だった。

 そんなことはどうでもよかった。

 とにかく常務や人事部長が喜ぶようなことはしたくなかった。

 5年間目障りな存在で居続けたかった。

 でも、それ以上に〈新たな人生設計〉に夢を膨らませていた。

 これからの5年間、給料を受け取りながら勉強できることをチャンスと捉えることにしたのだ。

 そのためには仕事がないのが都合がよかった。

 会社にささやかな復讐をしながら新たな道を切り開いていくのだ。


        *


 予想した通り、後日着任した新支社長はわたしに仕事を与えなかった。

 だが、〈へ〉とも思わなかった。

 逆に、こっちの思う壺だとほくそ笑んだ。


        *


 不要族としての生活が始まって10日後、夕食が終わって寛いでいた時、いきなり妻が切り出した。


「仕事、見つかったわ」


「仕事って……」


 余りにも唐突だったのですっと頭に入ってこなかったが、妻は〈ふふふ〉と笑って「本屋さん」と言った。


「書店?」


「そう、アルバイトだけどね」


 時給1,000円で、週5日の勤務だという。


「9時から15時までの週と15時から21時までの週があって、それが1週間交代で入れ替わるの。だから15時から勤務の週は一人で晩ご飯食べてもらうことになるけど、我慢してね」


「それは構わないけど……」


 まだ話についていけなかったが、何故か妻は誇らしげな表情を浮かべてから、「これでお金の心配をせずに作家修行ができるでしょ」と目元を緩めた。


 確かにお金のことは心に引っかかっていた。

 支社長になった50歳の時にマンションを購入したのでローンが残っていた。

 払い終わるのが65歳だから、あと5年ある。

 その支払いと毎月の生活費を賄うには、大幅に下がったわたしの給料では厳しかった。


「退職金が出るまでの5年間は私も働くから大丈夫よ。あなたの年金が出るまで頑張るから心配しないで」


 公園で作家になりたいことを告げてから、妻はその話を持ち出さなかったが、一生懸命そのことを考えてくれていたようだ。


「悪いな、甲斐性がなくて……」


 妻に頭を下げると、〈ううん〉というように首を振ったあと、両腕に力こぶを作る仕草をした。


「任せなさい!」


 そして、フンフンと鼻唄を歌いながら、夕食の後片づけを始めた。



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