第66話 受け入れ難い現実
ラフィリアとの戦いから約半年。ラフィリアが目覚めたという報告を聞いて、町から離れた位置にある小屋へとシルフとシュン君を連れて向かう。この半年間、危険な戦いなどがなく平和に過ごせていた。ラフィリアの治療費とか諸々で完全にお金がなくなり焦ったがなんだかんだこのメンツなら難しいクエストも難なく達成できるのでお金はどうにかなった。
「おおーい!ここだ」
少し離れた所で手を振っている男はリレイソン。私達はリレイさんと呼んでいる人だ。
「お久しぶりです。リレイさん」
「おう、久しぶりだな。イレイス。その腕は大丈夫そうか?」
彼が指を指すのは私の右腕があった場所。
半年前のラフィリアとの戦いで欠損してから、私は右腕がないまま過ごしている。最初は右腕を使おうとしてバランスを崩したりしたりしたが、最近は慣れたおかげでそのようなことはなくなった。
「大丈夫だ。それより彼女は?」
「うーん。多分正気だとは思うが気をつけた方がいい。もしかしたらいきなり攻撃してくるかもしれないし。」
今の彼女がどっちかは正直会わないと分からない。操られていないなら問題ないが、操られていたなら危険すぎる。
「分かった。油断しないようにしておこう。早速入っていいか?」
「分かった」
小屋の前に立ち、扉を開ける。私の後ろにはシルフとシュン君が立っている。いつ攻撃が来ていいように腰にある剣に手を添える。
「失礼するぞ」
中に入ると、ベットの上で横たわっている青髪の女性がいた。彼女の体は服の上から分かるぐらい痩せ細っている。
「......あなた達は誰ですか?」
彼女がキョトンとした顔で私達の名前を尋ねる。いきなり知らない人達が来たなら誰でも聞くだろう。
「私の名前はイレイスだ」
「僕はシュンです!」
「私はシルフです」
それぞれが自分の名前を言うと彼女は怪訝な顔をして口を開いた。
「......何故あなた達がここに?それになんで私がこの魔法陣だらけの部屋に?」
この魔法陣達は逃走防止用の魔法陣と、警告用の魔法陣だ。もし彼女が起きて、この部屋から出ようとすると結界が作られて彼女を出れないようにする。操られた彼女なら出られる可能性が高いが無いよりはマシだろう。警告用の魔法陣はリレイさんと私の指の指輪と繋がっており、彼女に動きがあると音がなるようになっている。そのおかげですぐ来ることが出来た。
「......まず落ち着いて聞いてほしい」
私は彼女に一から説明することにした。彼女がどこまで覚えているかは分からないが、彼女が操られていたことや私達と戦ったこと、彼女が死んだことになっていることなどなど。
「......なんとなく分かりました。正直疑い深いですが、私もそのような節があるので本当なんでしょうね。私はどのぐらい眠ってましたか?」
「大体半年間ぐらいだ。」
「半年......だから季節も......あっ!あの、時の勇者はどうなりましたか?」
彼女も時の勇者のパーティーだ。今どのような状況か気になるのは当たり前だろう。
「時の勇者は今もしっかり生きている。最近、パーティーに新しい魔術師が入ったらしい」
「......そうかぁ。......まぁそうですよね。半年も経過してれば、しょうがないですよね。......はぁ」
彼女が自嘲気味に笑う。ショックだよなぁ。いきなり目が覚めたら半年以上も経過していて、それに加えてパーティーを脱退させられているなんて知ったらショックを受けるのは普通のことだ。
「......あと、少しこれを見て欲しい。」
彼女に手鏡を渡す。彼女はその手鏡を覗きこむと、口を抑えて驚いていた。
「な、なんですか!?この眼は!」
「その眼は魔眼です。多分龍王のせいでしょう」
シルフがそう言うと、彼女は眼を閉じたり開いたりを繰り返したり鏡を近づけたりしていた。
「......すみません。取り乱してしまって。一旦状況をまとめたいので1人にして欲しいです。」
「分かった。行くよシルフ、シュン君」
「はい!」
彼女に頼まれて小屋から出る。どのぐらい落ち着くのにかかるか分からないがとりあえずしばらく待っていよう。
そうして1、2時間後、小屋の中から私達を呼ぶ声が聞こえてきた。




