第64話 全力で
「急いでシルフ!」
「はい!」
シルフの背中に乗り、イレイスさんが戦っている戦場へと向かう。イレイスさんが1人で戦い始めてから大体15分は経っただろうか。
「見えた!!」
周りには火が広がっておりはっきりとは見えないが確かにいる。地面に倒れ込むイレイスさんの姿と、その奥で立っている青髪の女性の姿が。
「シルフ!そのまま突っ込んでイレイスさんを守るんだ。僕は彼女にこの花を吸わせる。」
「分かりました。どうか気をつけて」
エミネルの花の花粉には精神系の魔法を解く効能がある。彼女に通じるかは確かではないが、とりあえず今は出来ることをするしかない。
「主様行きます!」
シルフが勢いよくジャンプをして火の中に飛び込む。
そしてその中には血だらけで倒れているイレイスさんの姿がはっきりと見えた。
「頼んだぞシルフ」
シルフから飛び降りて地面に着地してイレイスさんに回復魔法をかける。身体中の傷や火傷の跡は消えたが腕は再生しない。やっぱりまだ僕には失った腕は治すことはできない。
「主!後ろ」
「はい!」
後ろからくる火魔法を防御魔法で防ぐ。
「最初よりも強くなってる...ぐっ」
防御魔法に割れそうになるが魔力をさらに込めて頑丈にする。シルフがイレイスさんを運ぶまで時間を稼ぐ。
(よし。シルフがイレイスさんを抱えた)
それを確認すると、シルフと目が合い軽く頷く。とりあえず一つ目は成功した。問題は次だ。
「うぉぉぉ」
地面を魔法で凹ませて、大人一人分が入るぐらいの穴を作りその中へ飛び込む。上を見ると勢いよく火が通り過ぎるのが見えた。しばらくするとそれが消えた。
「今だ!」
咄嗟に地面に這い上がり氷結魔法で槍を作り出し相手の方へと飛ばす。予想通り全部防がれるがそれでも打ち続ける。
ここでさらに地面に手をつけて水魔法を出して相手の地面を液状化させる。初めて使うから無駄に範囲が大きくなってしまったが成功した。
「.......!?」
その状態の地面に彼女の足が沈み込み、体勢がズレる。するとそこに一瞬の隙間が生まれた。
「よし!ここしかない」
ポケットから一つの袋を取り出し、彼女に向かって全速力で走る。この袋にはエミネルの花の花粉を詰め込んだ。これを彼女の近くで開ければ、間違いなく吸うことになるだろう。
「ふっ」
彼女が水魔法を使い僕に向けて放つ。それに対し火魔法を使い相殺させる。多少火傷する覚悟で範囲は広く、威力を上げて。それぐらいやらないと彼女の魔法を打ち消すことは難しい。
「くらえぇぇぇ!」
地面を思いっきり踏んで跳躍する。このまま彼女に向けて袋を突き出す。
(行ける。後はこの袋を......!?)
下を見ると地面が盛り上がるのが見え、そこから鋭い槍が伸びようとしていた。
(どうする。どうする。風魔法で避けるか、剣で防ぐか......いやこのチャンスはもうこないかもしれない。ならここは突撃だ!)
「うぐぅ」
風魔法を使いさらに加速させる。足に槍が突き刺ささり痛みが走ったが気にせず彼女の目の前についに着いた。
「おらぁぁ」
袋を開けて、中の粉を彼女にかける。この距離でこの量だ。吸ったのは間違いない。あとはしっかり効くかだ。
「いっったぁ。」
足を見ると石の槍が突き刺さっていた。それを抜いて回復魔法をかけると見る見るうちに塞がっていった。
「どうだ......」
彼女の体が小刻みに震えて地面に伏せる。それと一緒に大量の魔力が放出される。近くにいるだけで体が押し潰されるように錯覚するほどに。
「ガァァギィィィィ」
「防御魔法!!!」
彼女が無差別に魔法を放ち始める。火や水、風はもちろん雷のようなものも飛んでくる。
(これは効いていると受け取っていいのか。ならこの攻撃を防げば......)
防御魔法が押されていき割れそうになるがその度に何度も上から掛け直して再構築する。再構築の瞬間に魔法が当たり手から血が出て痛みが襲ってくる。
「終わったのか......」
攻撃が止み、砂埃が視界を塞ぐ。さらに追撃がくる可能性はあるため防御魔法は貼り続けておく。
少し経つと砂埃が消えて、青髪の女性が倒れていた。近づいてみても動く気配はなく、死んでるようにも思えたため脈を測るとしっかり生きていた。気絶しているみたいだ。
「よいしょっと」
彼女を背中に背負い、イレイスさんとシルフの方に向かう。2人は戦いの現場から少し離れた所に居た。
「シルフー!無事終わったぞ」
「!!よかった。勝てたんですね」
尻尾を振り回しているシルフに近づき背負っている彼女を横にさせる。いきなり暴れる可能性もあるので少し離れた所に置いて、シルフの横で座る。
「......イレイスさんは大丈夫でしょうか」
外傷は右腕が損傷していることを除けばないが体の中は分からない。一応回復魔法を丁寧にもう一度かけてみたが特に変化はない。
「......とりあえず息はしていました。でも血を流しすぎていて気は抜けない状況です。とりあえず私も出来る限りの治療はしましたが、早めに安静に出来る所に連れて行った方がよろしいかと」
「分かった。彼女はどうする?」
「......まだ何があるかは分かりません。なのでイレイス様の家に置いとくのは危ないと思います」
「なら、リレイさんの所に連れて行こうと思います。リレイさんなら安全な場所を提供してくれると思うので」
「分かりました。なら私はイレイス様を家に連れて行きますので、主様は彼女を。」
「分かりました」
意識がない彼女を背負って、町の方へと移動する。
今までの戦いの中で1番苦しく被害が大きかった。イレイスさんも満身創痍だし、まだ気は抜けない。




