第62話 覚悟
「チッ。やっぱ速いな」
「気をつけてください。さっきよりもさらに威力も速さも上がりました」
シュン君がエミネルの花を探しに行ってからしばらく経ったが大丈夫だろうか。そもそも見つかること自体が珍しいから遅いのはしょうがないんだが。
「イレイス様!!」
「ふっ!」
飛んでくる水弾を剣で弾いて彼女の周りを走り攻撃のチャンスを伺う。ラフィリアの魔法はどんどん強くなってきている。最初はほとんどの攻撃を防げていたが、今は魔法が防げず体に傷ができることが多々ある。シルフも所々から血を流している。
(やばい!!)
上空から膨大な魔力が溜まっていくのを感じる。これはまずい。
「シルフ!離れろ」
「......天雷」
その瞬間、上空の魔力の塊が雷となって勢いよく落ちてきた。何十個の雷が彼女の周りに降り注ぐ。当たったところには黒く焼けこげた後が残る。
「ま、まずい」
視界の端にシルフの姿が見える。私よりも長時間戦っているせいか、それとも血を流しすぎてるせいか分からないが動きが遅くなってしまっている。このままじゃシルフに雷が当たってしまう。
「うおぉぉぉ」
シルフのいる方に向けて走り出す。このままじゃ間に合わない。ここは当たるのを覚悟で行くしかない。
「え、イレイ.....うっ」
シルフの体に向けて思いっきり蹴りを入れる。その瞬間、右腕に光の柱が当たるのが見えた。それと同時に右腕に激痛が走った。
「......ぐぅぅ。シルフー!」
シルフの名前を呼ぶと、すぐに飛ばされたシルフが私の体を抱えて、ラフィリアとの距離を離すために走り出した。
「すみません。イレイス様」
「はぁはぁ......とりあえず一旦距離を離そう」
少し離れたところでシルフに降ろしてもらい、腕を見る。そこには肘を境目に腕がなくなっていた。それに加えて切断面とその周りには黒くただれていた。
「すみません。私を庇ったせいで......」
「いい......気にするな。それにこれぐらい屁でもない」
シルフに肩を貸してもらい立ち上がり、ポケットに入っている薬草を取り出して、すり潰し切断面に塗る。
とりあえずの応急処置だ。シルフにもその薬草をあげて傷口に塗らせる。回復魔法を使えないのが痛いな。
「......イレイス様どうしますか?」
「そうだな......」
今の状況はまずい。シルフの体力ももう少ないし、私の右腕は使えない。それなのにラフィリアはどんどん強くなっている。
「それに主様も来ませんし」
絶対絶命と言う奴か。ここまで追い詰められるとは思ってもいなかった。
「......シルフ。お前はシュン君を連れて逃げるんだ」
「!?何を言っているんですか!逃げるならイレイス様も」
「それで全員死んだら意味ないだろう。それに彼女は私を殺しに来たんだ。私が向かい撃つしかない」
「死ぬ気ですか!」
「......」
「それなら余計逃げるなんてできません。一緒に...」
「ダメだ!!シルフ。命令だ。シュン君を連れて町へ逃げるんだ。そこで助けを求めるんだ。その間私が時間を稼ぐ」
「無茶です!そんなことしたら......」
「命令だって言ってるだろう!速く行け!」
「くぅぅぅ......わ、わかりました」
「......ありがとうシルフ。あとは任せたぞ」
剣を左に持ち替えて、ラフィリアのいる方に歩きだす。すると後ろから声が聞こえてきた。
「イレイス様!ぜっっったい死なないでください」
「......もちろんだ」
そう言うとシルフは走り出してシュン君が向かった方向に行った。シルフの嗅覚と足の速さなら10分ぐらい耐えれば逃げ切れるだろう。
「懐かしいな」
私はポケットから一つの髪飾りを取り出す。昔にシュン君からもらった白い花弁の髪飾り。戦いの時は汚れるのを防ぐためにつけないようにしていたものだ。
「よしっと」
髪に髪飾りをつけて、頬を叩く。
「やりきってみせる」
そうしてしばらく歩くとラフィリアの姿を捉えた。彼女の体には傷がほとんどついていなかった。
魔力も相当消費させたはずだがまだなくなる気配がない。不利だな......
「これで終わりにしようか」
左手で剣を彼女に向ける。片手でも関係ない。やるしかないんだ。