第60話 打開案
深夜の森で月明かりに照らされて1人の女性が現れた。額からは血が流れており、彼女の周りには魔法によってできた穴が至るところに空いている。
「嘘だろ......」
イレイスは彼女の姿に見覚えがあった。昔に何回か会ったことがある程度だが覚えている。しかしその女性は少し前の戦いで死んだはずだった。
「ラフィリアだったのか」
そう、彼女の名は「ラフィリア」元時の勇者の魔術師である。
「シルフ!一旦下がれ」
「はい!」
ラフィリアから離れて様子を伺う。彼女が額に手を当てると血が止まり、怪我が治った。
「知り合いですか?」
「......そうだ。彼女は時の勇者の魔術師だ。」
「それではなぜその様な人が勇者殺しを?」
「分からないが、私達を殺そうとしているのは間違えないだろう」
彼女の姿は一見無気力に見えるがひしひした殺気が伝わってくる。
「......イレイス様。彼女の魔眼は元からでしたか?」
シルフの指摘を受けて彼女の眼を見てみると、赤と黒に染まった眼をしていた。彼女の眼は普通の青色の眼だったはずだ。
「いや。違う。彼女は魔眼持ちではない」
「......もしかしたら龍王の仕業かもしれません」
「龍王の?」
「そうです。龍王の魔法の一つに魔眼を作るのがあったはずです。なのでもしかしたら彼女も」
ということは彼女は龍王からの差金ということだろうか。魔王を殺したことについての恨みなのか。それとも偶然か......
「イレイス様。来ます」
「分かっている」
彼女が私達に向けて、氷の槍を飛ばしてくる。しかし私達の後ろにはシュン君がいる。
「防御魔法だ!」
「はい」
シュン君が防御魔法を展開すると氷の槍がぶつかり消滅する。
「イレイスさん。少し気になることがあります。」
「なんだ?」
「もしかしたら彼女は操られているかもしれません。彼女の眼が操られている人の眼に似ています」
「そうなのか?」
彼女の眼はうつろな感じで光がないように思える。確かにそう言われるとそうかもしれない。でもなんでそんなことを。
「はい。イレイスさんのお母様に魔法を教えてもらうときについでに魔法に対する知識も教えてもらいました」
母さんにか。確かに母さんなら色々知っているからおかしくないな。てかそんなことも教えてもらっていたのか。
「でも確証はないので確かめたいです」
「確かめる?どうやって」
「僕の解析魔法を使います。まだ慣れていないので時間はかかりますが、魔法がかかっているかは分かると思います」
解析魔法も覚えていたのか。本当にすごい子だな。
ということは私達がするべきことは、時間稼ぎだな。
「分かった。その時間を私とシルフが稼ぐ。その間に頼むぞ」
「ありがとうございます。」
よし。とりあえずやることは決まったな。もし操られているのならどうにかなるかもしれん。
「シルフ。準備はいいか?」
「はい。いつでも動けます」
「よし、行くぞ」
彼女の魔法が止まった瞬間、私とシルフは二手に分かれて彼女に攻めることにした。作戦はさっきと同じだ。後ろと前から両方で攻め込む。彼女の攻撃は基本遠距離魔法が多い。だが、私とシルフなら対応することは出来る。私達の目的は時間稼ぎと彼女を疲労させることだ。頑張ってくれよシュン君。
シュン君の解析魔法を始めてから10分ほどが経過した。その間もラフィリアは様々な魔法を使って攻撃をしてきた。何度か近づいて切り掛かることができたが、致命傷までには届かず回復魔法を使われて直される。さっきから魔法を連発しているのに魔力が減ってる気配が感じられない。このまま行ったらジリ貧で負けてしまう。
「イレイスさん!一旦こっちに」
シュン君の声に反応してバックステップを踏んで、彼女と距離を離す。シルフはラフィリアに攻撃を続けている。シルフもギリギリで避けて彼女に攻撃を当てるが致命傷にはなっていない。
「分かったか。シュン君」
「はい。予想通り彼女には魔法がかかっています。それで操られているようです」
ラフィリアは操られているのか。勇者を殺しているのも命令だと考えれば辻褄が合う。
「それで対処法は」
「......分かりません。解除できる魔法があればいいんですが、あいにく知らなくて」
「そうか...」
そうして2人で悩んでいるとふとシュン君がハッとしたような顔でこちらを見て来た。
「もしかしたら治せるかもしれません」
「それは本当か?」
「確証はありませんが可能性はあります。エミネルの花を見つけましょう」
「そうか!」
エミネルの花。精神魔法などに対して有効である白い花で、この町に来てから、初めて受けたクエストの帰りで見つけた花だ。その希少性と抜いたらすぐに効能を失ってしまう花だからその時は抜かずにいた。
「エミネルの花なら治せるかもしれません。この近くにあることは分かっていますので。」
「でも見つけられるのか?あの花はそう簡単に見つからないぞ」
「......そうですけど、どうにかして見つけて来ます!」
「分かった。頼んだぞ」
「イレイスさんも気をつけてくださいね」
「もちろんだ」
そう言うとシュン君は早速森の中へ駆け出して行った。私もシルフの援護をしに走り出した。