第57話 魔人の誕生
水の勇者がラフィリアと衝突した後、旧魔王城でも動きがあった。
「......」
椅子に座っている魔物の前には2人の姿があった。
片方は秘書のような格好をしており、もう片方は千切れた黒コートを着た青髪の女がいた。
「龍王様。無事に勇者を殺せました」
「......」
秘書がそう言う隣でラフィリアは立っていた。その見た目からは生気が感じられず、目には光がなかった。
「少し手こずったようですが、この調子なら作戦に問題はないかと」
「ほう」
少し前にこいつが提案してきた勇者を殺す作戦。最初は上手く行くか分からなかったが意外にもしっかり成功している。この青髪の奴も魔眼に体が適応して動き出すようになった。まだ完璧ではないがこれから何度も戦えば問題ないだろう。
「勇者の方は分かったが、獣人と魔王を殺した女の位置は分かったか?」
魔王が死んでから半年以上が経ったが今だにあの女の居場所が分かっていない。あの獣人は西側の大陸の方で複数人といたようだがまた何処かに行ったようだ。
「それが、至る所に偵察部隊を置いていますが未だ報告はありません。それに加えて獣人に新しく主が出来たようです。私も拝見しましたが魔眼が通用しませんでした。」
こいつの魔眼が効かない奴か......それに奴の主人。生かしておくとめんどくさそうだな。
「そいつの位置も分からないのだな?」
「はい」
「なら先に勇者の方を殺すとしよう。その女なら倒せるのだろう?」
「もちろんです。命令すれば今からでも行くでしょう」
「よし。それなら......」
秘書の提案を承諾しようとしたとき、後方の扉から勢いよく獣人が出てきた。
「おい!龍王!」
「失礼だぞ!ファリフェン」
奴の名はファリフェン。男の獣人であり戦闘狂だ。最近、西の大陸での戦いでぼろぼろになった。しかしそこは獣人の耐久力というのだろうか。回復魔法をかけてしばらく経つと動けるようになった。
「うるせぇよ!それより勇者を殺すのか?なら俺に行かせろよ。」
「ダメだ。お前には殺せない。前の戦いでやられたくせに調子に乗るな」
「黙れ!あれは不意打ちもあったし、あの獣人もいたじゃねぇか。それにその人間に行かせるより俺が行ったほうがいいだろ」
そう言ってファリフェンが青髪の女に近づき、顔を覗く。しかしその女の反応はなかった。
「何回言えば分かる。お前には勇者を殺せない。それにこの女の方が強い。」
「そんな言うなら、この人間と戦ってやろうか?殺してもいいのならな?」
「いいだろう。でも死んでも後悔するなよ。いいですか龍王様?」
面倒臭いな。まぁいい。どうせ結果は見えているし邪魔だったからな。
「いいだろう。さっさとやれ」
「あぁ。殺しても後悔すんなよ?龍王」
そう言うとファリフェンが魔力を全身に張り巡らせる。相手が魔法を使う奴だからだろう。
青髪の女の方を見ると、相変わらず無反応でファリフェンと向かい合っている。
「それでは行きますよ」
「はよ来い!クソ秘書」
「チッ。うるさい奴だ。まぁいい。それでは始め!」
秘書がそう言った途端、城に大きな音が響き渡り揺れた。そして目の前には上半身が消し飛んでいる死体があった。
「終わりましたね」
その死体の前には無傷で立っている青髪の女がいた。戦闘自体は今初めて見たが、やはり我の見立て通り化け物が生まれたな。
「龍王様。この死体はどうしますか?」
「さっさと捨てておけ。それと青髪の女を勇者のところに向かわせろ」
「......了解しました。」
そう言った秘書は他の奴らを連れて部屋から出て行った。そして大広間には我だけが残った。
「......」
魔王の死に、魔眼が効かなかった子供。それに最強の勇者と言われている時の勇者。これから面白いことになりそうだ。




