第56話 思わぬ敵
水の勇者が死んだことを知ったのは水の勇者が偵察に行ってから2日後のことだった。定期的にするはずの連絡が途切れて、待機していた騎士達が見に行ったところ、お腹に穴が空いた水の勇者の死体があったようだ。連絡用の魔道具によってその情報がいち早く王に伝わった。
「何ということだ.....水の勇者がやられてしまうなんて」
王が目の前で椅子に座って俯いている。周りの配下達を雰囲気が暗そうだ。ま、無理もないか。昔からの配下を死なせないように高級な魔道具をたくさん渡したのに結局死んでしまったのだからな。
「ん?」
そんなことを思っていると入り口の方から扉が開く音が聞こえた。扉の方を見てみるとそこには長いドレスに身を包んだ美しい女性が立っていた。
「お父様!」
王をお父様と呼ぶ人は1人しかいない。この国の第一王女だ。
「あぁベルタか。どうしてこんなところに?」
「どうしてじゃありません。水の勇者様が死んでしまったことはしょうがありませんがこれは一大事なのです。次の行動を考えるべきです」
おお!しっかりとした王女様だな。こっちに座っている王より、よっぽどしっかりしている。
「そうとは言っても、もうどうしようも......」
「そこを考えるのがお父様でしょ!勇者達が殺されている今、私達人類側はピンチなのですよ。」
「それはそうだか.....奴の正体も分からないし」
そう。問題はそこだ。正体が分からない相手と戦うのは不利になるし危険も伴う。さらに今回は勇者を殺せるほどの実力なのだ。
「そのことなら問題ありません。これを」
王女様が机に一個の赤色の宝石を置いた。
「王女様、これは?」
俺がそう聞いてみると王女様が口を開いた。
「これは、記石です。王家に眠っていた宝石を使わせていただきました。」
「キセキ?聞いたこともないな。」
「無理もありません。ずっと昔の物ですから。この石は簡単に言えば、使用者の記憶が残った石です」
「使用者の記憶だと?その使用者は」
「これの使用者は水の勇者様です。私が行く前に渡しました。」
なんということだ。そんな石があるなら奴の正体が分かるはずだ。
「さっそく頼む。ベルタよ」
「分かりましたお父様。」
そう言って彼女が石に向かって手をかざすと映像が流れ始めた。そしてその映像には思いもよらなかった奴が映っていた。
「ラフィリア?」
「!?」
体は黒いコートに覆われていてよく分からないが、あの青髪に背丈。目の色が変わっているがあの顔は間違いない。
「ラフィリア.....それって」
「あぁ。俺の元パーティーメンバーだ。死んだはずのな」
そうラフィリアはあの戦いで死んだ。戦いが終わった後ラフィリアの姿がなかったから消滅したのだと思っていたが、まさか生きていたのか。
「時の勇者様の!?それではなぜこのようなことを。それに死んでいるはずじゃ」
「俺も分からねぇよ。そもそも奴は勇者を殺せるほどの実力はないはずだ。」
映像は途切れ途切れになっており戦いの様子はあまり分からない。一体どういうことだ。
「まさかあいつだったとはな。一体何が目的だ......」
王の言う通り目的が分からない。俺への恨みなら他の勇者を殺す意味が分からない。それに魔王城の近くで活動。どういうことだ。
「時の勇者様。ラフィリアさんの片目は昔からあの色でしたか?」
「ん?違うはずだ。奴の目は青色だったからな。」
確かに奴の目が赤色なのはおかしいな。光の反射か?映像の問題か?それか......
「もしかして魔眼なんじゃないですか?」
王女様と同じ考えだ。あの普通じゃない色は魔眼ぐらいしかないはずだ。しかしいきなり魔眼になるなんてあるのか?
「もしかしたら、龍王が絡んでいるかもしれんな」
「王よ。それはどういう意味だ?」
「龍王は魔眼を作り出せると聞いたことがある。龍王が絡んでいるならあの森にいるのも辻褄が合う」
もしそれが当たっているなら一体どういう目的なんだ......あっ!分かった気がする。でももしこれが本当ならまずい。
「王!各地に送った勇者を呼び戻せ!今すぐに」
「!?どういうことだ。時の勇者よ」
「目的が分かった。奴らの目的はバラバラになった勇者達をラフィリアを使って一人一人殺すことだ!」
「なんだと!至急、連絡を」
これはやられたな。これならラフィリアの行動や各国に現れた魔物がその情報を意図的に伝えた理由も分かる。完全にはめられた。
これから一体どうなるんだ。




