第49話 恐怖と終わり
黒い渦が現れて、中から何かが出てきた。
みんな、体を震わせて警戒をしている。
「あーあ。なんて醜い姿なんでしょうねファリフェン」
「な、なんでお前がここに...」
その何かは1人の女の魔物だった。スーツのような物を着ており、大きな翼が背中にあった。
「みなさん。今回はファリフェンがお世話になりました。ファリフェンがこの状態なら今回はわたくし達の負けですね」
その魔物は淡々と僕達に話しかけてきた。その話し方や表情からは敵意は感じられなかった。
「ま、待ってください。あなたは誰なんですか」
その魔物の正体が気になってつい聞いてしまった。何故かみんな何も言わないし。
「.....そうですね。あの方の秘書とでも言っておきましょう。」
「あの方とは?」
「それは内緒です。というか、君はよくわたくしと話せるわね」
その魔物が僕の方に向かってゆっくり歩いてきた。
その歩みからは敵意は感じられずに警戒しているみんながおかしく感じられる。
「気になりますね。少し失礼。」
「やめろ!!」
魔物が僕に触れようとしたとき、隣で動けないでいたシルフが僕と魔物の間に立ち、魔物を殴り飛ばした。
「.....確かあなたは暴君でしたね。今はシルフなんですね。ということはこの少年が主ですか。」
「......」
目の前のシルフの体は小刻みに震えていた。こんな姿を見たのはイレイスさんとの戦いぶりだ。
「あなたが認めるっていうことは、この少年は何かあるんですかね。興味が湧いてきました。」
そう言ってまたこちらに歩いてきた魔物に対して、シルフが殴りかかろうとしたとき、視界が一瞬ブレた。
「え?」
さっきまで目の前にいたシルフの姿がなくなっており、横を見ると木にめり込んで血を流しているシルフの姿があった。
「.....わたくしの邪魔をするならこちらも攻撃するのは当たり前ですよ。それより....」
その瞬間、さっきまで少し離れた位置にいた魔物がいつの間にか目の前に来ていた。
「はぁはぁはぁはぁはぁ」
体中が熱い。少しでも気を抜くと意識が、とんでしまいそうだった。その魔物が僕の顔を覗き込み目を見てきた。
「......ほう。これはすごい。」
それだけを呟いて、その魔物が踵を返していった。
そのまま、倒れているファリフェンを抱えて、黒い渦の中に入っていった。
「それではみなさん。生きていたらまたいつか会いましょう」
そう言って黒い渦が消えていき、一気にこの場が静まった。
「......なんだあの化け物」
後ろを見るとお父さん以外のみんなが気絶していた。
お母さんもライアさんも意識がなかった。
「そ、そんなことより、シルフ!」
即座に木にめり込んでいるシルフの所に行き、体を見る。
「大丈夫ですか?シルフ!」
「.....大丈夫....です。それより...主様は」
シルフの体を見ると特に大きい傷は見られなかった。しかしシルフの口からは血が流れている。
「僕は大丈夫だ。それよりシルフは?」
「内臓がやられました。回復魔法を...」
シルフに言われて回復魔法をする。そうするとシルフの顔は良くなっていき、全身の傷も無くなった。
「ありがとうございました。主様」
「それはいい。それよりもあの魔物は?」
「あれは、分からないです。でも間違いなく化け物です」
シルフが化け物というぐらい強い奴なのか。とりあえずシルフは生きている。他のみんなは。
「お父さん!」
シルフを立たせて、お父さんの所に向かうと2人を抱えて、立ち上がっていた。
「お父さん!その2人は大丈夫ですか?」
全員に回復魔法をかけながらお父さんに聞く。
「......大丈夫だ。多分。それよりここから離れよう」
「そうですね。イレイスさんのところへ」
こうして僕達の戦闘は終わった。帰りはシルフにライアさんを担がせて、森の中を歩きながら帰った。帰ってる途中にライアさんとお母さんは無事起きた。
宿に帰り、女将さんに事情を話して休ませてもらうことになった。とりあえずイレイスさんの寝ている部屋で休憩だ。
シュン君達、帰ってこないな。確か私のために薬草を買いに行っていたはずなのにまだ帰ってきていない。何かあったのだろうか。そんなことを考えていると部屋の扉が開いた音が聞こえた。
「よかった!シュン君帰って...きたんだな」
扉の方を見るとシュン君とシルフ以外にも私の両親と1人の男がいた。みんな疲労困憊な顔をしており何かがあったことが一目で分かった。
「.....みなさん、とりあえず中へ入って。」
全員が中に入っている途中、お母さんの姿を見て絶句した。お母さんは笑っているが無理にしているのは分かった。
みんなが中に入り終わると、話し合いが始まった。
そこで何があったのかや、お母さんの怪我についての知った。
「そうか....私が動けないばかりにみんなすまん」
「!イレイスさんはしょうがないですよ。」
「でもそんなことがあったなんて」
まだ話をまとまりきっていないが大体は分かった。ファリフェンか。一回戦ったことはあったがあのときは逃げられてしまった。
「.....それよりも、あの化け物はなんだ。知っているのかイレイス」
ここに来てから一言を話していなかったお父さんが口を開いた。周りを見るとみんな私のことを見ている。
「レンナに口止めされていたけどもういいだろう。お前が勇者だったときにさっき言った特徴を持つ魔物を見なかったか?」
「!?」
「イレイスさんが勇者....」
「.....」
流石にこんなことがあって、勇者だったことを隠すのは厳しいな。
「.....ない。女の魔物で見るだけで恐怖する奴なんていなかった。私が知っている中ではな」
「ということは、本当にイレイスさんは...」
シルフがシュン君の口を抑えて、話すのを止めた。後で2人には話しておかないとな。
「レイちゃんも知らないとなると新しい奴かもね」
「そうだな。魔王を討伐したときにも会わなかったならわからないな。」
まじか!そこまで知っているとは。もしかして最初からみんな隠してくれていたのか。
「とりあえず、今日は休もう。レンナの足についてもどうにかしないといけないしな。それにイレイス。お前も仲間と話したいだろう」
「.....あぁ。そうだな。今日は各自休もう。」
そう言うと、私の両親とライアさんという人は部屋から出ていった。部屋には私とシュン君とシルフしか居なくなった。
「2人とも大事な話がある。聞いてくれ」
「はい」
「もちろんです」
こうして私は今まで隠していた勇者だったことを打ち明けることにした。




