第42話 温泉と策略
「チッ、まだいるのかよ!」
「レンナさん、回復魔法を」
「分かりました!」
なんて量の魔物なのだろうか。それも一体一体が普通よりも強い。めんどくさいな。
「フェルトさん。いつもよりキレが悪いなぁ。なんかあったか?」
「うるせぇ、ライ。次来てるぞ」
言われなくても分かってる。昨日、あんなことがあって集中できるわけないだろう。死んだと思っていた娘が生きてるなんて。
「一旦下がりますよ。みなさん」
「分かった。レンナ!」
一体何が起きているんだ。こんな異常事態は初めてだ。それに微かだが、遠くにやべぇ奴の気配がする。せっかく久しぶりに娘に会えたのに落ち着く暇もねぇ。
「おい!フェルト。なんでニヤニヤしてるんだよ」
「.....うれせぇ。さっさと離れるぞ」
「....レッドファルス!」
レンナが魔法を空高く放つと、広範囲に火柱が現れて魔物達が消滅していった。相変わらずすげー範囲だな
「時間稼ぎありがとうございます。みなさん」
「助かったよ。レンナさん。てか最近いいことあったのか?」
「いきなりどうして?」
「いやな〜こいつがずっとニヤニヤしてるからさぁ」
「チッ。」
昔からこいつはいつもそうだ。俺をからかってきやがって。まぁそんなことはいい。この魔物の量に遠くの強大な気配。これからは厄介なことになりそうだ。早く娘と話してぇな。
「イレイス様、お背中お洗いしますね」
「あぁありがとう。シルフ」
私とシルフは今宿のお風呂場にいる。シュン君は男湯で1人で入っている。1人でお風呂は大丈夫だろうか。溺れてしまっているのではないだろうか。
「うーー熱!」
「あはは。シルフ、いきなり入ると熱いからゆっくり入るんだ」
「...分かり、あち....」
「ふぅ」
久しぶりの温泉は気持ちいいなぁ。家でもお風呂自体はあるが、やっぱり温泉の方が気持ちいい。
「やっと慣れてきました」
「あー染みる」
最近は激しい戦いもなかったし、こんな温泉にも入れるなんて幸せだな。シルフも気持ち良さそうだ。顔がとろけちゃっている。
シュン君はどうしているだろうな。
「おい坊主、いい体してるじゃないか」
「俺の弟子にならないかぁ?」
うぅどうしてこんな目に。
少し時間は遡りこの温泉に入ろうとしたとき。
「ふわぁ。気持ちいい」
いつものお風呂よりも体が癒される。聞いた話だとこの温泉には疲労回復と身体回復、状態異常回復などの効能があるらしい。普通の魔法に比べると微々たる物だがな。
「おい!なんだお前?」
「お前こそなんだよ。俺にぶつかりやがって」
「お前が先にぶつかってきたんだろう!」
うわー。なんで僕はいつもこんな目に合うのだろうか。せっかくの初めての温泉なのに。周りの人も関わらないようにするために離れている。僕も関わりたくないけどイレイスさんなら止めるのだろうな。
「あ、あの?」
「あん?なんだこのガキ」
「お前は関係ないだろう!」
そう思っているといつの間にか口を出してしまっていた。
「た、確かに関係ありませんけどここじゃ他の客に迷惑ですよ」
もうここまで来たら、最後までやりきるしかないか。
「邪魔するな、ガキが!」
うわ!いきなり殴ってきた。この2人相手は流石にきついぞ。
「ちょっと、待って...あっ」
拳を避けようとしたところで、足が滑ってしまった。忘れていた。ここの地面が滑りやすいことを。
「うげ!」
「うっっ」
「いったぁ。腰がぁ」
つい転んでしまって腰を打ってしまった。なので回復魔法を即座にかけて、周りを見渡すとさっきまで騒がしかった温泉が静かになっていた。
「ど、どうしよう。とりあえず回復させないと」
目の前には男2人が頭をぶつけて倒れていた。多分僕の足が当たったのだろう。
それでこんな状況だ。回復魔法をかけてやった後、2人が僕のことを勧誘し始めた。
「弟子にはなりませんよ!僕にはもう師匠がいるんです。」
「そんなこと言わずにさぁ」
「もう、いいです〜」
僕は温泉から出て、自分の部屋に戻ることにした。
最後まであの2人は付いてきたがどうにかして逃げ切れた。少し時間が経ったらまた入りたいな。
「あれ、シュン君。もう上がったのか。」
「あっイレイスさんにシルフ。先上がらせていただきました。」
「初めての温泉はどうだった。気持ちよかった?」
「よ、よかったですよ。暖かくて」
「それはよかった。1人で寂しかっただろう」
「少し寂しかったです...」
やっぱりこう言うところはまだまだ子供だな。
「部屋にも温泉はあるし、後でみんなで入ろうな」
「!!そうですね...」
あっ顔が赤くなってる。可愛いな。
それより両親はここに来ているとだろうか。あとて女将さんにでも聞いておこうかな。




