第29話 決着②
「落ち着きましたか?」
「あぁ。恥ずかしいところを見せたな。もう大丈夫だ。」
イレイスさんが涙を拭いて立ち上がる。
「リレイさんも、申し訳なかった。」
「いや、いいよ。あの殺気にはもう2度と味わいたくないけどな。」
「すまなかったな。それでその獣人はどうするんだ?」
横に倒れている獣人を見てみる。銀色で綺麗な長髪に似合わない全身の傷に右目の大きな傷。そして消えた手足。これはやばいな。
「一応。回復魔法はかけたが、この傷は治らない。」
「イレイスさん、やりすぎです。」
「うぅすまなかった。でもこいつだってシュン君を殺したって」
「それにしてもやりすぎです。僕のために怒ってくれるのは嬉しいですけど。」
僕はイレイスさんの腕を持ち上げて、回復魔法をかける。
「え、回復魔法が使えるのか!」
「さっき、使えるようになりました。僕もよく分からないので帰ってから話しましょう」
「あぁわかった。ありがとう!」
「はい。どういたしまして」
それにしても、これは酷いな。獣人の顔や体を覗いてみる。全身の傷は治ったが、多分右目は失明したままだし、四肢は治るはずもない。でも生きている。
「イレイスさん、リレイさん。彼女の四肢を持ってきて欲しいです。治します」
「治せるのか?!」
「分かりませんが、やってみます。」
「わかった。」
2人が取りに行っている間に彼女に話しかけてみる
「大丈夫ですか?」
「......ごめんなさい。ごめんなさい」
いかにも死にそうな声で彼女は話している。
「いいですよ。終わったことですし。今からあなたを治します」
「.....無理だ。治るはずもない。」
「治します。あなたがイレイスさんに何をしたかは知りませんが、僕はあなたに何もされていません。」
「でも白狼達を...」
「うるさい!なら死にますか?イレイスさんに殺されますか?あなたが死にたいなら、頼みますけど。」
「......いやだ。死にたくない。お願いします。助けてください。」
「よし!」
「シュン君ー!持ってきたぞ。」
「坊主、俺も持ってきたぞ」
「ありがとうございます!それでは四肢の近くに置いてください。」
「わかった」
そうして準備が完了した。
「イレイスさん、もしこの獣人が暴れたら頼みます」
「わかった。」
「それではいきます!」
体に力をこめると、光り始めた。
「大丈夫なのか?」
「多分大丈夫だ。俺を治したときもこの姿だった。」
「それならいいんだが」
リレイさんを治したときのように魔力をこめる。それに加えて、切断面の細胞を一つ一つをイメージしながら、こめていく。
「ふぅふぅ」
汗が湧き出てくる。集中だ。集中。
30分ぐらいたっただろうか。
やっと四肢が繋がった。
「.....終わりました」
熱いし、体が少しフラフラする。
「お疲れ様、シュン君。」
立ち上がろうとすると、体がふらついた。
「あっありがとうございます」
イレイスさんに抱えられて、立ち上がれた。
「おいおい、なんだその回復魔法は、見たことない」
「私もだ。普通の回復魔法ではここまでできない」
「よくわからないですけど、断面が綺麗だったので繋げられたと思います。ん?」
目の前の獣人が体をゆっくり起こして立ち上がった。
「危ない、シュン君下がって」
「大丈夫です。イレイスさん」
イレイスさんの腕を避けて、獣人の前に立つ。
そうすると獣人が伏せた。
「ありがとうございました。あなた様のおかげで治りました。お名前を聞いてもいいですか?」
「...シュンです。こちらの方がイレイスさんで、こっちがリレイさんです」
「シュン様!!分かりました!私はシュン様に一生涯従うことを宣言します!」
「え?!」
「どんなことでもしますので、お近くに置いてください!」
「別に従わなくてもいいんだよ?」
「いえ、獣人は、自分よりも強い者に従うことを幸福だと考えるので、従わせてください!」
すごい、この獣人ぐいぐい来るな〜。断りたいけど絶対折れなそうだから、いいか。
「わかった。それでは今後もお願い...あれ」
視界が揺れてる。みんながたくさんいるように見える。あれれ、なんだ....これ...意識が。
「シュン君!?」
「坊主!」
「主様!?」
みんなの声が聞こえながら、僕の意識はなくなった。