第27話 vs獣人
「おい、おい!そんなもんか?女」
相手の拳に対して、私は剣で受ける。右、左、下、上、下、左、左。大丈夫だ。全部対応できる。
「ここだ!」
「うお!」
この獣人の攻撃は早いし、強い。でも一瞬だけ殴る度に隙ができる。
「いい攻撃だな!それじゃあこれはどうだ?」
上、右、下、左、下、後ろ!?
後ろから魔力を感じて、咄嗟にしゃがむ。
「これも避けるか!でもその体勢じゃ避けれないだろ。」
「ぐっ!」
足で蹴られるのを受け身を使い、ダメージを減らす。
「よく、今のタイミングで受け身取れたな!でも無傷ではないな」
右腕に少しヒビが入る。
「これぐらい、慣れている!」
魔王に比べればこの獣人は弱い。魔王となら、今ので右腕が吹き飛んだだろう。
私も獣人も血を流している。でも私の方が圧倒的に有利だ。
「認めてやろう。女!お前は強い。私が今まで会った中でもな。名前を聞いてやろう!」
獣人が胸を張って言う。時間稼ぎなのか分からないけど、私も少し休めるからいいだろう
「私の名前はイレイスだ!かかってこい!獣人」
「いいね!お前のような奴は好きだ」
その瞬間目の前に獣人が現れる。
「おらよ!」
上下左右に加えて後ろから魔法。全部を防ぎながら攻撃を与えていく。避けたときに当たった木が吹き飛ぶ。なんて力なんだ。
「楽しいぞ!もっと戦おう!」
「私は早くやめたいよ!」
「うお!」
あいつらは大丈夫だろうか。あの量の白狼達を倒し切れるだろうか。
「何考えてんだよ!」
「ふん!」
蹴りを受けて、体が飛ぶ。獣人と距離が少しあいた。
「なんだ?あの男とガキのことをかんがえているのか?」
「それがどうした?」
「お前は強い。でも勿体無いな。」
「勿体無いだと?」
「そうだ。戦いをしていれば分かる。さっきから意識が仲間の方に向いている。そのせいで、私を倒し切ることができない。」
......無意識に向けていたか。確かに勇者の頃だったらもう倒せていた。
「それがお前の弱点だ。お前は1人で戦うべきだ」
.....そんな事分かっている。1人のときの方が強かったことを。でも1人は...寂しい。
「お前には仲間がいないのか?」
「そんなの当たり前だ。今までずっとそうだった。仲間なんて......ろくなもんじゃない。」
一瞬だが、悲しそうな雰囲気を感じた。何かあったのだろうか。
ドーン!!
「!?」
なんだこの衝突音。シュン君達のほうだ。
「おうおう。あいつらもやるな〜。今の攻撃、当たったら死ぬかな。白狼達にはあのガキを狙うよう指示したから、あのガキが死んだかな。すごい量の血の匂いもするし」
「.....は?シュン君が死んだ?」
血の匂いはしないが、獣人は鼻や耳がいい。分かるのだろう。
「おう?なんだガキが死んだだけだぞ。弱い者から死ぬ。そんなの当たり前だろ。それともす...ぐはぁ」
獣人の体が吹き飛び、口から血を出した。
「今のが本気だな!!」
奴が血を手で拭き取る。いまの感触なら肋骨は折れただろう。
体が熱い。血が沸騰しているみたいだ。こんな気持ち久しぶりだ。
「すごい殺気だな!やっと本気を見せ....うっ」
奴の左腕が宙を舞い、地面に落ちる
「うぐ」
奴が左腕の断面を反対の手で抑えている。
「よかったな〜!本気で戦って欲しかったんだろう?なぁ」
「そうだよ!こんなの痛くも、は?」
今度は奴の右目が潰れる。
「いや、ちょっと待って」
「待つ?冗談だろ、早く立て。戦いたいんだろう?」
「.....もちろんだよ!」
獣人が勢いよく立ち上がり、私から離れたところに飛んでいった。あんなに怪我しているのにまだ動けるか。流石獣人だな。
「この距離ならお前の剣は届かない。この怪我もハンデとしては丁度いいだろう。ここからが本番だ!」
「......」
確かに普通なら届かないな。この距離は魔法の範囲だ。普通ならだか。
「次は私からだ。」
奴が残っている右腕を振り上げる。
「これが私の奥義だ!くら...え?」
奴の目線の先には血を流している腕の断面があった。
地面には右腕が転がっている。
「え、なんで。この距離なら届かないはずなのに」
両腕がなくなった奴は口を開けてこっちを見ている。
「見えなかったのか?手加減したのに。」
「嘘だろ.....こんなことって」
奴の体が震え始めた。両腕がなくなったのは初めてなのかな?私は一歩一歩、奴に詰め寄る。
「ひ、いやだ。いやだ。来ないで、来ないで」
そんなに怖がってどうしたんだ?そんなに怖い顔してるかな?まぁ人前では見せられない顔してるんだろうな。
「お願い、まだ死にたくない。」
奴が足を使いながら後ろに下がっていく。
「私の仲間に手を出しておいて、死にたくないか。舐めてるのか!!」
「ひぃ。ごめんなさい。ごめんなさい。」
追うのめんどくさいな。そうだ。
「ぎゃぁぁ。足が、足がぁぁぁ」
奴の両足が吹き飛ぶ。いや、左足はまだぎりくっついているな。使えないけど。
「うるさいな。少し黙ってくれない?」
「いやだ。死にたくない。助けて。」
「だから黙れって。」
奴の目から涙が溢れている。もう足も手もないからか逃げずに、こっちを見ている。
「助けて欲しいなら言うことあるよな?」
「はっはい。いきなり襲いかかってすいませんでした。あのガキも殺してしまってすいませんでした。」
やつの右耳が消し飛ぶ。
「いやぁぁぁぁぁ」
「ガキじゃねぇよな?ふざけているのか?」
「ごめんなさい!ごめんなさい!直しますから」
「もういい。」
奴の頭を持ち上げる。四肢がないからか、軽く感じる。
「よかったな!最後に私の美しい姿を見て死ねるんだ。」
「いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ」
「本気で戦いたいんだろう。でもごめんね。まだ全力ではないんだ。全力で戦って欲しいならもっと強くならないとね。もう二度とないけど。」
「あっあっあっ」
もうまともに話せなくなったか。精神が崩壊しちゃったかな。
「それじゃあ、バイバイ」
そうして、目の前に血が舞った。




