第19話 男の正体
冒険者ギルドの2階、関係者しか入ることのできない一室に連れてこられて、座らされる。
「......」
「......」
私は目の前の男を睨み続ける。男もそれに気づき、私の目を見ている。シュン君は戸惑っている。
「で、なんで私を呼んだ?」
私は殺意をこめながら、男に尋ねる。
「そんな、睨むな。俺はお前に感謝しているんだ。いや違うな。お前達にだ」
「??」
何を言っているんだ。この男。
「まずは感謝を伝えたい。あの人喰い魚をつりあげてくれてありがとう」
「!?」
本当に意味がわからない。どういう状況なんだ。
「どういうことだ!一つ一つ説明して欲しい」
「もちろんだ。だからもう少し殺意を出さないでくれるか。」
そこから、この男が話し始めた。
まずこの男の正体はアストラルの冒険者ギルドのマスターらしい。昔、あの人喰い魚によって妻を殺され、今までずっと探していたらしい。では何故自分で見つけなかったのか。否、見つけることができなかったのだ。
あの魚は知性があり、一定の強さを持っている者に対しては警戒をして、姿を現さない。その性質のせいで、男は見つけることができなかった。そこで私達の出番ということだ。
「それで、私達のような者がくるのを待っていたと。」
「まぁ簡単に言えばそうだ。もしあの魚が掛かったとしても、釣り人が弱ければ海に引き込まれてしまう。しかし強すぎるとそもそも掛からない。面倒な魚だもんだ」
男が大きなため息を吐き、そう言う。
辻褄があってきた。シュン君の竿に掛かったことや私の実力を見抜いていた理由など。最初から奴の手の平の上だったようだ。
「でも、今まで他の冒険者もクエストを受けただろう。その時はどうしていたんだ?」
「そのときは、普通に魚の管理とかにしていたさ。だからクエスト用紙にも詳細は書いていなかっただろ」
「そう言うことか。それで、私達にどうして欲しいんだ?」
感謝だけなら、こんな密室でやる意味はない。何か理由があるのだろう。
「え?普通に人前で感謝するのが、恥ずかしいだけだが。」
「......は?」
この男は本当に食えない奴だ。
こんなにも警戒していた私が馬鹿みたいじゃないか。
「だからもう要件は済んだ。改めて、ありがとう」
まぁでもよかったー!。勇者だってこと気づいていないようだ。私の早とちりじゃないか!
「それでは、失礼する。行こうかシュン君。」
「え、はい。行きましょうか」
こうして、扉を開いて出て行こうとした途端、リレイが耳打ちをしてきた。
「その少年に聞かれたくないらしいから、こんな形だが、これからもよろしくな。イレイスさん」
!?やっぱり気づいていたのか。流石冒険者ギルドのマスターだ。本当に腹が立つ。
「......絶対他の人には言うなよ。言ったらどうなるか...」
「もちろん、言わねえよ。お前に刃向かったらどうなるかわからないからな。逆に何かあったら気軽にいってくれ。一応、お前達は俺の恩人だからな」
「どうしましたか?ミリスさん」
そんな会話していると扉からひょこっとシュン君の顔が出てきた。
「いや、なんでもない。行こうか」
「はい!」
部屋を出る瞬間、私はリレイを睨んでおいた。
まぁもし何かあったら、気兼ねなく使ってやろう。
こうして、波瀾万丈なクエストは終わりを迎えたのだった。その裏で進んでいるとも知らずに。




