西のダンジョンでの会談
ルーベルの呪い事件から1週間が経った。
キザキ、ユキナ、俺の3人は王都で情報収集を行っていた。
キザキはその人脈を活かし貴族や商館、露店紹介など様々な場所へ顔を出した。
俺とユキナは主に街での情報収集を行ったが奴隷差別の激しい王都ではほとんど役に立てなかった。
宿屋に戻るとキザキが出かける準備をしていた。
「これからまたどこかへ出掛けるんですか?」
俺が聞くとキザキは俺たちにも準備をするよう指示を出した。
どうやらルーベルから屋敷へ顔を出すよう連絡があったようだ。
俺とユキナは慌てて準備をしてキザキについて宿屋を出た。
馬車の道中、お互いの集めた情報を共有したが大きな収穫はなかった。
馬車はすぐにルーベルの屋敷に到着した。
門でセオリーが待機しておりすぐに応接室に案内してくれた。
「ルーベル様の容態はいかがですか?」
呪いを受けていた時、あの豪胆なルーベルが死んでしまうのではないかという位の様子だったのを思い出した。
「それが…。」
セオリーが喋ろうとすると応接室のドアが豪快に音を立てて開かれた。
一同驚いてドアの方を見るとピンピンとしたルーベルが笑顔で立っていた。
「ルーベル様!」
セオリーが声をあげるのを無視してルーベルは俺たちの前に座った。
「いやー!会う約束をしていたのに申し訳なかったな!」
ルーベルが笑いながら言った。
「気にしないでください。ルーベル様こそ体調は大丈夫なんですか?」
キザキが聞くと
「問題ない!1週間も必要なかったのだがセオリーが心配症でな!」
「当たり前じゃないですか!」
セオリーが真っ赤な顔で言った。
「本当に死んでしまうのではないかと肝を冷やしましたよ。」
「すまんすまん!そしてユキナよ!」
「は、はい!」
急にルーベルに声を掛けられて飛び上がる勢いでユキナが返事をした。
「今回本当にお前に助けられた。感謝する。」
ルーベルは深々と頭を下げた。
「とんでもないです。」
ユキナは真っ赤な顔で返事をした。
「礼は後日するとして、本題に入るぞ。」
ルーベルは真剣な顔で話し始めた。
「今回、もともとキザキから話があるということで来てもらった訳だが、今回の騒動だ。もしかしたら外に情報が洩れているかもしれない。」
「西のダンジョンへ行くことをよく思わない者がいると?」
キザキが聞くとルーベルは頷いた。
「更に今回の呪いの指輪に関しては送り付けてきた者はわかっている。しかし、儂が回復したことまでは恐らくまだ知らないだろう。」
「ルーベル様は体調を崩されたままと噂を流すという事ですか?」
「そうだ。一旦泳がせて様子を探らせる。お前たちにも指輪の犯人についてはまだ伏せさせてもらう。」
「ルーベル様がおっしゃるなら…。」
「儂の信用する者に調査は任せる。一旦東のダンジョンで起こった事、これから西のダンジョンへ行く事についての詳細を利かせてくれ。」
ルーベルは俺を真っ直ぐに見た。
「かしこまりました。お話させて頂きます。」
俺は東のダンジョンで四天王のうちメディウスとシーザーに会った事、勇者の英雄譚の続きが悲劇であったこと、メディウスから話し合いを持ちかけられたことを話した。
それと俺が考えている事、人間とモンスターの戦いに対しての疑問についても隠さずに話した。
ルーベルは黙って話しを最後まで聞いてくれた。
「…以上が全てです。」
俺が話し終わるとルーベルは眉間に皺を寄せて考え込んでいた。
「レビンよ。」
ふいにルーベルが俺を正面に見ながら話した。
「メディウスとやらが言っている通りお前には何かあるのかも知れぬ。西のダンジョンの2回の生還、東のダンジョンでの件、ここまでくると偶然というほうが不自然だろう。」
「俺もそう思います。」
「ただ、客観的に見るとあまりにも都合が良すぎてお前が魔王軍と繋がっているようにも見える。」
ルーベルの目つきが鋭くなる。
「そこにきて人間と魔王軍との戦いについて意見があるとなるとますますお前が不気味な存在に見えてくる。」
そこにキザキが声をあげた。
「待ってください!確かに偶然が続いて不自然に見えるかもしれませんが東のダンジョンへ行ったのは国王からの依頼です。それに西のダンジョンについてもレンタル奴隷の依頼で行っているだけで決してレビンの意志で行っているわけではありません。」
ルーベルは視線をキザキへ移した。
「あくまで客観的な話だ。そうなるとキザキ、貴様と魔王軍がグルでレビンを使って行われているとも取れるんだぞ。」
「そ、それは…。」
キザキが口籠る。
「まぁ、客観的推論はここまでだ!」
ルーベルは膝を叩いた。
「ここからは儂の意見だ!キザキとは古い付き合いで魔王軍と繋がっていないことなどわかっている。そのお前が信用しているレビンを疑うわけにはいかないだろう。しかもレビンには奴隷の首輪がついている。下手な嘘をつけばキザキが見落とすことはあるまい。その時はキザキが対処するだろう。」
「ありがとうございます。ルーベル様。」
キザキは頭を下げた。
「それとルーベル様にお願いがございまして。」
「なんだ?」
「西のダンジョンへ行く際、魔王軍の四天王何人出てくるかわかりませんがこちらにも人間で地位のある位の方に随行して頂きたく。もちろん体調が回復してからで構いませんので。」
キザキの願いにセオリーが反発した。
「キザキさん!何をおっしゃるのですか?ルーベル様は貴族でこの国でも重要人物です。そんな危険なところに…。」
「セオリー!」
ルーベルの一言でセオリーは口をつぐんだ。
「もちろん儂も行かせてもらう。」
「ルーベル様!」
「セオリー、お前の気持ちはありがたいが今回の件はかなり慎重に行わねばならん。だからキザキもレビンから話を聞いて情報を漏らさないようここまで来た。それでも情報が洩れている可能性があるんだ。このモンスターとの会談を快く思わない者がいるんだろう。それにキザキ達の言う通りある程度決定権がある人間が行かないと話し合いの意味が無くなるだろう。儂なら国王にも謁見可能だからな。」
笑いながらルーベルは言う。
セオリーは暫く黙ったあとわかりました。と小声で呟いた。
「待たせたな。」
ルーベルはこっちを振り向き笑顔を見せた。
「儂の体調に関しては気にしなくていい。明日の朝ここを出て西のダンジョンに向かう。今日はお前たちもここに泊まっていくがよい。部屋はいくらでもあるからな。」
笑いながら席を立ちルーベルは全員の部屋の準備を使用人に指示した。
ルーベル邸の使用人たちの行動は素早くすぐに部屋に通された。
夕食を全員で食べ、明日のダンジョンでの打ち合わせを行いその日はすぐに眠りに着いた。
翌日、ルーベル邸の中庭に全員集まった。
「揃ったな?」
ルーベルが確認する。
「今回のメンバーは儂、キザキ、レビン、ユキナの4人で西のダンジョンへ向かう。セオリーは屋敷のことと、指輪の調査の件頼んだぞ。」
「わかりました。」
セオリーは止めることを諦めたようだ。
「レビンの話では西のダンジョンに信用の出来る者を集めてくるよう四天王のメディウスより要求があった。間違いないな?レビン。」
俺は頷いた。
「レビンから聞いている話しでは心配ないとは思うが罠という可能性も捨てきれない。だが、今回のようなモンスターとの会談など前例がなく収穫も大きいと考えられる。ここはレビンとメディウスを信用しようと思う。」
ルーベルは一同の顔を見て表情を確認した。
「セオリー!」
セオリーが前に出る。
「万が一のことを考えてこれを持っておれ。」
一枚の紙をセオリーに渡した。
「全員帰って来ない、もしくは儂に何かあった場合に確認しろ。」
「ルーベル様?」
セオリーが心配そうな顔でルーベルを見た。
「万が一為だ!そんな顔をするな。」
ルーベルがセオリーに笑顔を向ける。
そのまま全員馬車に乗り込み西のダンジョンへ向かった。
道中、何かあった場合を想定して作戦を練った。
西のダンジョンにはモンスターに出会う事なく到着した。
馬車を降り装備品などの確認、持っていく道具の準備をしているとユキナが不安そうに声をかけてきた。
「四天王の方は約束通り会談の場を設けてくれるのですかね…。」
ダンジョンに来ること自体初めてのユキナの不安は仕方のないものだと思う。
ルーベルやキザキも来た事はあるだろうが昔の話だ。
全体に緊張感が高まるのを感じた。
「大丈夫…、と言い切りたいところですけど万が一には備えたいですね。話した感じではかなり理性的で会話も落ち着いたものでした。」
ユキナがクスリと笑った。
「やっぱりレビンさんは正直ですね。」
どういう意味かはわからないがユキナに笑顔が戻ったのでよしとした。
「レビン!」
ルーベルに呼ばれ俺は急いで向かった。
「はい。」
「準備が出来次第ダンジョンに入る。お前には申し訳ないが先頭を任せたい。」
「もちろんです。」
「だが、安心しろ。今までお前はかなり理不尽な想いをしてきたようだが今回はお前を見捨てるような者はいない。前線を退いたとはいえ儂もまだまだ現役のつもりだ!それにキザキもいるしな。」
「キザキさん?」
俺が聞くとルーベルはきょとんとした顔でこちらを見たあと、大声で笑いながら言った。
「なんだ、聞いとらんのか?まぁ、あいつは自分の事を言うような奴ではないか…。キザキはな、若い頃は勇者候補にまで登り詰めた冒険者なんだぞ。」
俺は驚いてキザキを見た。
キザキはため息をつきながら言った。
「ルーベル様…。昔の話です。今はただの商人です。」
「よく言う…。」
ルーベルがニヤリと笑いながら言った。
「まぁ、そういうことだから心配はするな!」
やはりこのメンバーを選んでよかった…。
「そろそろ準備はいいな?」
ルーベルの声に全員が頷いた。
俺を先頭にダンジョンに入った。
入口を入ってすぐの事だった。
「よく信じて来てくれたな。レビン。」
どこからともなく声が聞こえた。
全員に聞こえたようで皆辺りを警戒している。
「メディウス…か?」
「そうだ。会談の場は整っている。部屋まで来てくれ。ダンジョン内のモンスターはお前たちに攻撃しないよう指示してある。」
俺はルーベルとキザキを見た。
二人は頷き俺を先頭にダンジョンの奥へと進んだ。
途中モンスターが姿を現したが襲ってくる気配は全くなかった。
「信じられん…。」
ルーベルが小さく呟いた。
そのまま奥に進むとメディウスを出会った部屋の扉が見えてきた。
「ここか?」
キザキの質問に俺は頷いた。
「メディウス、入るぞ?」
「ああ。」
メディウスの返事を確認し俺たちは扉を開けて中に入った。
中に入ると以前入った部屋とは別の世界だった。
室内はまるで王宮の一室のように綺麗な部屋で中央には大きなテーブルが用意されていた。
「そちら側に座ってくれ。」
奥からメディウスが現れた。
見た目は東のダンジョンで見た角の生えた男性のような姿をしている。
表情は優しささえ感じるほど穏やかな顔をしていた。
メディウスの指定した席に座ろうとして気づいた。
俺以外が全員固まって動いていなかった。
ルーベルの表情は厳しいものとなりメディウスを睨みつけている。
キザキも同様だ。
ユキナは真っ青な顔をして震えていた。
「メディウス…。何かしたのか?」
「すまない、少し刺激が強すぎたようだ。」
メディウスは笑みを浮かべて目を瞑った。
「ぐはぁ…。」
ルーベルとキザキが同時に息を吐く。
ユキナはその場に座り込んでしまった。
「おい、メディウス!」
何か攻撃をしたのかと思い文句を言おうとすると
「待て、レビン。」
キザキに止められた。
「お前は何ともなかったのか?」
「何がですか?」
俺が聞き返すと、ルーベルはふっと笑みを浮かべた。
「なるほど…。これは四天王も興味を持つはずだ。」
言っている意味がわからず困惑しているとメディウスが笑顔で言った。
「わかるか?人間!この男は私の気に当てられても動じる事なく普通に会話をしてきたのだ。それどころか、私がプレッシャーを強めても何も感じていない!これは興味深いことだ。」
嬉しそうに語るメディウス。
「レビン、お前は本当に何も感じていなかったようだが、私たちは呼吸が上手くできないほどの圧をメディウスから感じた。昔、強力なモンスターとも何度も戦ったがここまでの相手と戦った事はない。」
キザキが冷や汗を拭いながら俺に言った。
「そうだろうな!我々四天王は魔王様に次ぐ強さを誇っている。それが弱いわけがないだろう!なのにこのレビンという者は私のプレッシャーだけでなくシーザーにも同様の反応だった!興味が沸かない訳がなかろう!」
「今は意図的にプレッシャーを弱めてくれたのだろう。先ほどまでとは比べ物にならないほど弱まったがあの状態のままだったらこちらの精神が崩壊していてもおかしくなかったぞ。」
ルーベルが言うようにユキナも何とか立ち上がったもののまだ具合が悪そうだ。
「メディウス、今回我々は話し合いに来た。出来ればそのプレッシャーをかけるのをやめてもらえないだろうか?まともに会話も出来ないようなら会談の意味が無い。」
俺が言うとメディウスは頷いた。
「すまなかったな。一度試しておきたかったのだ。これから来る者たちにも控えるよう連絡しておく。」
そういうとメディウスは指で眉間を触り目を瞑った。
「よし、伝えておいたぞ。」
メディウスは最初の笑みに戻っていた。
全員席に着くとメディウスがこちらを向いた。
「では、礼を欠いて申し訳ないが一度に呼ばせてもらう。シーザー、レイス来てくれ。」
そう言うとメディウスの両隣に東のダンジョンで出会った四天王、シーザーともう一人見たことの無い者が現れた。
「紹介しておく。シーザーは知っているな?先日会っているからな。」
シーザーはこちらをちらりと見たがすぐに目を逸らした。
元々人間嫌いで東のダンジョンではメディウスが来てくれなかったら俺も殺されていたかもしれない。
「それでもう一人なんだが…。」
「俺はレイス。魔王軍四天王で南のダンジョンを治めている。」
レイスは見た目は人間というよりミノタウロスのような姿をしていた。
「レイスは口数が少なくてね。ただ、シーザーほど人間を嫌っていないし、話し合いは出来ると思う。」
「余計なお世話だ。」
シーザーが呟いた。
「四天王のもう一人は?」
俺が訊ねるとメディウスが俺の後ろを指差した。
俺たち全員振り返るとそこには黒いモヤのようなものがあった。
「これは…?」
俺が訊ねると
「それが北のダンジョンを治めている四天王の一人、ミューレだ…。」
メディウスが頭を抱えていた。
「ミューレはその…、人どころかモンスターの前にも滅多に姿を見せずいつもモヤ状になっている。人間たちでいうところの人見知りだ…。」
モンスターにも色々いるのだと知った。
「一旦これで全員だな。」
メディウスが場を仕切り直した。
「では、今度はこちらの紹介を…。」
俺は信用のできる今回のメンバーを紹介した。
「では、ルーベルと言ったか?お前が一番人間への影響力があるという事でいいんだな?」
「そうだ。」
ルーベルが頷いた。
四天王たちは約束通りプレッシャーを抑えてくれているようだ。
「私が深く興味を持ったのはレビンの考え方だ。我々魔王軍は長寿故、なぜ人間と戦っているのかなどの理由について思い出せないし理由などどうでもよいと考えていた。人間がくれば戦い、殺す。その事に何も思っていなかった。」
メディウスが言った。
「それは我々も同様だ。モンスターがいるから倒す。そのことに疑問を持つ者などいない。」
ルーベルが言った。
「だが、このレビンは違った!なぜ戦うのかを本気で考えている!簡単に周囲に合わせるのではなくわざわざ苦しみながら考えている!本当に興味深い!」
テーブルを叩き立ち上がり興奮が抑えられないようだ。
「確かにレビンの考え方は稀有だ。その先に何を見出すのか興味はあるが何故モンスターである貴殿らまで興味を持つのか?」
キザキが聞いた。
メディウスが目をギラつかせながら言った。
「普通、自分の種族のことを優先するのが当たり前ではないか?しかし、このレビンは種族など関係なく物事を見ている。我々モンスター側になって人間なりに考えているのだぞ?そんなことが同種族に知られたら避けられるどころか下手をすれば処罰されてもおかしくないのに。それを私に話したのだ。そしてここにいる人間たちも聞いたのだろう?その考え方を。」
一同が頷いた。
「そして今日、本当にここまでやってきた。もう信じざるを得ないだろう。このレビンは本気で今の戦いに疑問を持ちその答えを探していることを。そしてレビンがこのメディウスをここまで動かす何かを持っているという事を認めるしかない!」
メディウスが熱く話している中レイスが挙手をした。
「なんだ?レイス。」
水を差されたような顔でメディウスが聞いた。
「事前に話しを聞いていたからお主の言っていることはわかった。レビンに聞きたいことがある。」
「はい。」
俺は答えた。
「お前が考えていることはわかった。現状への疑問。確かに我々もほとんど考えることがなかった。それでお前は結局その答えを知ってどうしたいのか?」
俺は言葉に詰まった。
ずっと一人で考えていた。
色々な経験をすればするほどわからなくなった。
俺はどうしたいのか?
モンスターに人を襲わせることをやめて欲しいのか?
いや、それだと冒険者などモンスターと戦える人間がダンジョン攻略を進めモンスター側がただ不利になる。
冒険者以外を襲うのをやめてもらう?
そんな見分けがモンスターに出来るのだろうか?
出来たとしても人間が民間人のフリをしてモンスターを襲う可能性がある。
そもそも、こんな俺の希望が通ったところでいつまた約束が破られるかもわからない。
俺が黙っているとルーベルが声を掛けてきた。
「レビン、ここには儂もいる。堂々と考えを言ってよい。」
これは国にも掛け合ってくれるというルーベルの心遣いだ。
「幼稚に聞こえるかもしれません、安易な考えかもしれませんが俺は魔王軍と人間で共存できないかと考えています。」
「共存?」
レイスが訝し気な顔をした。
「つまり、魔王軍と人間で争うのをやめて共に生きていくと…。そう言っているのか?」
「はい、そうです。」
俺は答えた。
「いい加減にしろよ!黙って聞いていれば…。」
シーザーが机を叩いて怒鳴った。
「そんな綺麗事、上手くいくはずがないだろう!人間はすぐに裏切る!人間の為に戦った勇者ですら人間に殺されたのだぞ?何を信用しろというのか!」
シーザーの怒りは最もである。
最初に話しを聞いたときは俺にも怒りが湧いた。
「しかし、魔王軍と人間の争いはずっと続いておりもはや何故争っているのかもわからない状態になっています。このまま何も考えず惰性で戦い続けることに意味はありません。だったら一度お互いの考えを話す場を設けてもいいのではないでしょうか?」
「それは…、一旦話し合いをしてお互いに状況を整理して望みを言い合うという事か?その場合もしお互いの望みがかみ合わなかった場合戦いは続くという事になるぞ?」
「言っていることはわかります。ですが何も考えず、何のゴールも無いまま戦い続けるよりはマシだと思います。」
レイスが再び考え込んだ。
今度はルーベルが口を開いた。
「レビン、お前の言っていることや四天王の言ってること両方わかるのだが、私の力は精々我が国の王に話しを通すことができる程度のものだ。他国にまでは影響力はないぞ?」
「それもわかっております。まずは我が国が魔王軍との最初の架け橋となればいいのではないでしょうか?」
「なるほど…。貴国との関係性を示すことによって他の国とも交渉できるようになると。」
「そうです。そうすれば魔王軍にとっても被害を出さずに望みが叶うことも増えるでしょう。少なくとも出会ったら即戦闘のような非合理的な現状を打破できると考えます。」
「やはり面白い!」
メディウスが言った。
「これだけのメンツを相手にして両側の事を考えながら話すなどなかなかできることではないぞ。やはり魔王様にも来て頂こう!」
「え?」
全員が驚きを隠せなかった。
「お前…、正気か?」
シーザーが目を見開いて言った。
「大枠とはいえここまでの話し合いができたのだ!この様な夢物語みたいな話をこんなに本気で言った者を今まで見たことがあるか?まさに幼稚!だが夢としては面白い話だ!今回の話し合いが失敗したとしても今まで通りに戻るだけだ。ならば試してみる価値があるのではないか?」
メディウスが言うと全員が黙って考え込んだ。
「正直現実味は全くない。ただの小僧の独り言に過ぎん。だが何か惹きつけられるものがあるのも事実。」
レイスが自分に言い聞かせるように言った。
「正気かよ…。」
シーザーも必死に考えを巡らせているようだ。
ここでメディウスが手を叩き大きな音を立てた。
皆が振り向く。
「全員疑いや不安はあるようだがレビンの幼稚な考えに概ね異論はないと言っていいな?では、一旦今日の会談はここまでにしよう。我々は魔王様に話しをしに行く。お前らは国王に話しを通しておいてくれ。」
俺たちに言うと四天王たちはそのまま姿を消した。
俺たちのいた部屋は大きな空洞のような部屋に戻っていた。
「ははは!」
ルーベルがその場に座り込んで声をあげて笑った。
「キザキ、レビン、ユキナ!本当に面白いことに巻き込んでくれたな。」
今まで見た中で一番の笑顔を俺たちに向けてきた。
「これは笑うしかないですね。」
キザキも苦笑いを浮かべている。
「もう…話しが大きすぎて…怖かったです…。」
ユキナはその場にへたり込んでしまった。
「よし!」
ルーベルは立ち上がり後ろを向いた。
「これから忙しくなるぞ!王都に戻って次の作戦会議だ!」
ルーベルに続いて俺たちは歩きだした。
今まで四天王と話していたのが夢のようだった。
現実味がまるでない。
魔王軍との共存。
これが達成できれば大きく世界が変わるだろう。
その第一歩を踏み出せたのだ。
「しかし、一旦は国内の問題だ。」
ルーベルが呟いた。
「指輪の件ですね。」
キザキが言うとルーベルは頷いた。
「この件は魔王軍との共存にとっても大きな厄介事になる可能性がある。全力で解決するぞ。」
俺たちは頷いた。
「レ、レビンさん!」
ユキナに呼ばれて振り向くとユキナはまだ地面にへたり込んでいた。
「あの…。腰が抜けてしまいまして…。」
真っ赤な顔で俺に訴えてきた。
俺は笑ってしまいユキナはふくれっ面になった。
「失礼します。」
俺はユキナをおぶった。
ユキナは恥ずかしそうにしていたがしっかり俺に掴まった。
そのまま全員でダンジョンから出て馬車に乗り込んだ。
このまま馬車でルーベル邸に行き改めて作戦会議を行うことにした。
まだまだ課題は多いが自分の考えの先が見られるかもしれないという期待を持ってルーベル邸までの道のりを過ごした。