王都訪問
ダンジョンでトラブルがあり魔王四天王の一人メディウスに会った俺、その時に自分に名前が無いことに気づきメディウスに哀れみを受けダンジョンから出して貰えた俺、レビンは四天王に会ったということで王都へ報告に行くことになった。
俺の名はレビン。
もう一度言う…。レビンだ…。
やっと自分の名前が決まった男だ。
部屋から廊下に出るとニールがちょうど訓練所へ向かうところだった。
「おはよう。」
声を掛けるとニールが振り向いた。
「あ、レビンさん。おはようございます。」
笑顔をこちらに向ける。
「そういえばキザキさんがレビンさんを呼んでましたよ!」
「わかった。ありがとう。」
そう言ってキザキの部屋へ向かう。
「失礼します。」
声を掛けて扉を開けるとキザキとユキナが部屋にいた。
「座ってくれ。」
キザキの指示で席へ着くとユキナも隣に座った。
「先日の冒険者の依頼でレビンが魔王軍の四天王に会ったということを王都へ報告したら国王含む宰相たちが直接話しを聞きたいということなのでレビン、お前を今回王都へ連れて行く。」
王都…。
この商館に来て様々な依頼でいくつか都市に行ったが王都は今回初めて行く。
「そしてユキナ、数日外泊になるからお前も来い。身の回りの世話を任せたいのと、お前も外の世界を見るのもいいだろう。」
「は、はい。わかりました。」
「明日には出発するから準備をしとけ。わかったな?」
俺とユキナは返事をし部屋を出た。
部屋を出るとユキナが嬉しそうな顔でこちらを見上げた。
「私ここに来てから近くの買い物以外外出初めてなんです。ちょっと楽しみです!」
そう言うと準備のため部屋に戻って行った。
か…かわいい…。
俺はキザキはもちろんユキナを全力で守ることを誓い部屋に戻った。
部屋で準備をしているとニールが部屋を訪ねてきた。
「ちょっといいですか?」
「どうした?」
ニールを部屋に入れるとニールは小声で話し始めた。
「先日買い出しに行ったときなんですけど…。王都の噂を聞いたんですよ。」
「何かあったのか?」
「王都で行方不明事件が発生してるみたいなんです。騎士団も動いてるみたいなんですけどまだ犯人は捕まってないみたいで…。」
王都では常に騎士団の見回りが行われておりかなり安全と聞いていたが実情はそうでもないらしい。
無理もない。
どんなに警戒しても抜け道を見つけて悪さは行われる。完全に消えることはないのだろう。
「わかった。気を付けるよ。情報ありがとう。」
お礼を言うとニールは部屋を出て行った。
「何もないといいんだけど…。」
俺は呟きその日は眠りについた。
翌日馬車で王都で向かうことになった。
今回は街の外に出るわけではないのでモンスターを警戒する必要が無いのは助かる。
馬車から見る景色も新鮮で良いものだ。
ユキナもずっと外を見て嬉しそうな顔をしている。
今回王都で会うのは国王を始めとした重鎮なので俺もユキナもかなり上等な服を着ている。
王都の中心に入るとそこは活気づいた街で色々な店が出ている。
人も多くまるで祭りでもしているような騒ぎであった。
その一方、路地裏などでは貧困に飢えた人々もちらほら見える。
表通りが栄えている分悲しい気持ちが湧いてきた。
馬車は大通りを進み城が見えてきた。
城は王都の中心に建っており、周囲を池で囲まれている。
橋を渡り城に近づくと衛兵が馬車の前に立った。
「止まれ!」
衛兵の指示通り馬車は止まり衛兵が近づいてきた。
「入城証明書を出せ。」
キザキが紙を出し衛兵に見せた。
衛兵は紙を確認しこちらの様子を見ている。
俺とユキナの首輪に気づいたのかジロジロと見てくる。
「通っていいぞ。」
馬車は再び進み始めた。
「なんか感じ悪かったですね…。」
俺が言うとキザキが
「奴隷が城に入るというのは珍しいことなんだろう…。気にするな。」
そう言った。
奴隷への差別は根強く王都ともなるとかなり偏見を持った人も多いらしい。
馬車を降り城内に入ると煌びやかな世界が広がっていた。
見たこともない大きな階段、高い天井、何かはわからないが絵がたくさん飾られている。
正面に一人の男が立っていた。
「ようこそお越しくださいました。私は案内係を務めさせて頂きますセオリーと申します。」
セオリーと名乗った男は頭を下げた。
「申し遅れました。私はキザキと申します。この二人は私の奴隷のレビンとユキナです。」
俺たちが頭を下げると
「早速案内させて頂きます。」
セオリーは城の奥へ歩き出した。
城内も広くもう自分がどこを歩いているのかわからない。
大きな扉の前でセオリーが止まりノックをした。
「入れ。」
中から男の声がした。
扉を開けて入ると大きな応接室があった。
一番奥に風格のある男がおり手前に2名座っている。
「呼び出してすまなかったな。私がこの王国の王ザギールだ。そして宰相のモンテと騎士団長を務めているアーモだ。」
キザキが膝をつきこちらに目配せをして座るよう合図をだした。
「初めまして。キザキと申します。こちらは…」
「奴隷の名前などよい!」
アーモの怒声が響く。
「奴隷などという卑しい身分の者を城に入れるなど異例中の異例だ。さっさと話しをしろ。」
モンテの反応もアーモと同様だ。
「お前らが黙らんか!主要な職の者がみっともないぞ!」
ザギールが場を制す。
「すまなかったな。名は何と申す?」
「こちらがレビン、女がユキナと申します。」
キザキが紹介した。
「ではレビン、話を聞かせてもらえるか?」
俺はダンジョンで出会った魔王軍四天王のメディウスの話をした。
「では戦闘はしてないんだな?」
「はい。」
俺が答えると
「ちっ。使えんな…。」
アーモが呟いた。
「もっと有益な情報があると思ったんだがな…。奴隷なら国のために戦う気概を見せてほしいものだな。」
モンテも手厳しい。
「わかった。わざわざ城までご苦労だったな。」
ザギールが労いの言葉を言い部屋を出ることになった。
「すみませんでした。」
セオリーが申し訳なさそうに頭を下げる。
「いえいえ。」
キザキが言う。
「モンテ様もアーモ様も普段はあそこまででは無いのですが…。」
「王都では奴隷差別が激しいというのは仕方のないことです。」
「特にアーモ様は奴隷に関して激しい考えをお持ちで…。」
やはり噂で聞くよりもかなり差別は強いということを感じた。
城を出て宿屋に向かい食事をすることになった。
「キザキさん、これからどうするんですか?」
「私はまだ王都で用事がある。少し手伝ってもらうが買い物などを頼みたいからユキナと一緒に行動してくれ。」
「わかりました。」
俺とユキナは返事をした。
「今日でもわかったと思うが奴隷差別は激しいからユキナの護衛も頼むぞ。」
「レビンさん、よろしくお願いします!」
「任せてください。」
その後食事を終えそれぞれ部屋で眠りについた。
翌日、キザキは予定があると言って出かけ俺とユキナは買い物に出た。
「こんなに人がいると緊張しますね…。」
ユキナが不安そうに周囲を見ている。
「大丈夫ですよ。王都内は騎士団がパトロールしているので安全ですよ。」
安心させるために俺は言った。
行方不明事件の話もあるので俺も警戒はしている。
「用事を済ませて早めに宿に戻りましょう。」
そう言って目的の店へ向かう。
今日は奴隷用の服と訓練で使う木剣などを購入し街を歩いているとやはりすれ違う人が首輪をチラチラ見ている。
「おい、お前ら奴隷だろ?」
急に声かけられ振り向くと見知らぬ男が4人立っていた。
「何か用ですか?」
「用ですかじゃねーんだよ。奴隷が道を堂々と歩いてんじゃねーよ。邪魔だよ。」
なるほど。いいがかりだ。
「行きましょう。」
ユキナが言い歩き始める。
俺も後に続くと
「待てよ!無視してんなよ?奴隷のくせに。」
無視して二人で進むと前に回り込んできた。
「こいつら調子に乗ってるよな?男のほうは殺してもいいよ。女は連れてくぞ。」
その言葉に俺の堪忍袋の緒が切れた。
「いい加減にしてもらえませんか?何かしましたか?俺たち。」
「うるせーよ。お前らはいるだけで害なんだよ。」
そう言って一人が殴りかかってきた。
軽く足払いをすると引っかかりすぐ倒れた。
他の3人が動く前に倒れた男に馬乗りになり顔面を殴った。
「ぶっ!」
続けて殴り続ける。
「て、てめー。」
一人が向かってきたがそっちを睨むと怯んでいるのがわかった。
続けて殴ると意識を失った。
俺は立ち上がり他の3人は身構えたが完全に逃げ腰だ。
「ユキナさん。行きましょう。」
俺が声を掛けるとユキナは急いで俺の元へ寄って隣を歩いた。
男たちは追ってこなかった。
そのまま宿屋への道を歩いていると
「あの人たち追ってきませんでしたね…。」
「ああ、そういう風にしたんです。」
「え?」
「だいたいああいう言いがかりつけてくる奴は自分たちがリスクを負わないで嫌がらせをしたいだけでんですよ。だから俺たちみたいな奴隷とか立場の弱い奴を狙うんです。だから一人を徹底的に戦闘不能にすれば引いていきますよ。特に鼻血とか出せば恐怖を感じるもんですから。」
「そこまで考えてたんですね!すごいです!」
感心した様子でユキナがこちらを見ている。
照れくさくなり宿屋への帰路を早足で帰った。
宿屋に戻るとキザキが戻っており絡まれた件を報告した。
「やはり王都での奴隷に対する偏見は強い。今回はよかったができるだけ逃げるようにすること。わかったな?」
「はい。」
「まぁ、今回は大事にならなくてよかった。ゆっくり休め。」
そう言ってキザキは部屋へ戻った。
俺とユキナは今日買った物を仕分けして部屋へ戻った。
翌日、キザキと一緒に王都を回ることになった。
今日はキザキの知り合いの貴族の家に荷物を運びその後キザキの知り合いの奴隷商館に行くという事だ。
俺が荷物を持ちキザキとユキナが後ろを歩く。
王都は今日も人で賑わっている。
露店の店主も大声で呼び込みをしており活気がすごい。
「王都はいつもこうなんですか?」
俺が聞くと
「そうだな。王都はいつもこんな感じだな。驚いたか?」
ユキナが頷いている。
「お祭りみたいですね!」
そう言いながら露店を覗いている。
「時間が余ったらあとで寄るか。」
キザキが言うとユキナは嬉しそうに微笑んだ。
それから暫く歩くと大きな館が見えてきた。
「あそこが私の知り合いの貴族の家だ。」
キザキの商館も大きいがここはそれ以上に大きい。
庭が綺麗に手入れされており、品があるように感じた。
「こんな庭の手入れさせて貰えたら楽しそうだな…。」
ユキナが呟いた。
大変そうだがやり甲斐はありそうだ。
キザキが正面扉の前でノックをすると大柄な男が出てきた。
「久しぶりだな、キザキ!」
大柄な男は笑顔でキザキの肩を叩く。
「お久しぶりです。ルーベル様。肩が痛いです…。」
キザキが苦笑いを浮かべる。
「よく来たな!早速上がってくれ。」
キザキが俺とユキナを見た。
「その者たちは?」
「我が商館の奴隷です。名は男がレビン、女がユキナと申します。」
俺たちが頭を下げると
「レビンとユキナか!さぁ、全員早く上がれ!」
俺たちは応接室に案内された。
「座ってくれ。」
ルーベルはどしんと音が鳴りそうな勢いで座った。
キザキが正面に座り俺とユキナが後ろに立っていると
「レビン、ユキナ。お前たちも座れ。」
ルーベルが言った。
俺とユキナが戸惑っているとキザキが座るよう促す。
「意外か?」
ルーベルが聞いてきた。
キザキの様子を伺うとキザキは黙って頷いた。
「はい…。王都では奴隷差別が激しいと聞いておりましたので…。」
「はっは!確かに王都の奴隷差別は酷いもんな。だが儂は気にしていない!なんせ俺も平民の出だからな!」
「そうなんですか?」
「おうよ!儂は戦場で戦果を出して貴族まで上がったんだ。正直貴族の常識や振る舞いなど知らん!どちらかと言うと気に食わん奴が多くてたまらん。」
本当に嫌気が刺している顔をしている。
「実は昨日も何もしていないのにレビンとユキナが街で絡まれたみたいなんです。」
キザキが言うと
「ほんとにこの街は…。レビン、ユキナ!気にすることはないぞ。お前らは堂々としていればいいんだ。自分たちより弱い立場の者にしかでかい顔出来ない奴らなんぞ相手にするな。」
ルーベルが笑顔をこちらに向けた。
「はい、ありがとうございます。」
ユキナが深々と頭を下げる。
「おっと、忘れていた。キザキ、商品を見せてくれ。」
俺はルーベルの前に商品を広げた。
「うむ…。お前のところは本当に準備がいいな。よし、全て買おう!」
そう言うと使用人を呼んだ。
使用人は手に袋を持っており代金が入っていた。
キザキが受け取り席を立とうとすると
「キザキちょっといいか?」
真剣な顔でルベールが呼び止めた。
再びキザキは椅子に座ると小声で話し始めた。
「キザキ。王都で誘拐事件が発生しているのは知っているか?」
キザキが頷く。
ニールが言っていた話の事だ。
「実は儂もその件で調査を行っているんだ。今のところ入ってきている情報だと事件は路地裏で起こっているという事。犯人は複数人で行動している事くらいしかわかっておらん。狙われているのは路地裏の住人から一般市民までのようだ。」
「騎士団などの調査はどうなんですか?」
「一応調査は行っているようだが積極的には調べていないな。」
行方不明事件についての対応は差があるようだ。
「何故その話をされたのですか?」
キザキが聞くと
「一応注意喚起だ。レビンはともかくユキナもいるからな。用心してくれ。」
「ありがとうございます。」
キザキに続き俺とユキナも頭を下げる。
「では、キザキ、レビン、ユキナ!何かあったらすぐ相談に来るんだぞ?ではまたな!」
そう言うとルーベルは立ち上がり部屋の扉を開けた。
俺たちもあとに続きそのまま屋敷から出た。
次に奴隷商館に向かって歩いている途中で俺は口を開いた。
「意外でした。」
「ルーベル様か?あの人は特別だ。」
笑いながらキザキが言う。
「自分でも言っていたが平民から貴族に成り上がった方だからな。正直貴族の間では嫌われているのだが会って分かったと思うがなかなかの人格者だ。」
そんな人脈を持っているキザキは何者なのかも気になった。
「昔ルーベル様に助けて貰ったことがあってな。それからできるだけ力になりたいと考えているんだ。」
少なくともキザキはルーベルを強く信頼しているようだ。
「いい関係ですね!」
ユキナが笑顔でキザキに言った。
キザキも嬉しそうに笑顔を向けた。
しばらく歩くと奴隷商館に到着した。
キザキがドアを開けると
「あ!!」
中から聞き覚えのある声が聞こえた。
中を覗くと昨日絡んできた男が立っていた。
「昨日の…。」
俺が呟くと舌打ちをして男は出て行った。
「あれが昨日絡んできたという男か?」
「そうです。」
キザキの質問に俺が答えた。
その時奥から小太りの男が出てきた。
「ようこそキザキさん!」
男はキザキの手を握って挨拶をした。
「この者たちは?」
男は俺たちの方を見て言った。
「うちの奴隷のレビンとユキナだ。」
俺たちが頭を下げると興味無さそうにキザキに視線を戻した。
「お久しぶりですね!新しい商売を始めたみたいで!」
レンタル奴隷の事だろう。
「それより今出て行った者は誰ですか?」
キザキが聞くと
「うちの従業員です。」
男はそう答えた。
他にも女性の奴隷が忙しそうに家事を行っている。
そういえば庭の手入れも子供の奴隷が行っていた。
なるほど…。ここで働いているのか。
その後王都の話などをしばらくして帰る間際にキザキが男に聞いた。
「ところで王都で誘拐事件が起きているのを知っているか?」
「はい。騎士団なども調査に出ているみたいですね。」
「さっきルーベル様からも聞いたのだが何か情報はないか?」
「さっぱりですね。先日も事件が起こったらしいですが酷い話ですよね…。女子供を狙うような卑劣なやつら早く掴まってほしいですね!」
そのまま奴隷商館を出て宿屋へ向かった。
「さっきの方は何というのですか?」
「あいつはモーテ。最近王都に来た奴隷商人だ。奴隷商人の癖に奴隷差別の強い奴なんだ。」
キザキとはかなり違うようだ。
帰りの途中に露店に寄って店を見て回った。
ある店の前でユキナが何かを見ていた。
「どうしたんですか?」
俺が声をかけると慌ててユキナがこちらを向いた。
「あ、綺麗だなーって思って。」
露店を見るとペンダントが並んでいた。
ユキナの視線を追うとかわいいリボンが付いたペンダントがあった。
「行きましょう!」
ユキナが歩き始めた。
あとに着いて歩きだそうとするとキザキに肩を掴まれた。
「これで買え。」
銀貨を渡された。
「でも俺借金までしてるのに…。」
「いいから。ユキナを喜ばせてやれ。」
そう言いキザキはユキナの横に並んだ。
キザキさんは神様かなんかなのか?
俺は本気で思いながらペンダントを購入しポケットに入れた。
その後宿屋に戻り各自部屋に戻った。
俺はユキナの部屋を訪ねた。
「はい?」
ユキナがひょっこり顔を出す。
「あの…。これ…。」
俺はペンダントをユキナに渡した。
「え?これ…。いいんですか?」
「はい、ユキナさんに似合うと思いますので…。キザキさんが気を利かせてくれたお陰です。」
ユキナは大事そうにペンダントを握りしめ満面の笑顔をこちらを見た。
「ありがとうございます!大切にします!」
このユキナの笑顔が見られただけで幸せを感じた。
「ちょっとすまない。」
キザキの声で我に返った。
「キ、キザキさん?」
俺が振り向くと
「すまないが頼まれ事を受けてくれないか?」
その日の夜、俺はキザキに頼まれモーテの奴隷商館に向かっていた。
渡し忘れた物があるということで袋を渡され運んでいる途中だ。
昼間はあんなに賑わっていた王都も夜は静かなものだ。
行方不明事件もあるので余計なのだろう。
「キャーーーーー!」
突然悲鳴が聞こえ振り向くと路地裏から大きな音がする。
走って向かうと複数の黒ずくめが女性3人を襲っていた。
俺は素早く黒ずくめに近づき、腹を全力で殴った。
「ぐぅ…」
呻き声をあげ一人倒れた。
黒ずくめ達はこちらを見て一斉に襲い掛かってきた。
「逃げろ!」
俺が声をあげると女性たちは大通りに向かって逃げて行った。
俺はキザキから渡されていた真剣を抜き構えた。
男たちも抜刀しこちらに襲い掛かってくる。
一人の攻撃をかいくぐり足払いで体勢を崩すと後ろの二人に向かって剣を振った。
一人の腕が飛んだ。
「ひぃ…」
もう一人が逃げようとしたのでふくらはぎに剣を振り下ろし動けなくした。
最初に殴った黒ずくめが逃げようとしたので倒れている黒ずくめのナイフを奪い投げつけた。
「ぐぅあ…。」
ナイフは肩に刺さったが煙幕を張りそのまま逃げて行った。
3人をロープで縛り大通りまで連れ出した。
「何をしている?」
ちょうど騎士団の巡回が通りかかった。
「お前…。なんだそれは?何があった?」
事情を説明すると兵士は訝し気な顔で首輪を見た。
「お前…奴隷か?奴隷の分際で…。本当の事を言ってるのか?」
やはり信用は無いらしい。
「本当です!」
そこに先ほどの女性たちが現れた。
「私たちが襲われているところを助けてくれたんです!」
女性たちの証言を聞いても兵士は信用していないようだ…。
「そいつらは騎士団で預かる。お前も来い!」
そう言われ俺は兵士たちについて行こうとした。
「待て!」
そこにルーベルが現れた。
「ル、ルーベル様!何故このようなところに?」
ルーベルは怒りの表情を浮かべている。
「所要だ。それよりもお前たちは何をしようとしている?」
「わ、我々はこの男の証言が正しいものか確認するために騎士団まで同行を依頼したところです。」
「この者はわしの知り合いだ!捕らえた連中もここにいるのだから尋問すればいいだろう。」
「し、しかし奴隷の言うことなど…」
「わしの知り合いを侮辱するのか?」
「と、とんでもありません。」
「ここは儂が預かる。お前らは帰れ!」
ルーベルの一喝により騎士団は帰って行った。
「そなたらも帰りなさい。女性だけで夜行動するもんじゃないぞ。」
昼間見たルーベルの笑顔に戻っており自分の護衛を女性につけ帰宅させた。
「それで何があったんだ?」
改めて俺はルーベルに事情を説明した。
「なるほど…。では一人逃げられたという事だな?」
「はい、すみません。」
「よい、それよりよく一人で何とかしたな…」
感心した表情で黒ずくめを見下ろしている。
「夢中だったので。」
「お前には何か強い潜在能力があるのかもしれないな。」
そう言いルーベルは部下に指示を出し始めた。
「こいつらは儂が預かる。よいな?」
「はい。」
「感謝する。」
そう言うとルーベルは屋敷へ向かった。
俺は念の為宿屋に戻りキザキに事情を話した。
「大変だったな。ご苦労だった。」
キザキは暫く考えこんだ後に
「明日俺に付き合ってくれ。ユキナも連れて行く。」
「わかりました。」
そう言い部屋へ戻った。
ベッドに寝転がると先ほどの戦闘を思い出した。
初めて真剣で人を切った。
死んではいないだろうが手に感触が残っている。
気持ち悪い…。
そんなことを考えていると急に疲労が押し寄せそのまま眠りについた。
翌日宿屋のロビーに行くとすでにキザキとユキナがいた。
「おはようございます。」
俺が挨拶するとユキナが頭を下げた。
キザキは何かしていた。
「キザキさん何をしてるんですか?」
「ちょっと鳥を飛ばすから待っててくれ。」
鳥を飛ばすとはアイテムで鳥を支配し手紙などを運ばせることだ。
「よし、行くぞ。」
宿屋を出てしばらく歩いたところでユキナがキザキに聞いた。
「キザキ様、今日はどちらへ行かれるんですか?」
「ちょっとな。」
キザキが濁した。
キザキにしては珍しい反応に俺とユキナは目を合わせた。
ふとユキナの首元に視線を落とすと昨日のペンダントが光っていた。
「付けてくれてくれたんですね。嬉しいです。」
俺が言うと
「こちらこそ本当にありがとうございます!大切にします!」
満面の笑顔で応えてくれた。
そのままキザキの後をついていくと見覚えのある景色が広がった。
「ここは…。」
「そう、モーテの商館だ。ちょっと用事が出来てな。」
俺たちはキザキについて門を通った。
キザキがノックすると苛立った声で返事が返ってきた。
「誰だ!この忙しいときに…。」
モーテが顔を出した。
「おはようモーテ。忙しそうだな。」
「キザキ…さん!おはようございます。本日はどういったご用件で?」
「何、世間話でもと思ってな。」
「ちょっと今立て込んでおりまして…明日でもよろしいですか?」
「何すぐ用事は済む。」
キザキは屋敷に上がっていった。
俺たちもついていこうとすると
「奴隷が勝手に上がるな!」
モーテが怒鳴った。
「うちの者が何かしたか?」
「あ、いえ…。おい、早く上がれ!」
舌打ちをしながらモーテは言った。
しかしキザキがこんな礼を欠いて強引に行動するのは珍しい。
キザキは応接室に入り椅子に座った。
モーテが正面に座り俺とユキナはキザキの後ろに立っていた。
「それで…なんでしょう?」
明らかにモーテは苛立っている様子だ。
「何大したことないんだが、最近商売は順調か?」
「は?」
あまりにも大雑把な質問に俺とユキナも顔を見合わせた。
「あの…。どういう意味でしょうか?」
モーテがキザキに聞いた。
「何そのままの意味だ。」
「まぁ…ぼちぼちですね…。」
訝し気な顔のモーテ。
キザキの真意を図っているようだ。
「昨日も気になったんだが商館の中のメイドが全て奴隷で女性と子供ばかりだな。」
「はぁ。それが?」
「男の奴隷は少ないのか?」
「まぁ比率で言えば今は女が多いですね。」
「どこから売られてきたのか?」
「どこからと言われましても…それは言えません。」
明らかにモーテは動揺を浮かべた。
「時にな…。モーテ、お前は昨日私に言ったな?『女子供を狙うような卑劣なやつら早く掴まってほしい』と…。」
「そ、それが何か?」
「何でお前が被害者が女子供だと知っているんだ?ルーベル様ですら知らない情報だぞ?」
「そ、それは…。」
「お前…。何か知っているなら話せ。」
キザキの目が一気に鋭くなった。
「ちっ!」
モーテが外に向かって走り出した。
「レビン!追え!」
キザキの指示で俺はモーテを追った。
商館の庭でモーテに追いついた。
「待て!」
俺が抑えようとするとヒュッと風を切る音が聞こえた。
反射的に身を引くと剣が目の前を通った。
「貴様か!」
剣を振ってきた男は街で因縁をつけてきた男だった。
俺も剣を抜き構えた。
「おい、切ってしまえ。中にあと二人いるからまとめて切るんだ!」
モーテが叫ぶ。
俺が剣を振ると相手が受け止めた。
「ぐぅ…。」
相手が呻き声をあげた。
剣同士が当たっただけでダメージは無いはずだが…。
はっと気づいた。
そうかこいつ。
俺はわざと相手の剣を下に弾き、拳で相手の方を殴った。
「ぐあ!」
相手は後ろによろめき肩を抑えて蹲った。
「お前…昨日の…。」
そう、昨日の黒ずくめの一人だ。
俺が投げたナイフがこいつに当たったようだ。
男を抑えつけたがそのままモーテが逃げた。
くぅ、こいつを放っておくとキザキ達へ攻撃しかねない。
逃げられると思ったその時モーテの前に巨大な人影が現れぶつかってモーテは倒れた。
「く、くそ!誰だ?」
そこにはルーベルが立っていた。
「そんなに急いでどこにいくんだモーテ?」
「ル、ルーベル様」
そう言うとモーテは膝から崩れて座ってしまった。
「お前の屋敷を借りるぞ。」
そう言ってモーテを軽々担いで屋敷に向かった。
俺も負傷した男を抱え屋敷に連れて行った。
「突然の連絡すみませんでした。ルーベル様。」
「何構わん。それよりよくこいつが怪しいと気づいたな。」
「昨日こちらに来た際、モーテの言葉が気になったのと昨日のレビンが戦闘を行った相手が気になりまして。」
「さすがだな。こっちも昨日連れて帰った3人組がさっきようやく吐いたところだ。」
なるほど。
「あの…。どういうことでしょうか?」
ユキナが訊ねてきた。
「王都で起こっていた行方不明事件にモーテが関わっていたということです。前に一緒にいるとき絡まれた相手が実働部隊って感じですね。」
「え?そうなんですか?」
ユキナは驚いた表情を浮かべた。
「では、話を聞こうか。」
モーテの正面にルーベルが立った。
モーテは渋々話し始めた。
自分の戦闘要員の奴隷を使って路地裏で誘拐をさせていたこと、誘拐した人を奴隷の首輪で自由を奪い自分の商館で働かせたり足がつかないように知り合いの奴隷商に売って王都外で売っていたらしい。
「では、騎士団を呼びましょうか?」
俺は言うと、
「いや、儂が預かる。こいつにはもっと聞きたいことがある。」
その時、負傷した男が突然立ち上がりユキナに向かって走り出した。
「ユキナさん!」
俺が飛びついてユキナを突き飛ばした。
ギリギリユキナに剣は届かなかった。
しかし俺の腕に剣が掠った。
俺は手を抑え少し動かしてみた。
多少切れてはいるものの問題無さそうだ。
俺はそのまま男の頭を地面に叩きつけた。
「ぐぅ…。」
男は身動きが取れず大人しくなった。
男の剣を届かないところに蹴り飛ばした。
「大丈夫ですか?ユキ…ナ…さん?」
その時後ろからとてつもない殺気を感じた。
後ろを振り返るとユキナが見たこともない表情で立っていた。
「よ…よくも…。」
その手には俺がユキナにプレゼントしたペンダントのチェーンが切れていたものを持っていた。
さっきの男の剣がペンダントに掠ったらしい。
「レビンさんから貰ったのに…。よくもやったな!」
ユキナはいつもからは想像できないスピードで男に向かって拳を振るった。
「よくもよくもよくもー!」
ユキナの猛攻が止まらない。
全員ポカーンと固まっていた。
はっと俺は正気に戻りユキナを羽交い絞めにした。
「ユ、ユキナさん!死んじゃう!ほんとに死んじゃう!」
そこではっとユキナは正気に戻り、
「レビンさん…ごめんなさい。ペンダントが…。」
涙をこぼしながらペンダントを握りしめる。
「キザキさん、すみませんが…。」
「わ、わかった。あとで修理に行こう。」
「女性なのに豪胆だな!わっはっは!」
ルーベルが大笑いしている。
その後ルーベルの部下によりモーテと男は拘束され連れて行かれた。
キザキがルーベルの横に行き呟いた。
「これで終わったと思いますか?」
「お前もわかっているだろう。モーテみたいな小者がこんな大それたこと一人で出来るはずはない。」
「そうですね。では裏で動いている者がいると?」
「ああ、恐らく間違いない。昨日レビンがやつらの手下を撃退したときたまたま騎士団が巡回に来たらしいんだが手下とレビンを騎士団へ連れていこうとしたのも気になる。」
「なるほど。まだまだ闇は深そうですね。」
「まぁ一つひとつやっていくさ!今回は本当助かった。礼を言う。」
「勿体ないお言葉です。これからも密に連絡は取りあいましょう。」
「そうだな。ではまたな!」
ルーベルたちは屋敷へ帰って行った。
「では、私たちも帰るぞ。本当にご苦労だったな。」
「とんでもないです。」
俺たちが頭を下げる。
「そうだ。ペンダントを修理してからだな!」
キザキが笑いながら言うとユキナは真っ赤な顔をしていた。
あれから馬車で商館まで帰った。
キザキは俺とユキナに今回のことは他言無用と念を押した。
俺たちは頷き商館に入った。
「おかえりなさいませ。」
ニールが出迎えてくれた。
「ただいま。変わりはないか?」
「はい、ただレビンさんに興味があるというお客様がいらっしゃったのですが不在という旨を伝えたらまた来るとの事でした。」
「そうか。遂に買い手が見つかったかもな。」
正直この商館での生活に慣れてきたので複雑である。
ユキナも思い詰めた顔をしている。
「仕方ないですね。奴隷ですもんね。」
俺はキザキに笑顔を向けた。
しかしどんな人が来たんだろう…。
まぁ、まだ今はここが俺の家だ。
そう思いながら商館に入った。