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俺の名は!!

武器屋での依頼は無事こなしたがその後のトラブルにより更なる借金を背負った俺…。

今回は新しい事をキザキが考えているらしく俺はまた新たな経験を重ねることになる。

奴隷で借金マシマシな俺はいつになったらしがらみから解放されるのだろうか…?!

 武器屋での一件から数日後、キザキ奴隷商館の全員がロビーに集められた。

キザキが改まった様子で皆の前に立つ。

この商館に来てからこんな事は初めてだ。

「この商館で新しい商売を始めることにした。その名も『レンタル奴隷』だ。」

集まった全員の奴隷がざわつく。

「奴隷を買うのに抵抗があったり、買うほどではないが手が足りないという人もいるからな。そこで奴隷の首輪の権限を一時的に顧客に貸し与えるシステムだ。」

このシステムの流れはこうだ。

キザキと顧客によりレンタルを行うに当たりどのような利用をするか確認し、問題なければ契約書を作成し契約を行う。

任命された奴隷の首輪の契約をキザキから顧客へ移行する。

ただし、あくまで顧客と奴隷の契約は仮契約であり期限が来たり、顧客が死亡した場合は奴隷の契約はキザキへ戻るというシステムだ。

顧客は買うよりも安く目的を果たすことができ、商館としても売るよりも継続的な収入が期待できる。

もちろん奴隷の売買は継続して行う。

「面白いですね。これなら商館でやることが無く無駄にする時間もかなり減るでしょうし。」

キザキ商館は王国でも奴隷の扱いがダントツで良いと評判であり奴隷なのに健康状態が良く、戦闘訓練や家事・掃除・礼儀などの教育も行き届いている。

それゆえ、値段も高いので簡単に買えるものでもない。

そこで今回の『レンタル奴隷』をすることにより顧客としては実際奴隷を使いその有用性を実感してもらいあわよくば販売に繋げられればという意図があるようだ。

今までは俺たちみたいな戦闘要員は護衛だったり戦闘要員としてキザキが信用している相手には手伝いとして派遣されたことがあったが、非戦闘要員は商館での作業しか行っていなかった。

奴隷も実際の経験を積めるいい機会だ。

「ということで今後依頼などもあると思うので各自準備しておくように。」

そう言ってその場は解散となった。

「急ですけどちょっと面白そうですね!」

ユキナが声を掛けてきた。

「そうですね。キザキさんもしっかりしてる人だからキザキさんが契約をしてくれるのなら安心感ありますし。」

ユキナが大きく頷く。

ユキナは非戦闘員なので主に家事は当然できるがさらに庭の手入れや畑仕事なども行える。

今回のシステムで活躍するのではないかと思う。

その後すぐにキザキは人脈を使い『レンタル奴隷』を町中に広めた。

 数日後、俺はキザキに呼ばれ応接室に向かった。

ノックして部屋に入るとそこにはキザキともう一人男が座っていた。

「こっちに来てくれ。」

キザキに呼ばれキザキの後ろに立つ。

「お客様の要望ですとこの奴隷が適任かと思います。」

スキンヘッドの男がこっちを見る。

男は30代半ばで鉄の鎧を着ており帯刀している。

「わかった。キザキさんが言うならこの男で頼む。」

「では、契約書を作成するので明日また商館までお越しください。」

男は立ち上がり部屋を出て行った。

「レンタル奴隷の案件ですか?」

俺が聞くと

「そうだ。さっきの男はエディスと言って西の都市ヒデンで冒険者をやっている。先日ダンジョンで仲間の一人を失ったらしい。しかしギルドからの依頼の途中なので緊急で仲間を集める必要があるらしい。」

「ということはダンジョンに行くっていうことですね?」

「そうだ。」

キザキは答えた。

先日の武器屋の依頼で街の外に出たことはあったがダンジョンに行くのはもちろん初めてだ。

鉱山では出会わなかったモンスターとの戦闘も避けられないだろう。

正直緊張する…。

「装備は商館にあるものを使って準備しろ。早速明日行ってもらうからな。」

「わかりました…。」

部屋を出るとそこにはユキナがいた。

「レンタル奴隷で呼ばれたんですか?」

「そうです。明日ダンジョンに行くことになりました。」

「ダンジョン?!」

ユキナが驚いた顔を浮かべる。

「あなたが強いのはここに来てからを見て知ってますが…心配です。」

俯いて不安そうな顔をするユキナ。

「正直不安ですけど仕方ないですね。商館の武器を使っていいという事なので出来るだけがんばります!」

ユキナの不安を払拭しようと明るく答える。

「本当に無理はしないでくださいね?」

「ありがとうございます。」

そう言ってユキナと別れた。

本当に優しくていい娘だな…。

そんな事を考えながら準備を行った。

翌日、朝エディスが商館を訪れた。

「では、借りていきます。」

エディスが言うとキザキは俺の首に手を当てた。

首輪の宝石が発光し赤から紫に変った。

これで所有者がエディスに変更されたらしい。

エディスについて商館を出ると

「話は聞いていると思うが俺はエディス、よろしく。」

こちらを振り向いて挨拶をした。

「よろしくお願いします。」

これからヒデンの街の出口でパーティーメンバーと合流してダンジョンに向かうらしい。

エディスたちはギルドの依頼でダンジョンの指定モンスター討伐に向かったが想定したより多いモンスターの襲撃を受け仲間を一人失い何とか脱出したらしい。

ダンジョンは慎重な行動が求められる。

何よりも生き残ることが大事だ。

今回初めてのダンジョンなのでその後もダンジョンについて話を聞きながら集合場所へ向かった。

ヒデンの街の出口に着くと数人の冒険者らしき人が立っていた。

「エディス!」

こちらに向かって声をかけてきた。

エディスのパーティーらしい。

メンバーは索敵職のピート、男性で小柄だがスピード自慢。

ヒーラーのエミリ、女性で回復はもちろん支援魔法が得意としている。

アタッカーのエディス、攻撃・防御のバランスが良く前衛を張っている。

亡くなったもう一人も前衛だったらしい。

今回俺はエディスと一緒に前衛を任されることになった。

「今回俺と一緒に前衛を任せるが決して無理はするなよ?慣れた冒険者でも命を簡単に落とすのがダンジョンだからな。」

「わかりました。」

俺は答えダンジョンへと向かった。

向かう途中、ピートとエミリとも話したが前回のダンジョンでの出来事が残っているのか緊張した面持ちである。

「やっぱりモンスターの急襲は酷かったんですか?」

「本当に強烈だった…。俺のスキルで来るのはわかっていたんだけどどうにもならなかったんだ…。」

ピートは悔しそうに言う。

「あれは仕方ありませんよ。全滅しなかっただけでもよかったです。」

エミリも言う。

相当苛烈だったよだ…。

改めて気を引き締めた。

 ダンジョンに着くと入口前でエディスが

「ダンジョン内ではピートを先頭に行くぞ。くれぐれも前に出過ぎないように。」

「わかりました。」

俺は答えた。

中に入ると内部は薄暗く視界が悪い。

ニールのようにライトを使える者がいないのでピートがアイテムで明かりを点ける。

通路は広くゴツゴツした岩で覆われている。

奥に進むと道が分かれておりピートが迷わず進んでいく。

前回来たときに行ったとこまでは地図を作っていたらしい。

俺がキョロキョロしていると

「大丈夫?」

エミリが声をかけてくれた。

「は、はい。初めてなので…。」

俺が答えると

「はっは!物珍しいよな!わかるよ。」

エディスが声を上げて笑う。

「不気味だよな…。でもあまり緊張し過ぎるといざという時動けないからな。」

たしかに…。

そんな話をしていると

「しぃー!来るぞ。」

ピートが声をあげた。

視界を正面に戻すとそこには見慣れない生き物がいた。

「ゴブリンだな…。」

これがゴブリンか…

初級冒険者が戦闘訓練でよく戦うモンスターだ。

強さは無いがずる賢く団体行動をするモンスターで熊なども狩ることがあるらしい。

決して油断できないモンスターである。

「数は4体…だな。」

ピートが呟く。

「行くぞ。」

エディスの号令で俺は前に出る。

不意をついたお陰で目の前の1体を俺が倒した。

エディスが続き2体をあっさりと倒し逃げようとした1体をピートが回り込み短剣で首を切り全滅させた。

さすが長い付き合いの冒険者パーティー。

鮮やかな連携だ。

「お前も初めてなのにやるな!」

エディスが俺の肩を叩き笑顔を向ける。

「これなら問題無さそうね!」

エミリも笑顔を向けてきた。

「よし、このまま向かうぞ!」

エディスの合図でパーティーは奥へ向かった。

 パーティーは順調にダンジョンを進み目的のモンスターが生息する場所に着いた。

「ここだ…。」

エディスが緊張した面持ちで言った。

パーティー全員に緊張が走る。

前回は目的のモンスターに遭遇したものの他のモンスターが途中で急襲したせいで敗走したとの事だ。

今回はまず周囲の確認を行うことにした。

エディスとピートが周囲の確認を行う。

「エミリさん大丈夫ですか?」

俺が声をかけるとビクっと体を震わせる。

「だ、大丈夫です…。」

エミリが無理に笑顔を作ってこちらを見る。

「ターゲットは前回どうだったんですか?」

「つ、強かったです…。」

俺は少し周囲は確認するために歩くとエミリは黙って付いてきた。

そこにエディス達が戻ってきた。

「どうやらモンスターは周囲にいないな。いくぞ。」

奥へ進むと開けた部屋があった。

「あれ?」

ピートが驚いた顔で言った。

そこにはモンスターはいなかった。

「どういうことだ?」

エディスも戸惑っている。

そのまま全員で奥へ行くと更に奥に続く道があった。

恐る恐る全員で向かうとそこには箱が置いてあった。

ダンジョンにはどういう理由があるのかわからないが稀に宝箱があるらしい。

そこには中々手に入らない資源や財宝が入っていたりするとの事だ。

ピートが箱に触れて何かを確認している。

「トラップは無いみたい…。」

そう言うと箱を開けた。

エディス達は驚いた顔で中身を確認し喜んでいる。

俺にはわからないが価値のある物が入っていたらしい。

俺は周辺を見て回っていた。

今完全にパーティは油断しているので急襲に備えて警戒したほうがいいだろう。

周囲を歩いていると小さな通路があった。

覗くとすぐに行き止まりになっており何もない。

「行き止まりか…」

その時後ろから強い衝撃を受けた。

振り返るとそこにはエディス達がおり、どうやら押されたらしい。

行き止まりの通路に倒れ込むと地面に穴が空き俺はそのまま落下した。

「う、うわーーーーー!」

 気付くと俺は倒れていた。

「ここは…。」

体中に激痛が走る。

そうか、俺はエディス達に突き落とされて下の階に落ちたのか…。

「ぐぅ…。」

痛みを堪えて立ち上がって周囲を見た。

薄暗いが少しは見える。

周囲にモンスターはいないようだ。

簡単な手当てをして周囲を探索することにした。

初めてのダンジョンで一人…。

想像以上に恐怖を感じる。

モンスターの集団などに遭っては目も当てられない。

自分がどこにいるかもわからない。

小石を拾い一定距離毎に地面に置きながら歩いた。

一応迷わないよう考えたのだがあまり当てにならないだろう。

どこへ進めばいいかもわからず少しずつ進むとモンスターが視界に入った。

狼のような姿をしており数匹いる。

「…無理だな。」

俺は後ろに下がり来た道を戻った。

また別の道を行きモンスターがいると戻り別の道へという行動を繰り返していると一際大きな空洞に到達した。

警戒しながら中を覗き込んだ。

「誰だ?」

見つかった!

逃げるか?

「そこにいるのはわかっている。出てこい。」

俺は観念して空洞に入った。

そこには鎧を着た大柄な何かが椅子に座っていた。

「人間か?」

俺は頷いた。

「こんなことろまで来るとは。しかも一人で。お前は何者だ?」

「俺は…。」

「まぁいい…。一人でここまで来れる人間がいるとは思わなかった。」

そういうと鎧を着た何かはこちらに向かって剣を構えた。

「私は魔王軍四天王が一人、メディウス!このダンジョンの守護を任されている!いずれはお前らの王国を滅ぼす者だ。貴様も名乗るがいい。」

「俺は…。」

ん?

あれ?

「俺は…?」

「…?」

メディウスは不思議そうな声で

「なんだ。名乗らないのか?」

「いや…。俺は…。名前がない…。」

「何?」

いや、俺も驚いている。

もう4話目に突入しているのに自分の名前がわからない事に気がついた。

そういえば記憶喪失でキザキに売られて…。

「名乗る名など無いということか?」

「いや、そうでなく…。」

事情をメディウスに話した。

「それは…本当なのか…?」

「はい…。」

俺は力無く答えた。

「そ、そうか…。そういうこともあるよな…。」

メディウスは気を使ってくれているのが悲しい。

「では一人でここまで来たのは…?」

恐る恐るメディウスが声をかけてくる。

最早ただの可哀そうな人扱いだ…。

俺は事情を話した。

記憶喪失で奴隷として売られた事、今回冒険者パーティーと来たが裏切られた事。

「……。」

メディウスは黙って聞いてくれていた。

「それでここまで来た…。」

俺が言うとメディウスは

「私が言うのもなんだが…あれだな…。人間というのは恐ろしいな…。」

ただ悲しい…

「もうわかった。ならば私が指示を出してモンスターには攻撃させないからダンジョンから出ろ。」

「え?」

「あまりにも不憫だ…。今回は無かった事にしてやるから出ていけ。」

そういうとメディウスは合図を出した。

「これでモンスターがお前を襲うことは無い。行け。」

「あ、ありがとう…ございます。」

 その後俺はダンジョンから出た。

メディウスの言う通りモンスターに襲われることはなかった。

完全に同情と哀れみにより救われた…。

魔王軍の幹部に…。

その足で街に戻りキザキの奴隷商館に戻った。

「無事だったの?」

ユキナが驚きの表情で立っていた。

「何とか…。」

俺が答えると涙を流して抱き着いてきた。

「よかった…。ダンジョンで死んだって聞いて…。」

「誰に聞いたんだ?」

俺が聞くと

「今丁度エディスさんたちがキザキ様と話しています。」

ユキナが言い切るか切らないかで俺は走りだした。

応接室の扉を開けるとキザキがエディス達一行と話をしているところだった。

「お、お前?!馬鹿な?」

エディスが驚いた顔でこちらを見ている。

俺はキザキの後ろに立ち3人を見た。

「これはどういう事なんですか?」

キザキが聞くと3人は黙って目を逸らした。

「はぁー…。」

キザキがため息をつき俺の首輪に手を当てた。

紫色だった宝石が赤に戻る。

「これで契約終了です。」

その言葉を聞いた俺は椅子を飛び越えた。

エディスは剣を抜こうとしたが抜く前に殴り倒した。

逃げようとしたピートもすぐに捕まえ壁に叩きつけ気絶させた。

「ゆ、許して。」

エミリが許しを請うがユキナの全力のビンタにより腰を抜かして座り込んでしまった。

俺は3人を縛りあげた。

騎士団に引き渡す前にキザキが事情を聞くと今回の依頼ダンジョンで見つけた宝に関してその3割は商館に渡すという内容だったらしく俺が死ねば宝を見つけたという事は内緒にしておこうというしょうもない話だった。

くっそが…。

内心怒りが収まらない。

「今回はすまなかったな…。」

「いえ、悪いのはあいつらですから…。」

「だがよくダンジョンから無事に帰って来れたな…。」

「…実は。」

キザキとユキナにダンジョンで魔王軍四天王に遭った事を話した。

そして名前が無い事…、同情しダンジョンから出してもらったこと…。

「つ…つまり名前が無かったことから…脱出できたと…?」

キザキは笑いを堪えながら聞いてきた。

「…はい。」

キザキとユキナが吹き出した。

「はははっ!そんな奴世界でもお前だけだろ!」

キザキが涙を流して笑っている。

ユキナも下を向きながら必死に笑いを堪えている。

「わ、わかった。お前の名前はレビンだ!憐憫(れんびん)が最も似合う男だ!」

ユキナも完全に吹き出して笑っている。

 翌日、俺は部屋にいた。

今日は特に予定は無いので戦闘訓練を行う予定だ。

またダンジョン探索などの依頼があるかもしれない。

俺はまだまだ無力だ。

戦える力…一人でもダンジョンで生き残る力が欲しい…。

トントン。

ドアを開けるとユキナが立っていた。

「レ…レビン…さん…。キザキさんがお…お呼びです…。」

下を向いて肩を震わせている。

「わ、わかりました…。」

俺は答え一旦ドアを閉めた。

そのままの勢いで窓を全力で開け叫んだ!

「れんびーーーーーーーーーーーーーーーん!!」

この物語はまだまだ続く。

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