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商館での暮らし

規則喪失で路地裏に立っていた僕。

記憶喪失で何もわからない僕の前に現れたハジメという男に騙され奴隷商に売られてしまった。

奴隷商の名前はキザキ。

キザキの商館で生活することになった僕はこれからどうなるんだろうか…。

 僕がハジメに奴隷として売られてから半月が経った。

その間俺はキザキに色々な事を教わった。

この世界は魔王軍の侵攻を受けていること、今いるところはリューカス王国という場所で大きく4つの都市に分かれている。

国の北にキシオナ、南にミヅキ、東にミギワナ、西にヒデンという都市があり中心に王都がある。

リューカス王国は魔法が付与された城壁に囲まれており魔王軍の侵入を食い止めている。

城壁を出ると東西南北に魔王軍四天王が管理していると言われるダンジョンがあり冒険者が攻略を目指しているが未だに一つのダンジョンもクリアされていない状況だ。

王国には騎士団があり、王都を含めた各都市の治安維持、城壁外の異常有無を確認するパトロールなどが行われており王国の平和は維持されている。

しかし、いつ魔王軍の侵攻が進むかわからない状況なので人々は勇者の誕生を願っている。

そんな王国で奴隷となった最初僕はキザキさんの元で屋敷の清掃や料理などを教わり日々を過ごしていた。

しかし、すぐに僕に戦闘適正があることがわかりキザキさんの方針で戦闘訓練も行った。

この奴隷商館には現在戦闘適正がある者が10名、戦闘適正の無い主に生活の補助を行う者が4名いるらしい。

今日も戦闘適正のある者は訓練を行っている。

「お疲れ!ここの生活に慣れてきたか?」

声を掛けてきたのはテクスという同じ戦闘適正のある奴隷だ。

「ぼちぼちかな…。」

俺は答えた。

「まぁ、俺たちも買い手が見つかるまではここでの生活を送るんだ。幸い今のところ無理難題も少ないからお互いいい買い手に恵まれることを祈ろうぜ!」

そう言うとテクスは自分の部屋へ戻って行った。

本当に前向きでいい奴だな…。

俺も部屋へ戻ることにした。

「お、お疲れ様で…す。」

廊下で声を掛けられ振り向くとそこには小柄な女性が洗濯物を持って立っていた。

「ユキナさん!こんにちわ。」

挨拶をするとユキナは笑顔になり会釈をして廊下の奥に歩いて行った。

ユキナは赤毛のロングヘアで目のパッチリした可愛らしい女性だ。

非戦闘員の奴隷で家事全般や庭の手入れなど幅広く仕事をしている。

更にキザキからの信用も厚く商館の経理作業も行っているらしい。

嫌な顔一つせず作業を行う姿に好感が持てる。

部屋に戻りベッドに寝転がるとすぐに眠気がきた。

「いつまでこの生活が続くんだろうな…。」

俺は呟きそのまま眠りに落ちた。

 翌日も戦闘訓練を行う。

戦闘訓練は基本的に戦闘員同士で木剣での訓練が行われている。

あまり大きな負傷などすると傷が残り奴隷としての価値が下がるためやり過ぎないよう念は押されている。

テクスとの立ち合いが終わり一息ついていると

「よう。今日もぬるい戦い方してんなー。」

声をかけてきたのはドリニクという男だ。

何かと俺に突っかかってくる嫌味な男である。

元冒険者らしくよく過去の冒険自慢をしている。

正直聞いていて不愉快な話も多かったので途中からあまり聞いていなかったら敵意を与えてしまったようだ。

「今日は俺と立ち合おうぜ。お前に冒険者の力みせてやるよ。」

ニヤニヤと笑いながら言ってくる。

「でも今日お前とやる予定はなかったよな?」

俺が聞くと

「びびってんのか?まぁ、お前みたいな腰抜けじゃ仕方ないか。」

大声で笑っているのを見て不快感はあったものの面倒という考えのほうが大きかった。

「じゃあお前が来い!」

ドリニクは一人の少年に声をかけた。

「ぼ、僕ですか?」

そこには先日入ったばかりの少年がいた。

「で、ですが僕は入ったばかりでまだ立ち合いの許可が出ていないのですが…」

「うるさい!新参者が意見してんじゃねーよ!いいから来い!」

恐る恐る少年が木剣を持ってドリニクのもとに向かう。

「おい、ドリニク!その子はまだ戦闘員になるかどうかも決まっていないんだ。やめとけよ!」

テクスがフォローを入れるがドリニクは無視して少年に向かって構えた。

怪我をする前に止めに入ろうと考えているとテクスも同じ考えのようで目が合いお互い頷いた。

「いくぞ!」

ドリニクが襲い掛かった。

「ひ、ひぃ!」

少年は恐怖で逃げようとした。

「逃げてんじゃねーよ!ははは!」

ドリニクの行動は完全に弱者を嬲ることを好んでやっているようにしか見えない。

ドリニクの木剣が容赦なく少年に襲い掛かる。

「も、もう勘弁してください…。」

少年が許しを請うがドリニクは更に攻撃を続けた。

異常を感じたのかユキナたち非戦闘員も様子を見に来た。

「おい、ドリニク!いい加減に…」

テクスが声を荒げた瞬間、反射的に僕は動いていた。

近くにあった木剣を拾い、ドリニクへ向かい走り出した。

こちらを振り向こうとしたドリニクの横顔に俺の木剣がさく裂する。

「ぐあ!」

声を上げてドリニクがよろめく。

僕は怒りに任せてドリニクを叩きのめした。

「お、おい!やめとけ!」

テクスが俺を羽交い絞めにして抑えたが僕の怒りは止まらない。

テクスを払いのけ更に木剣を振り上げる。

「や、やめてくれ…。助けて…。」

ドリニクがこちらを恐怖の目で見ている。

「お前はあの少年に同じことをしたんだぞ?やめてくれって言ったあの子にお前は何をした?やめなかったよな?何で自分は許されると思ってるんだ?」

「ち、違うんだ…。俺は鍛えてやろうと…」

「うるさい、黙れ。喋るな。」

俺は攻撃を続けた。

その時、突然体に電撃が走り俺は膝をついた。

「何をやっている?」

振り向くとそこにはキザキが立っていた。

「ち、違うんです。キザキさん!こいつは…。」

テクスが何か言おうとしたが、

「話は後で聞く!ドリニクの手当てを。お前は部屋に戻ってろ。」

僕はふらつく足取りで部屋に戻った。

途中ユキナとすれ違った。

「だ、大丈夫ですか?」

ユキナが声を掛けてくれた。

僕は笑顔で応えそのまま部屋に戻った。

数時間後、部屋で休んでいるとノックが鳴った。

「はい。」

返事をすると、ユキナの声がした。

「すみません。キザキ様がお呼びです。」

「わかりました。」

僕は部屋を出てキザキの部屋へ向かった。

「失礼します。」

部屋に入るとキザキとテクスが待っていた。

「座ってくれ。」

キザキの指示通り席に着く。

「話は聞いた。今回の件はお前は悪くない。ドリニクに関しては以前から態度に問題があるのはわかっていたがあそこまでとは。」

ほっとした。

どんな罰が待っているのか正直不安だった。

「そしてドリニクはあんな奴だが実力は冒険者時代の情報で知っているが確かな強さもある。それを不意打ちとはいえ一方的に倒したお前の実力は大したものだ。今回の件でそれがわかったのが一番の収穫だな。」

キザキが笑顔でこちらを向いた。

テクスも親指を立てて笑顔を向けてくれた。

今回の件、テクスのフォローも大きかったと思う。本当に感謝だ。

「ありがとうございます。」

俺はキザキに頭を下げる。

「ところで…。」

キザキが口を開いた。

「ドリニクな…。思ったより怪我が酷くてな…。」

確かに激情に駆られるまま攻撃してしまった。

「一応回復魔法と治療を行ったのだが…。かなり怪我の後遺症が残りそうなんだ。」

冷や汗が止まらない…

「そこでな。ドリニクを価値が下がった分をお前に負担してもらうことになったから…。」

「はぁ?」

「そういうことだから!今後日々の訓練に加えて街での作業を行ってもらうことにする。これは決定事項だ!」

テクスと一緒に部屋を出て廊下を歩いているとユキナが正面から歩いてきた。

「大丈夫でしたか?」

ユキナが心配そうに声をかけてくれた。

「ああ…。」

僕は放心状態で返事をした。

「実はな…。」

テクスがユキナに耳打ちする。

ユキナが引きつった笑顔でこちらを見て

「で、でも厳罰処分にならなくてよかったですね!」

元気づけてくれたユキナの温かさを感じた。

そのまま部屋に戻りベッドの上に座り頭を整理した。

暫く考えて結論が出た。

「奴隷でしかも借金…?」

………。

僕は窓に向け走り出し窓を開けた。

「ド、ドリニクーーーーーーーーーーーーーー!!!」

街に俺の声が響いた。

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