人間の疑惑・欲望~信頼とは~
宿屋に泊まった翌日、俺たちはすぐ馬車で西のダンジョンに向かった。
商館を離れ宿屋とはいえどこに国王の側近の目があるかわからない。
そもそも国王には全て話したので隠す必要もないがどういう風に情報を捻じ曲げられてしまうかわからない。
それが今回の件で恐らく昇進するルーベルへの嫉妬か、俺とユキナが勇者と巫女であることを利用する者が現れるのか…。
とにかく、一旦魔王へ状況を報告し情報共有することにした。
「キザキさん…。俺は正直国王が何を考えているかわかりません。ウルクは思った事を自分で考えて喋っているのが伝わるのですが…。」
俺は今の不安を素直に話した。
「正直俺の国王の真意はわからん。恐らく国王自身もあの報告の場ではどうするかまでは答えが出ていなかったのだろうな。」
キザキが前を向いたまま言った。
「魔王はあの強さがある故に自分の考えをはっきり言えるのだろうな。もし、共存が上手くいかず裏切られたとしてもその力で切り抜ける自信があるのだろう。国王は地位はあるが基本的にただの人だ。失敗すれば国に被害が出ることはもちろんその地位も脅かされるからな。慎重にもなるだろう。」
魔王ウルクの強さは身を持って体験したので知っている。
「ウルクは失敗した場合の魔王軍側の被害は出ないと考えているんでしょうか。」
「そうではない。被害が出ることも考慮してなお共存の価値があると考えているのだろう。」
俺が黙っていると
「共存を言い出したのはレビン、お前だ。今更考えが変わったのか?」
キザキが鋭い目でこちらを見た。
「そんなことはありません!今でも本気で魔王軍との共存を実現したいと考えています。しかし…、本音を言うと俺は魔王軍より人間のほうが信用出来ていないんです。」
キザキは黙って聞いていた。
「魔王とはまだ一回しか会っていませんが本心で話し合えたと思っています。お互いが共存するため…、会談を実現するためによりよい方法を出し合いました。でも、それを国王へ報告した際の反応は意見の出し合いなどでなくただこちらの情報を出しただけで意見なども聞けなかった。それだけでなく、俺たちに監視を付ける者まで現れる始末…。こんな状況でウルクを招くというのはあまりにも申し訳ないというか…。」
「お前の言いたいことはわかる。人間は弱い生き物だから何か確実性がないとなかなか動けんのだろう。特に立場のある方は尚更だ。」
キザキの言っていることはわかるが納得できない部分もある。
「こればかりは魔王に状況を話して出方を見るしかないな。もしかしたら魔王も気が変わっていたり、話しをしたことで考えが変わる可能性もあるからな。」
「そんなこと…。」
「ないと言い切れるか?逆に何故そこまで魔王を信用出来る?初めから全てが嘘という可能性だってあるのだぞ?」
「それは。」
確かに可能性はある…。
「これ以上ここで話し合っても想定に過ぎない事しか出んだろう。もうすぐ西のダンジョンに着く。それまでお前も休んでおけ。」
そう言うとキザキは目を閉じた。
俺はもやもやした気持ちは残っているがキザキの言うことももっともなので目を閉じて考えないようにした。
西のダンジョンに着くと入口でメディウスが待っていた。
「どうして待っているんだ?」
俺が声を掛けるとメディウスは薄く笑った。
「そんな事はどうでもいい。ウルク様がお待ちだ。」
そう言うと俺たちの近くに来て転移魔法を使った。
一瞬で景色が変わり正面にウルクの姿があった。
「お主ら…つけられおったな。」
ウルクは面倒くさそうに舌打ちをした。
メディウスが魔法で壁に映像を映した。
そこにはダンジョンの入口付近で周囲をキョロキョロしている複数の人間が確認された。
「これは…?」
俺とユキナが困惑しているとキザキがウルクに頭を下げた。
「申し訳ありません。全く気付きませんでした。」
何のことかわからず聞こうとしたがウルクは
「わざとではないのはわかっている。放っておけばよい。」
そう言い俺たちに近づいてきた。
キザキが俺とユキナに聞こえるように言った。
「恐らく我々を監視していた者たちだ。まさかここまでついてくるとは…。」
「ダンジョンの中を普通に来ていたら我の元までのルートを知られてしまうのでな。いちいち相手をするのも面倒だから貴様らを転移魔法で連れてきたのだ。」
ウルクはもう監視者に対して興味が無くなったらしく俺の元へ向かってきた。
「今日は何の用じゃ?早速訓練か?」
楽しそうに言うウルクにキザキが待ったをかけた。
「申し訳ありません魔王様。先日の会談の話を国王にしてきたのでそのご報告に伺いました。」
そう言うとウルクはつまらなそうに玉座に座った。
「では、聞かせてくれるか?」
メディウスが聞いてきた。
俺たちは共存のために出た条件を国王に報告し一旦検討段階にあることを伝えた。
その後、俺たちは国王の側近、もしくは国王自らが送ってきた者に監視されていることに気づいたことを伝えた。
商館にも盗聴のアイテムが置かれており内部に通じている者がいることが発覚したため商館を離れ取り急ぎ魔王ウルクへ国王への報告内容を伝えることにしたことを伝えた。
聞いていたウルクとメディウスは大して興味無さそうな態度で終始聞いていた。
「以上が報告内容となります。人間側で監視などゴタゴタがあり申し訳ありません。せっかく魔王様が前向きに検討して頂けているというのに…。」
「よい、はなから期待などしておらん。」
ウルクはあっさり言った。
メディウスも頷いている。
「お前ら人間が一枚岩になっていることなどほとんどない。むしろそれが出来ていたら我々魔王軍はもっと追い詰められていただろうがな。」
愉快そうにウルクが笑う。
「目的を決めて成そうとしてもそこにそれぞれの思惑が入りそれを隠しながら絶好の機会を虎視眈々と見計らっている。人間は本当に小賢しい生き物だよ。どんなに口で色々言ったとしてもいざという時の保身を探す。」
「防衛本能としては正常ですけどね。」
メディウスが口を挟んだ。
「我々魔王軍と人間の大きな違いは絶対的なトップがいるかどうかだ。我は召されたとしてもその後時間は掛かるが何度でも転生できる。しかし貴様ら人間は絶対的なトップがいない。ある時代に偉大な国王が生まれたとしてもわずか数十年で死ぬ。次の代がまた同じ器量を持つことなど極稀だろう。そんな人間たちに変らぬ忠誠心を求めるほうが間違っている。そう思わんか?」
ルーベルから聞いている貴族のやり取りなどから人間はしがらみに囚われているのは間違いない。
しかし、絶対的なトップがいないというのも事実だ。
この国だけでなく他の国を見渡してもそんな国王を聞いたことがない。
むしろそんな国王がいたら人間がもっと一丸となっていたに違いない。
「まぁ、そんな事を言っても仕方がない。これは持って産まれた本質の問題じゃ。」
「それだけ分かっていても共存のための会談に出て頂けると?」
キザキが聞くとウルクは鼻で笑った。
「まぁ、前世の事とはいえ約束は約束だからな。会談には応じる。ただ、どのような会談になるかはわからんぞ?」
「と、言いますと?」
「共存については前向き考えておる。だが、人間側が小賢しい真似をしたら…その時は安全の保障はせんと言っている。」
ウルクから凄まじいプレッシャーが放たれた。
「我も魔王なのでな…。同族を守るという責任がある。」
「お、仰る通りです。」
キザキは冷や汗を流しながら言った。
ウルクのプレッシャーは一瞬で消えた。
「もしそうなった場合我を止められる可能性があるのがレビンじゃ。だから訓練をするぞ!」
俺はウルクに掴まれ引きずられた。
「ちょ、ちょっと!ウルク!」
「うるさい!行くぞ!」
「待ってください!」
引きずられる俺の後ろからユキナが追いかけてきた。
残されたキザキとメディウスは溜息をついて話し始めた。
「それで大体の話しは終わったな?」
「はい、こちらが報告できることは以上です。」
メディウスが周囲を伺いキザキに耳打ちした。
「これは魔王様からの案なのだが…。」
話しを聞いたキザキは緊張した顔でメディウスを見た。
「本当に魔王様はそのようなことを?」
「ああ…。」
メディウスは魔王の向かったほうへ歩き出した。
キザキは暫く考えていると通信用のアイテムが光った。
「ルーベル様ですか?」
「キザキだな。監視の者を捕らえたぞ。」
「わかりました。こちらも魔王への報告が終わったところです。ただ…、レビンが魔王に訓練だと連れて行かれてしまいまして…。」
「わかった。ではこちらで監視の者から情報を集めておる。そちらも落ち着いたらすぐに儂の屋敷まで来てくれ。」
そう言うと通信は途絶えた。
ウルクの訓練は容赦なかった。
ウルクの指示で俺が瀕死になるまではユキナは見ていて危なくなると回復させるという厳しい内容だ。
「ほら、どんどんいくぞ!」
ウルクはギリギリで避けられるかどうかという攻撃を繰り替えし常に本気で動いていないと下手をすれば死んでしまうのではないかと思った。
そこにメディウスが訪れ苦笑いを浮かべた。
「ウルク様。今日はその辺にしておいてあげてください。」
「もうか?」
魔王がつまらなさそうに攻撃の手を止めた。
「ぜぇーぜぇー…。」
俺が座り込むとユキナが回復魔法をかけてくれた。
「レビンよ。キザキが待っている。ユキナを連れて早く行きなさい。」
メディウスは同情にも似た表情で俺に言った。
「話しは終わったのか?」
「はい、魔王様の仰られていたことも伝えてあります。」
「そうか。ではまた近いうちに来るんだぞ!レビン。」
ウルクは満面の笑みで言った。
「大丈夫ですか?」
俺はユキナに肩を借りながらキザキの元へ向かった。
「と…とんでもないですね…。ウルクの強さ…。」
「本当ですね…。」
奴隷の首輪をつけているとはいえここまで何もできないとは…。
本当にあの強さに対抗できる力をつけられるのか?
そんな事を考えながら進むとキザキが待っていた。
「じゃあ、早速ダンジョンから出るぞ。」
キザキは帰還用のアイテムを使用した。
辺りが真っ白な光に包まれ次の瞬間ダンジョンの外にでた。
馬車に荷物を置き周囲を確認したが先ほど確認した監視の者たちはどこにもいなかった。
「どこ行ったんですかね?」
キザキに聞くと
「先ほどルーベル様から連絡があってルーベル様を監視していた者を捕らえたらしい。その情報が奴らにも入って慌てて取返しにむかったか…。もしくは依頼者に報告に行ったか。」
「ルーベル様が危ないかもしれないではないですか!」
「急いでルーベル邸へ向かうぞ。」
すぐに馬車で出発した。
ルーベル邸に着くとセオリーがすぐに応接室に通してくれた。
中でしばらく待っているとルーベルが入ってきた。
「待たせたな。」
酷く疲れた顔をしている。
一応屋敷の様子からしてルーベル邸への襲撃などは無かったようだ。
「ご無事で何よりです。」
キザキが言うとルーベルは椅子に座った。
「無事…な…。実は捕らえた者を狙って複数人が屋敷に潜入しようとしたんだ。」
「え?」
「捕らえた者と似たような恰好をした者が屋敷の周りから様子を伺っているのを確認した。セオリーに命じて警備を厳しくしているがまだしつこく周囲をうろついているようだ。」
やはり予想通り捕らえた者を狙っているようだ。
「恐らく奪還、もしくは口封じを行うつもりだろう。」
「では、すぐにでも尋問をしましょう。」
キザキが言うとルーベルは首を横に振った。
「儂も捕えてから何度も尋問したが恐らく魔法だろうな…。口封じの魔法が掛かっているようで奴が話そうとすると完全に止まってしまうのだ。本人は話しているつもりなのだろうな。尋問した記憶からスッポリ抜け落ちておる。」
そんな魔法もあるのか…。
恐らく依頼者は相当慎重な人間なのだろう。
「ではユキナを連れて行きましょう。」
キザキに言われユキナが驚いた顔をした。
「あたしですか?」
「お前ならもしかしたらその魔法を解けるかもしれん。状態異常から回復する魔法があるからな。」
そう言うとルーベルは頷き俺たちを連れて地下の部屋へ向かった。
地下には牢屋がありその一番奥の部屋に監視者はいた。
本当に特徴のない姿の中年の男性だ。
「ルーベル様、この者に見覚えは?」
ルーベルが首を横に振った。
「全く見覚えがない…。恐らく何者かに雇われたのだろう。」
ルーベルが尋問を行った。
男は最初何も話さなかったがルーベルの圧に負け話そうとした。
その時、男は急に表情が消え全く反応しなくなった。
ルーベルは男の頬を引っぱたくと意識が戻り、辺りをキョロキョロしている。
「こんな感じだ。恐らくこの男も何が起こっているかわからないようだ。」
溜息混じりにルーベルが言った。
「催眠のような効果なのでしょうか…。ユキナ、試しに魔法で確認してもらえるか?」
「は、はい!」
ユキナが詠唱を始めた。
すぐに男が光に包まれた。
「…これで恐らく大丈夫だと思います…。」
ユキナが言った。
再びルーベルが尋問を始めるとルーベル邸の監視を依頼されたことはすぐに話したが、やはり頑なに依頼主については話そうとしない。先ほどはルーベルの圧で話そうとしたが今回は耐えている。
「仕方ない…。」
ルーベルが男を軽々と担ぎ上げた。
「どちらへ?」
「こうなっては仕方ない。拷問にかける。」
男の顔が青ざめた。
男はやめてくれと懇願したがルーベルは無視して部屋を出て行った。
「キザキさん…。ルーベル様の拷問って?」
「あの方は元々戦場で戦果を挙げて今の地位まで登り詰めた方だ。戦場での経験から相手に恐怖を与える方法も熟知されている。」
考えたくもない…。
しかしあのルーベルが拷問までして聞き出そうとしているという事はある程度目星がついているのか?
それとも検討もついていない焦りからくるものなのか?
どちらにしてもこれは魔王との会談までにはっきりさせておかないと人間側の不安材料になりかねない。
バン!
その時、地下室の扉が乱暴に開かれた。
ユキナが悲鳴をあげキザキも警戒態勢に入った。
扉のほうを見ると監視者と同じ格好をした数人の男が屋敷に侵入してきた。
「同胞はどこだ?」
男の一人が叫んだ。
「大人しく出して貰おう。」
俺たちは警戒態勢のまま相手の言う事を無視して構えた。
「解放する気はないという事だな?」
男が合図をすると一斉に襲い掛かってきた。
俺はキザキとユキナの前に立った。
「レビンさん!」
ユキナが大きな声を出した。
そこからはスローモーションのように世界が見えた。
襲ってきているはずの男たちはゆっくり過ぎて自分の目を疑った。
ウルクとの訓練の効果だろうか…。
まぁ、ウルクは桁違いのスピードとパワーを持っているので全く歯が立たなかったが人間相手ではこの様に見えるのか…。
そんなことをぼんやり考えながら敵の攻撃を避けた。
男たちは体勢を崩し驚きの表情でこちらを見ている。
俺はその隙を逃さず一気に男たちを制圧した。
「こ、こんなに強いなんて聞いてないぞ…。」
男が悔しそうにこちらを睨む。
そこにルーベルが戻ってきた。
「戻った…。これは何だ?」
驚いたルーベルがこちらを見た。
「ルーベル様が行ったあと地下室に侵入してきた者たちです。」
縄で縛りつけられた男たちを眺め改めてこちらを見た。
「魔王の訓練のお陰か?」
俺が苦笑いを浮かべる。
「何か情報は引き出せましたか?」
「ああ、こいつらにも聞いてみるか…。」
ルーベルが男たちを見た。
「何があっても俺たちは話さんぞ?」
「そう言っていたお前の仲間は先ほど白状したがな。お前らもモンテ宰相の手の者か?」
男たちの驚きの表情でほぼ確定した。
話しを聞くとこの男たちは闇ギルドの者たちで依頼があれば何でもやる連中だった。
依頼したのは国王の側近、モンテ宰相で俺たちも何度か会っている。
モンテは以前から闇ギルドとの関係があるという噂が流れていたが事実だったようだ。
「依頼内容は何だ?」
ルーベルが聞くと男は懇願しルーベルに頼んだ。
「勘弁してくれ!そこまで話してしまうと今回の件でただでさえもうギルドには戻れないのに命を狙われるようになっちまう…。」
「なんて都合のいい事を…。」
ユキナが怒りの表情で男たちを睨んだ。
ルーベルがため息をつき男たちに言った。
「もう言わんでもよい。先に捕らえた者からほとんど話しは聞いた。セオリー!こいつらを牢に入れておけ。」
いつの間にかいたセオリーが男たちを牢に入れ鍵を閉めた。
「応接室に戻るぞ。」
ルーベルの言葉で俺たちは移動した。
応接室に着くとセオリーが何か魔法と唱えた。
「今のは…?」
俺が聞くと
「遮音魔法だ。今この部屋の中にいる者の声は外に聞こえないようにな。」
ルーベルが言った。
「それで聞かせて頂きますか?」
キザキが聞くとルーベルは話し出した。
「結局監視者を送っていたのは先ほども言った通り国王の側近、モンテ宰相で間違いない。国王への報告の間も奴は話を聞いていたからな…。」
「我々が裏切るのではないかという疑いでしょうか?」
「それもあるが少しでも怪しいところがあれば報告するよう伝えられていたと監視の者は言っていた。恐らく共存に対してよく思っていないようだ。隙あらば国王に吹き込んで我々は反逆者に仕立て上げるつもりだったのだろう。」
苦々しい顔でルーベルが言った。
「恐らく他の国王の側近の中にも同じような考えを抱いている者もいるのだろう。モンテ自身は一人でそんな大それた行動を取るような奴ではないからな。」
「となると、他にも監視の目があるかもしれませんね。」
「もしかしたらキザキ商館を監視していた者たちは別の依頼主かもしれんが大元はモンテで間違いないだろう。」
「では次に国王に会う時に報告すべきでしょう。」
俺が言うとキザキは制して
「一旦、国王の話を聞いてからにしましょう。すでに情報が国王の耳に入っていた場合、側近のモンテを信用して話を聞いてもらえない可能性があるので。」
「そうだな…。」
ルーベルが頷いた。
魔王ウルクが今のこの状況を見たら何と言うだろうか…。
所詮人間だからと笑うような気がする。
ただ、万が一魔王を嵌めようとするようなことがあれば俺は人間の味方でいられるだろうか…。
ウルクの言っていた魔王軍の忠誠はかなり暴論に近い印象もあったが確実に成り立っていた。
それに比べて人間は…。
少しでも今の自分より良い環境に身を起きたがり、地位を得た者は今度はその地位を失わないように策を張り巡らせる。
人間自体もっと広い視野が必要だ。
自分を守ることは悪いことではない。
ただその守り方…、本気で自分の事しか考えていない者、または他の存在をないがしろにしても何とも思わない者がいる。
恐らく魔王軍にもいるだろう。
違いは一体何なんだろうか…。
一度ウルクに話しを聞いてみたかったがそんな時間はないようだ。
丁度その時鳥がルーベル邸に届いた。
ルーベルが書簡を見てすぐにこちらを見た。
「国王からだ。」
国王からの書簡が届いてすぐに俺たちは王城へ向かった。
内容は先日の報告内容を受けて今後の方針を決めたから王城に来て欲しいという内容だった。
途中でキザキが書簡を飛ばすのを見た。
「今のは…?」
俺が聞くとあとでわかるとだけ言われた。
そのまま城に到着し国王の間へ直接案内された。
部屋に入るとすでに国王を始めとする側近たちが待っていた。
「お待たせして申し訳ありません。」
ルーベルが膝をつき頭を下げた。
俺たちもルーベルに倣って頭を下げた。
「よい。よくここまで早く来てくれた。」
頭を下げているので表情はわからない。
「側近たちからも多くの意見を出して貰い結論を出した。」
周囲に緊張が走る。
「儂は魔王軍との会談に応じようと思う。」
国王の言葉にどよめきが起きた。
俺たちは顔を上げ笑みを浮かべた。
「お待ちください!」
ジールが声を挙げた。
「何だ?」
国王がジールのほうを見た。
「あまりに危険です。国王の身に何かあったら…。それこそ魔王軍が嘘を付いていたら王都に招き入れた時点で滅亡の危機を迎えるのではないでしょうか?」
「では、ルーベル達が嘘をついていると?」
「それは…。そこまでは言いませんが言葉だけで信用できるものではありません。」
ジールの言葉はあながち的外れではない。
ジールなりに王国を聞きに晒すことを避けたいという気持ちが伝わってきた。
「だが、このまま魔王軍と戦っていてもお互いに有益でない事は明らかだろう。ルーベル達の話しでは魔王は共存に関して前向きという話だ。」
「その者たちのデマの可能性が高いです。」
モンテが急に口を開いた。
「何?」
国王がモンテを見た。
「申し上げます。誠に勝手ながら私の兵を使いこの者たちを調査しました。その際、国王は指示していないにも関わらず謁見後にまた魔王に会いに行っております。」
「それは真か?」
「はい、魔王への報告は行いました。魔王との共存会談を行うためには魔王軍の信頼を得るのも重要と考えたためです。」
キザキが答えた。
「ルーベル邸に至っては調査中に我が私兵が捕らえられました。キザキ商館に関しても調査のためのアイテムを魔法で使用できないようにするなど明らかに情報が出ることを嫌がる動きを見せています。」
よくもまぁ都合のいい事をぬけぬけと…。
俺は流石に怒りが湧いてきた。
そこでルーベルが手を挙げた。
「よろしいでしょうか?」
「何だ?」
「私の邸宅に来た監視者を捕らえました。」
「何?」
モンテに明らかな動揺が走る。
「いきなり邸宅の周囲に不審な者の目撃情報が入りましたので…。最初に気づいたのはここにいるキザキで商館に盗聴のアイテムが設置されていたことと商館の人間が複数人怪しい者に声を掛けられたとこのことです。」
国王は黙って聞いている。
「どうも我々の動向を探っていたようで…。あれはモンテ殿の私兵だったのですか?」
「だったら何だと言うんだ?」
明らかに苛立っているモンテに追い打ちをかける。
「我が邸宅に侵入してきた者を捕らえて吐かせたのですが国が認めていない闇ギルドの者でした。本人が自白した事と仲間も捕え関係があることを認めました。」
国王がモンテを睨んだ。
「ち、違うんです国王!私はまだ洗脳やここに来たあとにこの者たちが魔王に騙されていないかを心配しまして…。」
「ならば何故私兵を使わずに闇ギルドを使ったのだ?闇ギルド自体関わることはこの国の法律で犯罪だとわかっていなかった訳ではあるまい。」
「恐らく今回の共存に関してよく思っていなかったのでしょうね。我々の疑わしいところを探させ、無ければ強引に濡れ衣でも着せようとしていたのでしょう。」
「言わせておけば…証拠はあるのか?」
モンテは真っ赤な顔で言った。
キザキが水晶玉を出し国王に渡した。
「これは?」
「その中に証拠が残っております。」
ユキナが魔法をかけると映像が映し出された。
それはモンテと闇ギルドのマスターのやり取りだった。
そこにはモンテから俺たちの周辺調査、魔王との繋がりと裏切りの証拠探し、無ければ証拠を作るよう持ち掛けている内容だった。
「や、やめろー!」
ユキナに襲い掛かったモンテを俺が地面に抑えつけた。
「これが証拠です。」
ルーベルが言うと国王は溜息をついて頷いた。
「ま、待ってください国王様…。」
「連れていけ!」
衛兵が駆け寄りモンテを拘束した。
「く、くそぅ…。貴様ら覚えておけよ!どうせ手柄で宰相の座を…、いや、国王様の地位まで狙っているに違いないんだ!私にこんな事をして後悔するぞ!」
散々文句を言いながらモンテは連れて行かれた。
国王は心底疲れたという表情を浮かべていた。
「我が家臣ながら何とも…。すまないな。」
国王が頭を下げた。
「おやめください。」
ルーベルが慌てて止める。
「今回の件でわかったが、魔王との共存会談は早めに行うべきだと思う。儂はそなたらを信じよう。すまないが日程調整を頼む。こちらはいつでも応じるとだけ伝えてくれ。」
「かしこまりました。」
ルーベルが返事をした。
「またよからぬ事を考える輩がいつ現れるかもわからん。至急、魔王に連絡してくれ。」
俺たちは国王の間から出た。
出る直前にジールと目が合い、怒りの籠った目をこちらに向けていた。
まだ何かあるのだろうか…。
国王命令で今回は動けるのですぐの王城を出て西のダンジョンに向かった。
「モンテの件はあっさり片が付いたがまだ気を緩めるでないぞ。ジールのあの目つきもだがあんなに最初報告したときは悩んでいた国王様があっさり快諾したのも不自然だ…。」
ルーベルの言う通りだ。
その件も含めてウルクに報告する必要があるだろう。
「人間って…面倒くさいですね…。」
ユキナがぼそっと呟いたのが聞こえた。




