記憶
「ユリウス!ユリウス起きて!」
俺は誰かに揺り動かされて目が覚めた。
「んー。おはよう。」
「おはようじゃないわよ!もう昼前よ?」
レイナが明らかに機嫌悪そうにこちらを睨んでいる。
「すぐ行くー。」
俺はレイナを部屋から出し着替えた。
宿屋の1階に行くとすでにレイナとザイアス、ミントが集まっていた。
「ほら、ユリウス早く行くわよ!」
レイナの言葉にあくびをしながら俺たちは宿屋を出た。
「今日はどこ行くんだっけ?」
俺が聞くとザイアスが
「今日は東のダンジョンだな。四天王のシーザーとやるぞ。」
「了解!」
俺たち勇者パーティーと魔王軍の戦いは佳境に入っていた。
勇者の俺、ユリウスと巫女のレイナ、戦士のザイアスと魔法使いのミントの4人パーティーですでに北・西・南のダンジョンは攻略済みで残すは東のダンジョンのみだ。
「今日のシーザーはかなりの武闘派って噂よ。ミントの魔法とあたしの支援魔法が肝になりそうね。」
レイナが真剣な顔で作戦を立てている。
「大丈夫だよ。」
俺がレイナに言った。
「この4人ならなんとかなるって。」
「またそんな無責任なことを…。」
レイナが呆れた顔でこちらを見ている。
ザイアスとミントは慣れたもので黙々と自分たちの準備を進めていた。
東のダンジョンに到着し早速中に入ると3つのダンジョンが落とされたということもありモンスター達は大群で襲い掛かってきた。
ミントの広域の魔法で数を減らし、残ったモンスターは俺とザイアスで討ち取っていく。
いつもの俺たちの戦闘スタイルだ。
レイナが指揮を取りながら支援魔法を使うことによって危なげなくダンジョン内を進んでゆく。
途中、レイナが結界を張り休憩を取った。
「なぁ、どう思う?」
俺は全員に聞いた。
3人は顔を見合わせた。
「どういう事だ?」
ザイアスが聞いてきた。
「いや、手応えがないというか…。魔王軍からしたら最後のダンジョンだぞ?その割に軽過ぎないか?」
「そう言われると確かに…。」
レイナが真剣な顔で考え込んだ。
「でも、かなり他のダンジョンでモンスターを討伐したから向こうの戦力もギリギリなのかもしれないわ。」
ミントが言った。
確かに他のダンジョンでかなり戦力を削れたと思う。
それでもこの違和感は何だ?
考えてみたが結局答えは出ず俺たちは進むことにした。
その後も数は多いもののかなり余裕を持って四天王の部屋に辿り着いた。
「準備はいいか?」
俺が確認すると皆頷いた。
俺は扉を開いた。
中は大きな洞窟になっており中心にシーザーが椅子に座っていた。
シーザーは勇者一行を見ると嬉しそうに立ち上がった。
「また会えたな!」
「俺は会いたくなかったけどな。」
そう、シーザー含め四天王とは何度もやりあっている。
ギリギリで逃げ延びた事もあるし、倒しきれず逃げられたこともあった。
いわば宿敵のような感覚を覚えている。
シーザーは俺たちに向かって一直線に向かってきた。
俺が剣で受け止め戦闘が始まった。
1時間近くは戦っていただろうか。
何とか俺たちはシーザーを打ち倒した。
「はぁ、はぁ。」
「止めを刺せ。」
シーザーが倒れた状態で言った。
「嫌だよ。」
俺は答えた。
「何故だ?俺を殺しておかないと何度でもお前たちの前にたちはだかるぞ?」
「それは迷惑だからやめてくれ…。なぁ、シーザー。俺たちは何で戦ってるんだ?」
「何を言っている?貴様らが人間で我々が魔王軍だから…。」
「でもそれって理由になってなくないか?」
レイナが呆れた様子で話しを聞いている。
「何が言いたいんだ?」
「お前んとこのボスに今度戦いにいくよ。そんで俺たちが勝ったら共存の道を探さないか聞いてみるつもりだ。」
「何を馬鹿な事を…。」
「でも、お前んとこのメディウスは意外の面白がってたぞ。」
「あいつは…変わり者だから。」
「まぁ、とにかくそういう事だからシーザーも考えておいてくれよ。」
「ふざけるな!」
シーザーの言葉を背に俺たちはダンジョンから出た。
シーザーを討伐したことをその日のうちの王都へ報告に行った。
王国は大いに盛り上がった。
勇者パーティーが四天王を全員撃破したという噂は一瞬で国中に広まった。
国王に魔王討伐に行く旨を伝えその日は宿に泊まった。
食事を終え装備品の手入れをしているとレイナが部屋にやってきた。
「いよいよ魔王と戦うのね。」
「そうだな。」
「でも本気なの?魔王軍との共存なんて…。」
「俺は本気だよ。」
「あんたが本気でも王国が許すかどうか…。それに魔王軍だって素直に従うとも思えないし。」
「従わせるんじゃないよ。共存だ。協力して一緒に暮らしていくんだ。元々、何で戦い始めたかわからない戦いなんだぞ?だったらいつ止めてもいいじゃないか。あとは自分たちの気持ちとか考え方の問題だろ?それを擦り合わせる必要はあるな。」
レイナはため息をついた。
「こうなったら何言っても考え変わらないもんね。」
俺の横にレイナが座った。
「正直魔王軍との共存は難しいと思う。でも出来る限りのことはしましょう。」
そう言って俺の肩に頭を寄せた。
翌日、魔王討伐の前に王城へ寄って魔王軍との共存の話を国王にした。
「夢物語だな…。」
国王は一言呟いた。
「今はそう感じるかもしれません。ですが、このユリウスの手によって魔王討伐し向こうが応じる姿勢を見せたらその時はご一考頂けないでしょうか?」
レイナが必死な様相で訴えた。
「しかしあまりに現実的ではない。今まで散々争ってきた相手と共存など…。」
「しかしいつかは終わらせなければならない戦いです。」
「だからそなたたちは討伐に行くのだろう?」
「それもありますが交渉できればと思います。」
国王は頭を抱えた。
「わかった。その時は一考する。」
「ありがとうございます。」
俺たちは頭を下げ部屋を出た。
「いいのですか?」
宰相が国王に話しかけた。
「よい、どうせ交渉など上手くいかん。」
「しかし万が一の場合は?」
「その時は弱った魔王と勇者パーティーだけだ。何としても…例え最悪な結果になったとしても消せばよい。」
「しかし、民衆には何と?」
「勇者と魔王は相打ちになったとでも伝えておけばよい。まず一番に考えるのはこの国の存亡と安全だ。」
「…わかりました。」
城を出た俺たちは一旦魔王との戦いに備え各自準備に取り掛かった。
俺は王都が見渡せる塔に登って街を眺めていた。
実際魔王軍との交渉が上手くいき共存の道が出来たとしてもそこから維持することが本当に難しい。
現国王と魔王が約束をしたとしても寿命の短い人間はどうしても代替わりをしていく。
その中で野心を抱いた国王、もしくは家臣による一つの過ちのせいで一瞬で崩壊するだろう。
そうなっては再び戦乱の世界が広がる。
正直いくら考えても途中で詰んでしまいいい考えが思いつかない。
「一人じゃ無理か…。」
俺は呟いた。
人間一人が本気で考えたところでたかが知れている。
人間・魔王軍両方の知恵を振り絞らなければ…。
「何難しい顔してるの?」
気付いたらレイナが横に立っていた。
「ちょっとな…。」
俺は笑顔を作って胡麻化した。
「またそうやって一人で抱え込む…。」
ため息をつきながらレイナは俺と同じ方向を見た。
「もうずっと同じパーティーなんだからだいたい考えてることはわかるよ。魔王軍との共存のことでしょ?」
俺は黙って頷いた。
「皆で考えましょう?いくら勇者だからって一人で何でも出来る訳じゃないんだから。」
レイナの言葉が俺の気を少し軽くしてくれた。
俺には仲間がいるんだ。
そう自分に言い聞かせ空を見上げた。
「レイナ…。子供の頃の約束覚えているか?」
「何のこと?」
レイナがきょとんとした顔でこちらを見ている。
「落ち着いたら約束果たそうな。」
俺はレイナに笑顔を向け塔を降り始めた。
「約束って…。」
レイナはしばらく考えたあと顔を真っ赤にしてしゃがみ込んだ。
「覚えてたんだ…。」
にやける顔を抑えきれずレイナは両手で顔を隠した。
宿屋に戻るとザイアスとミントがすでに俺の部屋で待っていた。
「ん?レイナ顔が真っ赤だぞ?」
「うるさい!」
ザイアスが聞いた瞬間レイナが叫んだ。
ザイアスとミントは顔を見合わせている。
「明日の作戦会議を始めるぞ。」
俺が言うと皆真剣な顔になった。
「魔王城まではこの前シーザーを倒したダンジョンの転移ポイントからすぐに行ける。ただし、その先は全くの未知だ。モンスターの数も今までのダンジョンの比ではないことを覚悟しておいてくれ。」
皆が頷いた。
「全体の指揮を執るレイナにはかなり難しい判断をさせてしまうことになると思うが躊躇しないように。一つのミスが最悪全滅に繋がる可能性があるからな。」
「今までだって同じでしょ?モンスターの質や量は増えるかもしれないけどこのパーティーの能力を一番わかっているのは私よ。」
「ああ、信用してる。」
俺が言うとレイナが笑顔を見せた。
「ザイアスは俺と前衛を張ることになる。まぁ、いつもの事だがお前は頑丈さを過信して無理するところがあるからな。今回の戦いではできるだけ余裕を持って行動するようにしてくれ。」
「わかった。…というかユリウス、お前も大概前に出過ぎるから注意しろよ。」
俺はザイアスから目を逸らした。
「おい?」
「わかってるよ。」
ザイアスが疑念の目を向けてきた。
「最後にミント、今回モンスターの数が予測がつかない。レイナから指示があったら躊躇なく魔法を頼むぞ?多少俺とザイアスを巻き込む位なら迷うなよ?」
「巻き込まないわよ!失礼ね!」
ミントがそっぽを向いた。
ミントは普段は気が強いがいざという時躊躇してしまうことがある。
今回のような未知の場所で大量の強力なモンスターを相手にするときは少しの躊躇が致命的なミスに繋がりかねない。
それでも今まで数多くの修羅場を一緒に経験してきたのだからあとは信用するしかない。
「じゃあ、明日に備えて解散!」
各自部屋に戻り翌日の魔王戦に備えた。
翌日、早速東のダンジョンの転移ポイントまで辿り着いた。
「準備はいいな?」
俺の声に皆が頷いた。
転移ポイントに触れると一瞬で別の場所へ移動した。
明らかに城内という雰囲気の場所で周囲には大量のモンスターの気配がした。
「いくぞ!」
俺たちは目についたモンスターを片っ端から倒していった。
やはり魔王城ともなると一体一体のモンスターの強さが今までとは段違いだ。
いくら倒しても数が減っている感じがしない。
仲間にも疲労の色が見え始めた。
「待て!」
大きな声が響いた。
そこには背丈は俺と変わらない位の角の生えた男が立っていた。
「お前が魔王か?」
俺が訊ねると黙って頷いた。
魔王の目には怒りの色が滲んでいた。
「貴様らが勇者パーティーか…。」
こっちに向かって近づいてくる。
圧倒的なプレッシャーを感じ仲間にも緊張感が走る。
「魔王、話しがしたい。」
「話し?」
魔王は表情一つ変えずに言った。
「何だ、ここまで来て命乞いか?」
「そうじゃない。交渉がしたい。」
「交渉…。」
魔王はポツリと言った。
「もうどれだけ長い間人間と魔王軍で戦っているかわからない。このまま終わりの見えない戦いを続けることは不毛だと思わないか?」
俺が言うと黙って魔王は聞いている。
仲間たちも警戒は解かずどうなるかを見守っている。
「人間と魔王軍で共存はできないか?俺たちは戦わないで解決できる方法を考えてるんだ。」
魔王のプレッシャーが更に跳ね上がった。
「勇者よ…。貴様は自分が言っていることはわかっているのか?」
「もちろん分かっている…。難しいことも…。だからこそよく話し…。」
「そうではない!自分の言っている矛盾に気づいているかと聞いているのだ!」
魔王が怒りの表情で怒鳴った。
どういうことだ?
俺たちは理解できずお互いを見た。
「共存だと?笑わせるな!今日だけでも見てみろ!貴様らは何人の我の配下を殺した?」
「そ、それは…。襲い掛かってきたから…。」
「では王都に魔王軍が現れたら貴様らは何もせず見ているというのか?そんな訳はあるまい!確実に攻撃するだろう?」
「だ、だが共存できればそのようなことも起こらなくなるはず…。」
「どうやって貴様らを信用しろと言うのだ?勝手にダンジョンに入ってきて四天王までも打ち倒し、我の元までやってきた。見事な敵だと感心したぞ。だが今の話しを聞いてがっかりもした。まるで全てが平和に解決するかのように言いおって。そもそもダンジョン攻略と称してこちらに攻撃を仕掛けてきているのは貴様らではないか。それを英雄気取りで共存などと言いおって…。」
相手の言っていることが正論過ぎて何も言い返せなかった。
共存を掲げるなら何故戦闘を前提にここに来てしまったんだ?
そもそもギルドなどにもモンスター討伐があるように人間がモンスターを襲っていると言っても過言ではないのではないか?
俺たちも勇者パーティーと王都で騒がれ英雄のようにダンジョン攻略を行ってきたがモンスターからすれば悪魔でしかない。
その相手に共存と言われて魔王軍が承諾する訳がない。
思考は巡るが言葉が出てこなかった。
「言いたいことはそれだけか?」
「違う…。」
「何も違わない。」
魔王は戦闘体勢に入った。
「それでも…。それでも俺は…、俺たちは共存できればと本気で思っている!」
「ならば証明してみろ!貴様の想いとやらを!」
結局戦闘は始まってしまった。
魔王の強さは予想の遥か上だった。
ミントの魔法も効果が薄く、レイナの支援魔法のお陰で俺とザイアスが何とか戦える。
このままでは押し切られると感じた時に、俺の力が覚醒した。
先ほどまで凌ぐので精一杯だった魔王の攻撃を躱し攻撃も明らかにダメージを与えている手応えがある。
そこにレイナの支援魔法の効果が乗り俺と魔王の一騎打ちとなった。
どの位の間戦っていたのだろうか。
俺は魔王に渾身の一撃を食らわせ魔王は地面に叩きつけられた。
「ぐぅ…。」
魔王が立ち上がれないよう腕に剣を刺した。
「見事…だ…。」
魔王が薄く笑った。
「まだだ!話は終わっていない!」
俺は魔王に向かって叫んだ。
「共存の話か…?先ほども…言っただろう…。そもそも…破綻した…話だ…と。」
魔王は途切れ途切れに言った。
「確かにお前の言う通りだよ…。俺の考えは浅かった。立場が違えば俺もお前みたいに言っていたかもしれない…。だけど…それでも何とかならないか?」
俺は懇願するように言った。
「まるで幼子のようだな…。」
初めて魔王が薄く笑みを浮かべた。
「だが、我ももう長くはない。その約束はすることが出来ん。」
魔王の身体が朽ち始めた。
「そんな…。」
覚醒した力は俺が思っていたよりも強く魔王を討ち滅ぼすには十分過ぎた。
「勇者よ…。我はまた蘇る…。その時に貴様のように本気で共存を考える馬鹿者がいたら考えてやる…。」
「…。何としても俺は共存を目指す。人間の寿命は短いが必ず語り継いでやるからな。」
「ふっ…。では楽しみにしておくとしよう。メディウス!いるか?」
メディウスが魔王の前に跪いて現れた。
「ここに。」
「次に我が復活するまでこの勇者と人間たちを監視しろ。他の四天王にも伝えておけ。」
「はっ!」
メディウスが答えると魔王は慈愛に満ちた微笑みを浮かべ消滅した。
メディウスは俺たちに向けて
「魔王様の仰られた通り我々は貴様らを監視する。」
そう言い残し姿を消した。
「勝った…のか?」
ザイアスが誰にともなく聞いたが誰も返事をしなかった。
俺たちは魔王を倒した喜びよりも共存が出来なかったことへの悔しさを強く抱えて魔王城を後にした。
帰りの道中口を開く者はおらず俺は魔王の言葉が頭から離れなかった。
お前たち人間が魔王軍に攻め込んできた。
俺たちは勇者パーティーとしてモンスターと戦ってきた。
襲ってくるモンスターと戦うことで王都を守り、いずれ世界平和に繋がればと本気で考えていた。
戦っていくうちに魔王軍との共存を考えたがそれは戦いも終盤に差し掛かった頃だ。
魔王軍はいつから人間たちに攻め込まれていると考えていたのだろうか。
いつから始まった戦いなのかもはっきりしない…。
この戦いは何の為に行われたのか?
そんな取り留めのない事を考えながら馬車は王城へ向かった。
城に着くとすぐに国王の間へ案内された。
そこには国王だけでなく宰相などの重鎮も集まっていた。
「どうだった?」
国王は厳しい表情で俺たちに尋ねた。
「共存の道は成せませんでした…。結局魔王と戦闘になり何とか勝利することができました。」
そこで集まっていた者全員が歓声を挙げた。
「よくやってくれた!」
国王も一転し笑顔になった。
「ユリウス、レイナ、ザイアス、ミント!一人も欠けること無く帰還したこと真に見事だ!祝杯の用意だ!」
全員が一気に宴の準備に取り掛かった。
俺たちは一度城内の部屋を借りることになり各自部屋に入った。
荷物を置いてベッドに横になると一気に疲れが押し寄せた。
これでこの国に対する魔王軍の脅威は去った。
国王たちの様子を見ても俺たちは勇者パーティーとして偉業を立てたのだろう。
しかし、魔王軍との共存は本当に出来なかったのだろうか。
ドアをノックする音が聞こえ扉が開いた。
レイナが部屋に入ってきてソファーに座った。
「あたし達…勝ったんだよね?」
「ああ…。」
「そうだよね…。でも何でこんなにすっきりしないんだろう…。」
ユキナも魔王の言葉が引っかかっているようだ。
「魔王の言葉…。どう思った?」
「正直あたしは魔王軍との共存は全く出来ないと思ってた。話し合いにすらならないと…。でも…魔王はあれだけ想いを言葉にしてた。それを聞いたらあたし達のやってきた事ってなんだったんだろうって…。」
それだけ魔王の言葉には力があった。
またノックの音がして扉を開けると給仕の姿があった。
「お待たせ致しました。準備が整いました。」
そう言い部屋を離れた。
「行こうか…。」
俺はレイナに声を掛け宴の場へ向かった。
そこからは城だけでなく王都を中心に連日お祭り騒ぎだった。
人間にとって魔王軍の脅威は相当なもので人々は皆明るい顔をしていた。
俺たちのパーティーは王都全域を周り褒め称えられた。
行く先々で感謝の言葉を伝えられ英雄としてもてはやされた。
その後、俺たち勇者パーティーは国王からの褒美として十分な報酬と特別な貴族としての地位を与えられた。
特別というのは王国内での治安維持を任され他の貴族や宰相などに対しても発言権があるというものだ。
俺たちは最初断ったが王国の治安の為と国王に頼まれ仕方なく受けた。
基本的には都市の警備を任され自分達が動くというよりも警備隊の管理をする形だ。
最初こそ何をしていいかわからず右往左往していたが数年経つ頃には立派な形が出来上がり王国騎士団と名付けられた。
団長を俺が務め、レイナ・ザイアス・ミントを副団長に任命して王都を中心としたパトロールや犯罪の情報収集、逮捕などを行った。
魔王を倒してすぐの頃は魔王軍の侵攻のあった村や街を修繕などやることが多く人間は一丸となって復興を行っていた。
しかし、現在は犯罪率、主に貴族たちの横暴な権力行使などによって追いやられた市民による犯罪などが増えてきている。
貴族たちは狡猾でほとんど黒いのにギリギリのところで尻尾を掴ませず逃げ延びている。
俺たちも頭を悩ませている案件の一つだ。
「団長!」
振り向くと団員の一人が慌てた様子でこちらを見ている。
「どうした?」
「それが…本日のパトロール中に路地裏で人攫いを行おうとする者がおりまして捕まえたのですがその者だちが団長と話したいと…。」
俺に直接許しを請おうというのか?
「わかった。案内してくれ。」
俺は団員と共に騎士団庁舎の地下にある牢屋に向かった。
そこには見た事のない4人の男が牢屋に収監されていた。
「こいつらか?」
「はい!」
「俺は騎士団長のユリウス、俺に話しというのは何だ?」
俺が訊ねると恐らく一番年長者の男が話し始めた。
「勇者様ですよね?実は折り入って相談がありまして…。」
「生憎俺には犯罪者と話す理由などないのだが。」
俺が冷たく突き放すとニヤニヤとした笑顔のまま男が続けた。
「実は俺たちはとある人に雇われておりましてね…。今回の依頼もその人から受けた依頼なんですよ。」
「もったいぶらずに言え。」
俺は男の態度に苛立って言った。
「ただで言う訳ないじゃないですか。依頼者を言う代わりに逃がしてはくれませんか?」
「お前たちの一体何を信用しろと言うんだ?」
「聞けばわかりますよ。」
相変わらず男はにやけながら話す。
俺はため息をつき
「逃がすとまでは言えないが減罰は進言してやる。これがこっちの出来る精一杯だな。」
「お願いしますよ。」
あっさりと男は話を受けた。
「それで?黒幕は誰なんだ?」
この手の輩はほとんどが信用できないとわかっているが稀に有益な情報が出ることもある。
俺が聞くと男は驚くべきことを言った。
「騎士団副団長のミント様ですよ。」
俺は固まってしまった。
ミント…?あのミントか?
「どういうことだ?」
俺は怒声をあげた。
「怒らないでくださいよ…。実際お会いして依頼を受けたんですから間違いありません。」
信じられない…。
「確認する。」
俺はすぐにその場を離れた。
相手に動揺を見られたくなかったからだ。
俺は急いでミントの部屋へ向かった。
「ミント?」
ドアを叩いたが返事はなかった。
俺は動揺を抑えながら考えた。
ミントが人攫いの依頼を?何のために?
とにかくミントに会ってみないと何もわからない。
レイナとザイアスを訪ねたがレイナは南の都市のパトロール中、ザイアスは他国へ遠征中だった。
何か手掛かりはないかと探してみたが見当たらず俺は一度国王に報告することにした。
嘘ならば何も証拠は出てこないだろう。
もし本当なら…。
考えたくはないがミントと直接話をしたい。
城へ行くとすぐに国王の間へ通された。
「突然どうしたのだ?」
国王はゆっくりと玉座に座った。
「はい、本日王都の路地裏にて人攫い未遂が発生しました。捕らえた者たちのリーダー格の男に話しを聞いたところその人攫いを依頼したのが…。」
言葉に詰まった。
「誰だったのだ?」
「…ミントと言ってしました。」
国王は立ち上がり驚きの顔を浮かべている。
大きく息を吐き再び玉座に座った。
「それは真なのか?」
「わかりません…。確認しようとしましたがミントは騎士団庁舎内におらず…。騎士団員にて捜索中です。」
「そうか…。」
「国王、本当に申し訳ありません!」
俺は必死に頭を下げた。
「まだ決まった訳ではないのだろう?それにお前だけの責任だけではない…。」
何かを考えながら国王は話した。
黒幕がミントと聞かされてここまで慌てて来たので一気に疲労が押し寄せてきた。
「お前のことだから休みもせずここまで来たのだろう。詳しくは応接室で話しを聞く。先に行って待っておれ。」
「かしこまりました。」
俺は立ち上がり応接室へ向かった。
まだ頭の中がごちゃごちゃで纏まらない。
応接室に入りソファーに座った。
視覚の情報がうるさく感じ前かがみになって両目を手で覆った。
ミントを信じたい…。
しかし、何も関係ないのなら何故ミントの名前が…
レイナとザイアスの意見も聞きたい…。
駄目だ。何も纏まらない。
その時ドアをノックする音が聞こえた。
顔を上げると給仕が紅茶を持ってきてくれた。
「どうぞ、ユリウス様。」
出された紅茶を一口飲み再び国王が来るのを待った。
これ以上一人で考えても何も思いつかない…。
天を仰ぐと一気に強烈な眩暈に襲われた。
俺はソファーから落ち咳込んだ。
なんだ?
口を抑えた手を見ると大量の血がついていた。
俺の血か…?
そこに国王と宰相が入ってきた。
「こ、国王…?」
霞む目で国王を見たが何の感情も感じられない冷たい顔をしていた。
宰相がしきりに国王に頭を下げている。
「だからお前は爪が甘いのだ。」
「ほ、本当に申し訳ありません!まさかミントが自分で直接会って依頼をするほど愚かだとは思わず…。」
国王は舌打ちをした。
「ユリウスよ…。すまんな。この国でこれから奴隷制度を運用するつもりでな。その為に奴隷をある程度準備する必要があるんだよ。お前たち勇者パーティーは本当に今までよくやってくれた。だが、やり過ぎた。正しく横暴な貴族を捕らえ、正しく都市の揉め事を解決して…。立派だ。しかし、その裏で相当な恨みも買っていたのだ。」
何を言っているんだ?
朦朧とする意識の中で考えた。
「簡単に言うとお前たちはこの国にとって邪魔になったんだ。正義、安全、民衆を守る、立派だがそれだけでは世の中は上手く回らんのだよ。」
その時再びドアが開きミントが入ってきた。
「ミ…ミント…。」
俺は掠れた声を絞り出した。
ミントはこちらに目もくれず国王に話しかけた。
「予定通りいきましたか。」
「ああ。」
その様子を見て宰相が驚いた顔を見せた。
「国王、これは一体?」
「見ての通りだ。ミントはわざと依頼する時に顔を晒したんだよ。そして依頼者が掴まった際は自分の名前を出すように言った。ユリウスの性格なら仲間に相談するがいなければ国王である私に相談にくると読んでいたのだ。」
「ならば何故私にその事を…。」
ミントが宰相を刺した。
「な…何を…?」
宰相が倒れ込んだ。
「これで宰相を疑ったユリウスを宰相が迎え毒を盛った。人身売買の犯人である宰相を刺したことによって相打ちとなったという訳だ。」
国王が冷たい笑いを浮かべる。
「ごめんなさい、ユリウス。でも魔王討伐を考えていればいい時と違って世の中は複雑になっているの。正しいだけじゃ生きていけないのよ。」
ミントは寂しそうに笑った。
「ユリウスよ。お前は勇者だ。英雄として後世に名を残すことになるだろう。それを捻じ曲げるような事はせん。このまま魔王討伐をし国の為に忠義を尽くしたという事で幕を引いてくれ。」
俺は薄れゆく意識の中で話しを聞いていた。
そうか…。
やっぱりミントが犯人だったのか…。
レイナとザイアスに言わなくては…。
皆で魔王軍と戦ってたときはよかったな…。
魔王は復活すると言っていたけどその時はもっと話がしたいな…。
人間が魔王軍を襲っていた…そういう捉え方もできるよな。
でも、本当にこの戦いを終わらせたかったんだ…。
駄目だ…。
何も考えられないや…。
レイナ…。
子供の事頼む。
俺も一緒に育てたかった…。
結局俺はやりたい事何もできなかったんだな…。
悲しいよ…。
………。




