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第3話

「やっぱり疲れたときには甘い物だよね~」


「まあ、そうだな」


 学校から千種をおんぶして帰ってきたあと、おれ達はリビングで甘いジュースを飲みながらくつろいでいた。


 その後、ソファーに深く沈み込んで、疲れを取るかのようにぐでーっとしていた千種から、グーと腹の虫が鳴るのが聞こえた。


「えへへ~、お腹すいたね~」


「ちょうどお昼だしな。なんか作るから待ってろ」


「うん、ありがと~」


 そういうわけで、おれは昼食を作り始める。この家では、炊事はおれの役目だ。いや、違うな、炊事洗濯掃除もろもろの家事はほぼ全ておれがやっている。まあ、高校生で家事ができる人のほうが少ないだろうし、おれは慣れているからそれで構わないしな。


 さて、なにを作るか……。まあ、お昼に手間の掛かる料理を作るのも面倒だし、軽めで手早く出来る物でいいだろう。だとすると……、チャーハンあたりでいいか。


 メニューを決めたおれはすぐに調理に取りかかり、お腹を空かせて待っている千種のために手早くチャーハンを作り終えた。


「ほら、できたぞ」


「わ~、チャーハンだ~、いい匂い~」


「食べる前にちゃんと手を洗ってこいよ」


「は~い」


 そういえば、学校から帰って来るときに千種にお兄ちゃんみたいと言われたが、今のやりとりは本当に兄妹みたいだな。いや、どっちかというと親子か。


 そんなことを考えていると、手を洗い終えた千種が戻ってきた。


「いただきま~す」


「いただきます」


「ん~、おいし~」


 頬に手を当てて嬉しそうにおれの料理を食べる千種を見ていると、こっちまで嬉しくなってしまう。こうやって、とても美味しそうに食べてくれるなら、こちらとしても作りがいがあるというものだ。


 ただ、それと同時にこういうところが、おれがこいつを甘やかしてしまう理由のひとつなのかもしれない。うーむ、やはりもう少し家事とかやらせたほうがいいのだろうか?


 まあ、現時点では特に問題はないんだが先々のことを考えると……、とそのようなことを思いながら食事を続けていると、千種がチャーハンを食べ終えたようだ。


「ごちそうさま~」


「お粗末様でした」


「いや~、最霞くんがうちに来てくれて本当によかったよ~。わたし料理なんてほどんどできないしさ~」


 料理以外もできないのでは、と思ったのだがそれは黙っておこう。その代わりに、おれが先ほど思っていたことを口にする。


「まあ、高校生のうちはいいけど将来はどうするんだ? ずっと誰かが作ってくれるとは限らないぞ?」


「将来か~。う~ん、そうだなあ………………。あっ、そうだ~」


 頬に指を当ててしばし考えていた千種が、名案が閃いたと言わんばかりに両手をパンと叩いて口を開く。


「最霞くんがわたしの旦那さんになってくれればいいんじゃないかな~」


「なっ………………」


 まったくこいつは突拍子もないことを恥ずかしげもなく言いやがって。言われたおれのほうが恥ずかしくなってしまい、つい顔を逸らす。


「最霞くんはわたしがお嫁さんだとやだ~?」


「それは……」


 現状の千種には家事力はほぼないのでそう言う意味での魅力はない。だが、こいつは非常に整った顔立ちをしている上にスタイルまで良いので、そう言う意味ではかなり魅力的な女の子と言っていいだろう。


 まあ、なんにせよ恥ずかしくて回答しづらいのでスルーさせてもらうために質問に質問で返させてもらおう。


「……仮にそうなるとして、家事はおれがやるんだろ? なら、仕事のほうはどうするんだ、共働きか?」


「え~、やだ~、働きたくないよ~」


「お前なあ……」


「い~じゃん、最霞くん、わたしのことを養って~~~」


 少し前までの平然とした表情から一転して、すがるような目でそんな残念なことを言ってきた。まだ、同居を始めてから1週間ちょっとだが、おれはこいつのことを甘やかしすぎたのかもしれない。


 ……いやでも、これは本当におれだけが原因なのか? むしろ、おれがこの家に来るまでここに居た千種母に原因があるのでは?


 実際、おれが家事を出来るようになったのは母さんに理由があるわけだしな。まあ、考えていてもわからないし、この件は一旦おいといて未だにおれに視線を向けている千種娘の相手をしよう。


「……さすがに仕事も家事も全部おれなのは大変すぎるだろう。その場合、お前はなにをするんだ?」


「う~ん、そうだなあ………………。それなら~」


 なにかを思いついたのか、千種はイスから立ち上がっておれの目の前まで歩いて来た。そして、両手を伸ばしおれの頭を抱きしめる。そうなると位置関係の都合上、おれの顔が千種の胸にうずまった。


「よしよし~、今日も一日お仕事お疲れ様~、えらいえら~い」


 千種はまるで子どもをあやすように優しい声を出しながら、おれの頭を撫でてきた。


「こんな感じで、日々の疲れを癒やしてあげるとかどうかな~?」


「………………と、とりあえず、離してくれ」


「あっ、ごめん、嫌だったかな?」


「嫌ではないけど……」


 不安げな目でおれを見る千種に対しおれはそう返事をする。


 うん、嫌ではないしなんというか、可愛いし良い匂いがするし大きいし柔らかいし温かいし心地いいしで、一瞬養ってもいいんじゃないかなと思ってしまった。


 例えば将来、仕事で疲れて帰ってきたときに今のをされたら、なんかすごい癒やされそうな気がする。


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