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第1話

「寝てるのかよ……」


 高校での入学式とホームルームを終えたあと、少し用があり職員室に行って戻ってきたら、隣の席の女の子が机に突っ伏して眠っていた。


「このまま放置して帰るわけにもいかないよなあ。けど……」


 やたらと気持ちよさそうにしているその寝顔を見ると起こすのは気が引けてしまう。しかし、こうして見るとやっぱり可愛い寝顔だなあ、というか元々の顔が良いんだが。


 中学生のときに、やたらと男子にモテていた学校一の美少女とやらがいたが、記憶にあるその子の顔と比べても勝るとも劣らない容姿だと思う。それに、腰あたりまで伸びている紅色の髪もとてもきれいで彼女によく似合っている。


 ……と、つい見入ってしまったが、ずっとこうしているわけにもいかない。このまま放っておいたら、こいつはあと数時間くらい眠っているかもしれないし起こすしかないか。


「おい、起きろ、千種(ちぐさ)


 そう言いながら、千種の肩を揺らしていると少ししたあと反応があった。


「……うーん、あと5分だけ~」


「駄目だ、起きろ」


「……じゃあ、せめてあと10分だけ~」


「おい、増やすな」


 おれは思わず千種の頭にチョップを入れてしまう。その結果、千種は眠るのをやめて机から身体を起こし、自分の頭を手で押さえながら口を開いた。


「うう~、最霞(さいか)くん、痛いよ~」


「いや、かなり軽めに叩いたからな。ほら、バレバレの嘘をついてないで帰るぞ」


「……れて…………から……して」


「なんて?」


「疲れて立てないから起こして~~~」


 そんなことを言いながら、手を引っ張って立ち上がらせてくれと言わんばかりに千種は両手を上げた。


「あのなあ……。なんでそんなに疲れてるんだ?」


「だって~、今日は入学式だったでしょ~」


 千種は話すのも面倒だといった感じで気怠げに話し始める。それと同時に、手が疲れたのか上げたままになっていた手を下ろした。


「ああ」


「ということは~、昨日までは学校がなくて~、今日が久しぶりの登校でしょ~」


「そうだな」


「だから~、もう体力の限界なんだよね~」


「体力が少なすぎるだろ……」


「いいじゃん、起こしてよ~。君とわたしの仲でしょ~」


「仲っていっても知り合ってからでいうとまだ2週間くらいだけどな。……はあ、わかったよ。起こしてやるから、もう一度手を上げろ」


「わーい~、ありがと~」


 そう言って、再び手を上げた千種の手首のあたりをつかんで引っ張り起こす。しかし、おれの力が強すぎたのか、それとも体力の限界ゆえに千種の足元がおぼつかないせいか、千種は立ち上がったあと、おれのほうに倒れ込んでそのまま抱きついてきた。


「わ、悪い。大丈夫か?」


「うん、平気~。こっちこそごめんね~」


 唐突に女の子に抱きつかれてついドキリとしてしまったおれに対し、千種のほうは照れる様子もない。まあ、こいつはだいぶ変わってるから、この程度は気にならないのだろう。


「じゃあ、帰るぞ」


「そ~だね~。帰ろっか~」


 疲れているせいか、明らかに歩くのが遅い千種の歩調に合わせおれもゆっくりと歩き、ようやく昇降口までたどり着く。そして、互いに上履きから靴に履きかえたところで、千種が床にぺたりと座りこんだ。


「おい、どうした!? 具合でも悪いのか!?」


「…………れた。…………ない」


「なんだ、もう一度言ってくれ!」


 おれは千種の声がよく聞こえるように、座って耳を近づける。


「もう疲れた~。歩きたくない~」


「……はあ。お前ってやつは」


 その言葉を聞いて呆れたおれは頭痛でもあるかのように自分の頭を手で押えてしまう。まあ、怪我とか病気じゃなくて安心したからいいけどな。とはいえ、このあとどうしたものか。


「…………して」


「はいはい、今度はなんだ?」


「おんぶして~~~」


 両手を広げ小さな子どものように駄々をこねるその姿は、15歳児という言葉がしっくりくる。だが、精神面は子どもっぽくても、身体のほうはちゃんとした15歳の少女である。

 いや、とある一部分、と言いつつ二つ存在するその膨らみに至っては15歳にしては大きめな気がする。なので、おんぶするのはあまりよろしくない気がするんだが……。


「いいのか?」


「なにが~?」


「……いや、気にならないならいいや」


 そう言って、おれが後ろを向いて背中を差し出すと、千種はおれの肩に手をのせておぶさってきた。


「ありがと~。じゃあ、よろしくね~」


 その言葉を受けておれは立ち上がり、昇降口を出て歩き出す。幸い、校門までの道には誰もいないので人の目は気にしなくてよさそうだ。


「……あ、そういえば重かったりしない? 大丈夫?」


 一応、女の子として体重は気になるのか、それともおれの身を案じてくれたのか、普段とは違い真面目な口調でそう訊いてきた。


「ああ、大丈夫。軽いよ」


「そっか~。よかった~」


 おれの言葉に安堵したのかすぐにいつもの気の抜けた口調に戻る。まあ、実際のところ重くはないので問題はなさそうだ。

 ただ、身体が密着している上に柔らかい膨らみを背中に感じるのでそちらのほうは問題と言えば問題だ。あと問題と言えば、仮にも千種は女の子なのにガードが緩そうなのも問題である。


「……気になったんだが、中学のときとかもこういうことを男子にしてもらったりしてたのか?」


「ん~、いや~、男子だと最霞くんが初めてかな~」


「そうなのか?」


「さすがのわたしだって相手は選ぶからね~。なんというか、最霞くんは……」


「……おれは?」


「お兄ちゃん、って感じがするね~」


「さいですか……」


「さいですね~」


 なんかこう、もっと良い感じの言葉がくるのを一瞬期待してしまったのだが、返ってきた言葉におれは肩を落としてしまった。さきほど、おれに抱きついてしまったときにさして気にする素振りがなかったのも、家族みたいなものだからということなのかもしれない。


「あ~、それと~」


「それと?」


「最霞くんのことは信頼できるってわたしの勘が言ってるからね~」


「……そういえば、お前の母親も似たようなこと言ってたなあ」


「ふっふっふ~、わたし達親子は勘が鋭いんだよ~」


 千種は自信満々にそう言い放った。おんぶをしているせいで顔が見えないが、絶対にどや顔をしていると思う。だって、「どや~」って言ってるし。


 そのあと、千種は話すのも疲れたのか喋らなくなったので、おれも話しかけることはせず、無言で歩き続ける。そして、10分足らずでおれ達はとあるマンションへと到着した。そのあと、エレベーターに乗り千種、いや正確には千種の親が借りている部屋の前まで来る。


「着いたぞ。鍵を開けられるか?」


「うん~、ちょっと待っててね~」


 千種はポケットから鍵を取り出して、家の鍵を開けた。そのあと、ドアを開いておれ達は部屋の中に入る。


「ただいま~」


「はいはい、おかえり」


「うん~、最霞くんもおかえり~」


「ああ、ただいま」


 そう、千種が住んでいるこの部屋にはおれも一緒に住んでいる。つまり、千種と2人暮らしをしているわけだが、だからといっておれ達は家族でもなければ恋人でもない。かといって、小さいころから一緒にいた幼馴染でもなければ許嫁とかでもない。まったくもって奇妙な話だと思う。


 そんなことを考えていたら、おれは千種と一緒に暮らすことが決まった日のことをふと思い出していた。


第1話を読んでいただきありがとうございました!


それと、もしこの作品を気にいったり面白いと思ってくれた場合は、下からブックマーク・評価・感想などをもらえると嬉しいです。


それらをしてもらえると、すっっごくモチベが上がって続きを書くのを頑張れますのでよろしくお願いします!

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