と・も・だ・ち
とある県にある大学病院、そこには小児科がない。昔はあったのだが、無くなったのだ。その中で1番有力な噂を今回は話したい。
看護師の女性Aさんは昔その病院の小児科に勤めてました。そしてある日Aさんは先輩にとある事を聞きました。
「ここは小児科はありますが、入院してる子っていませんよね?」
「そうね。まぁ1つはそんなに重症の子がいないからね。」
「ん?1つは……?」
Aさんは先輩の言葉に少し引っ掛かり聞いてみました。
「そこに食いつくの?まぁいいわ、教えてあげる、子供はね、入院すると連れて行かれるのよ。」
「連れて行かれる?」
「まぁ病院あるあるね。あの世によ。実際にこの病院に入院して退院した子……いないのよ。」
Aさんはオカルトなんて信じた事がありませんでした。しかし、神妙な面持ちでいう先輩にAさんは少し恐怖を覚えた。
それからしばらくして1人の男の子が緊急搬送されたのです。病名は肺炎でした。しかし重度の肺炎となっており、親御さんも必死に声をかけていました。そのおかげか男の子は意識を取り戻し、また眠ってしまいました。
「あの子、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。呼吸も安定しているし、抗生物質も聞いてきたわ。熱も下がったし明日には退院出来るわよ。」
「そうですか。良かったです。」
Aさんはほっと胸を撫で下ろしました。そうして再び病室に目をやると先程はいなかった女の子がいました。
(妹さんかな?)
Aさんは少し気になったけど他の患者さんの見回りもあった為業務に戻ったのです。それから1時間後の事です。あの男の子の部屋からナースコールが鳴ったのです。
Aさんと宿直の医師2人で向かうと心肺停止時の音がけたたましく鳴っていたのです。すぐに心臓マッサージをしました。しかし既に脈はなくその男の子は帰らぬ人となりました……
「なんで……1時間前はなんともなかったのに……」
休憩室で塞ぎ込んでいると先輩が来ました。
「やっぱり……連れて行かれたのね。」
「先輩……」
「私もショックだったわ。呼吸は安定してて、心臓に持病もなかった。なのにいきなり急変してこんな事になるなんて……」
「先輩も初めてだったんですか?」
「ええ、私も先輩から聞いてたけどまさか本当にこんな事があるなんてね。」
「私……さっきあの子の部屋で女の子を見ました。妹さんかな?と思っていたのですが、次に見た時には居なくて……」
「……あなた、それは誰にも言わない方がいいわ。」
「な、何故です?」
「あの家族に……いえ、あの子に妹も姉もいないからよ。」
その言葉にAさんは衝撃を受けました。では、Aさんが見たのは本当に勘違いなのか……はたまた幽霊だったのか……
その2週間後また1人の男の子が入院しました。病名は胃腸炎でした。しかし、懸命な処置でなんとか持ち直して元気になりました。
「Aさん。僕はいつ退院するの?」
「うーん……先生に聞かないと分からないけど、今週中には退院できるかもね。」
「そっか!じゃあそろそろお別れ言わないと!」
「ん?誰に言うのかな?」
Aさんは看護師の誰かか、先生なのかを聞いてみました。しかしその子から返ってきたのは全くの見当違いの答えでした。
「ううん、女の子だよ。入院してるって言ってたから僕が先に退院できるからね。」
「女の子?」
Aさんは男の子の言葉に冷や汗が出ました。今この病院に入院してる子供はこの子だけです。そして……女の子という言葉にAさんは2週間前の事を思い出しました。
「お、女の子なんていないと思うなー……だって今入院してる子供は君だけだから。きっとお見舞いに来た子が嘘を吐いたのよ……」
「そんな事ないよ!だってあの女の子毎回夜しか来ないもん!」
Aさんはその真っ直ぐな目が嘘を吐いてるようには見えませんでした。
「その子がどこの病室か……わかる?」
「うん!こっちだよ!」
案内して貰った部屋は……空き部屋でした。
「あれ?退院したのかな?」
「うん、きっとそうかもね。君ももうすぐ退院なんだから早く元気になろうね!」
「うん!」
男の子は元気に返事しました。しかし、その部屋は元々は空き部屋でした。それを言わずにおく事にしました。そうしてこの件は終わったと思っていました。しかし、それから2日後の事です……その子の病状が急変したのは……
「はぁ、はぁ……先生!」
「Aさんか!危険な状態だ!急いでくれ!」
Aさんは先生の指示に従い懸命に処置をしますが一向に事態が好転しません。またこの子も……と一瞬頭によぎります。そんな中顔をあげた時病室の扉から誰かが覗いていたのです。それは女の子……2週間前に亡くなった子の部屋にいた女の子でした。そしてその子はにちゃーっと笑ってどこかへ行きました。
「先生……この子転院させましょう。」
「な、何を言うのかね!」
「ここにいたら助からないです。」
Aさんはまるで能面の様な顔で言っていました。先生も他の看護師さんもAさんの言葉に返答出来ず、その後すぐに近くの病院へその子は救急車で運ばれました。
次の日、あの子は無事に容態が安定したと報告を受けました。しかし、もっと驚いた事……いえ、恐怖した事がありました。それは救急車で運ばれてる時からすでに呼吸は安定していたという事だったんです。つまり病院から離れた事で容態が安定したというのでした。そして起きた男の子はこう言ったそうです……
「いつも夜に遊びに来てた女の子がこっちはおいで!って言ってたんだ。でね、僕がお母さんとお父さんの方へ行こうとすると凄く怒って怖かった。そこから走って逃げてたけどすごい早さで追いかけてきてもうダメかもって思ったらもうそこから女の子は追いかけて来なかったんだ。でも……」
『友達になってくれるって言ったじゃん!嘘つき!嘘つき!嘘つき!』
「ってずっと言っていたんだ。」
この事件がきっかけでこの病院には小児科病棟は無くなり、そして小児科もなくなったのでした。
いかがでしたか?
この話は実話ではありません。ですが……うわさ、作り話が事実になる可能性も……
病院で小児科がなかった時は思い出してみてください…